大学生探偵小宮山杏奈の四季
平野真咲
春の眠りは永遠に続く
春の眠りは永遠に続く 1
僕と
「誰か、証人となってもらえませんか?」
誰もが後ずさりして彼女から離れていく。人の波は僕の前から消えた。当たり前のことだ。目の前で人が死んでいる。その前で堂々としていられる方が不自然なのだ。
「……手伝っていただけませんか?」
僕と目が合った彼女は、僕に向かってこう言った。
それは誰でも嫌がることだろう。彼女の提案を受け入れれば犯人と疑われるのは間違いない。だが、僕は断る気にはならなかった。周りの目があるというのもあったが、それよりも……。
小柄で童顔な容姿を忘れさせるほどの強い責任感を感じる発言。僕に視線を真っすぐ向けるきれいな瞳は、本当に助けを求めている目だった。
「はい」
僕は返事した。彼女は安堵したようだった。
「ありがとうございます。では、この入り口から誰か出てこないか、そしてここから立ち去る人がいないかを見張っていてください。私は裏口の方を見てまいります」
そう言うと、彼女は建物の裏へと回り込んで行ってしまった。
僕は彼女に言われた通り建物の入り口とその周辺の様子を見る。幸いこの状況下なら目の前の死体を見ることは無いので、幾分かは気が楽だった。
目の前で血を流して倒れているのは20代くらいの女性。ここは大学のキャンパス内だからここの学生と見て間違いないだろう。女性はうつ伏せに倒れており、頭から血を流して倒れている。
僕が見張りを続けて10分ほど。パトカーのサイレンが聞こえてきた。
「えー、こちら警察です。みなさん下がってください」
拡声器を持った警察官がアナウンスすると、警察官たちが人込みをかき分けて僕たちを遺体から遠ざける。あっという間に黄色いテープが貼られ、合掌が終わると、検死が始められた。
「で、あんた、どうして遺体の目の前で突っ立っているわけ?」
僕は声をかけられた。恰好からして鑑識ではない。おそらく刑事だろう。
「え、あ、それは、ある人に頼まれて」
「ある人お?」
刑事さんは僕に顔を近づけながらにらんでくる。僕は一歩後ずさった。それだけこの刑事さんの威圧感は凄まじいものだった。
「まさかあのお嬢さんじゃあないだろうな」
「あのお嬢さんとは?」
僕がそう聞いた直後に、僕に見張りを頼んだ女性が現れた。
「お疲れさまでした。無理を承知で引き受けてくれたこと、ありがとうございました」
彼女はペコリとお辞儀をした。僕もそれにつられてお辞儀をする。まだ高校生くらいなのに随分しっかりしている。
「またあんたか、お嬢さん」
一方の刑事さんは頭に手を当ててうなだれていた。
「どうも
「探偵ごっこは終わりだ。それに、この件は自殺で処理する」
「いえ、この件についてはもう少し調べた方がいいのではないでしょうか」
彼女は臆することなくきっぱりと言った。
「君はまだ子どもなのだから余計な口を挟むな。事件を捜査するのは刑事にまかせなさい」
風見警部補、と言われた刑事さんはこう言う。彼女は臆することなく言った。
「私は二十歳を過ぎてますからもう大人ですよ。
そして、私も一介の探偵です。この大学で起きた事件ですから、私も協力できることはあるはずです」
「……えっ、え……」
彼女の言葉に、刑事さんよりも僕が反応していた。二十歳過ぎている? まさか僕よりも年上だった……? しかもここの大学生、そして、探偵をやっている……。
彼女は僕に向き合った。
「私は
「
「佐伯さん、今回はありがとうございました。では早速報告を……」
「だから探偵ごっこは終わりと言っているのだ!」
刑事さんの声が響く。だが僕はこの探偵をまじまじと見つめていた。
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