第10話

 上司の指示で対象者のもとへと急行する。常に白と赤を意識した上司のファッションセンスも如何なものかと思っていたが、実際に会った対象者も黒だらけのなかなかのセンスの持ち主だった。

 玄関に通されると、そこから続く部屋の入口にうちの上司の悪趣味で配達された自立型自動人形のケースがあるのが見えた。

「で、何か妙なことを言っていませんでしたか?」

 いくつかの世間ばなし的な質問のあとに尋ねる。

 彼は不機嫌そうな顔のまま視線を少しばかり天井をさ迷わせて呟く。

「殺してくれって」

「他には?」

 手帳にメモをとってはいるが、この会話の全ては上司に直通である。

 いわゆる盗聴。

 お気に入りの赤いヘッドホンで本社に向かいながら車内で聞いているはずである。

「特には」

 彼は首を横に振った。

「そうですか。では最後に一つ。貴方にとっての幸せとはなんですか?」

 この質問に彼は何かを思い出したかのように顔を歪めこう答えた。

「決して売り買いできないものかな」

 その答えに納得しつつ、苦笑いを浮かべるしか自分にはできなかった。

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