涙が枯れるまで

安堂

富北ミチル

生徒立ち入り禁止の屋上から口笛が聞こえる。放課後の戸締りをしていた僕はドアを開けて屋上に出る。黒地のセーラー服に真赤のリボン、富北ミチルがそこに居る。


「ミチル、まだ帰っていなかったのか。」

僕はこれまでもう何十回してきただろうかという質問をする。

「ここに居たら先生が来るかなって。」

「もう6時だろう。暗くなって来た、親御さんが心配するぞ。」

「…大丈夫だよ。」

ミチルは一瞬だけ哀しそうな色を目に浮かべ、そのまま僕から視線を逸らす。

その理由は分かっていた。つい他の生徒と同じような言い方をしてしまった事を後悔する。

「帰るね。先生にも会えたし。水曜日って嫌だね、先生の授業が無いもん。」

「会いにくればいいだろう、大体は職員室に居るから。」

「二人きりじゃないと嫌だよ。」

「どうして。」

「ふふ、教えてあげない。」


すっと僕の横を通り過ぎ、ミチルはドアノブを捻って出て行った。

階段を降りて行く足音と同時に聞こえる口笛が、なんだか耳をくすぐった。




続く

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