魔法少女をプロデュースすることになった件について

森田ムラサメ

第1話 僕と契約して……

いつからだろうか、すべての物事に無気力になり外に出ることさえ倦怠感を覚え始めたのは……

俺は気付けば、オタク、ニート、童貞、etc……。世の中の不名誉である称号のほとんどを手に入れていた。


なぜ自分ばかりが……

なんてことを考えることは自然と無くなり、これが世の摂理なのだと受け入れるようになった。しかし、神は拙者を見捨てなかった。いや、最後の希望を託したのだ。


「僕の代わりに、魔法少女のプロデュースをしてくれないかな?」


ある日の昼下がり、俺の部屋には今まで見たことのないような動物が入り込んでいた。そして日本語を話す。そしてそいつは俺に一つ約束をしてくれた。


「一つだけなんでも願いを叶えてあげると約束するよ」


回答を出すのに三秒といらなかった。願ってもない機会だ。俺はもう引きこもりじゃないんだ。そんな言葉が脳内を駆け巡っていた。これを逃したらもう二度とないチャンスだ。


「お、お願い致します候!」


「なら、願いをどうぞ」


「莫大な収入を下さい」


「報酬を用意すればやってくれるんだね」


「勿論で御座いまする」


「じゃあ、契約完了だね。これがマニュアルだからよく読んどいてね。仕事内容は全部書いてあるから」

そう言うとどこからか辞典のように分厚い古ぼけた本が現れた。かなり使い込まれているようで中々汚い。使いまわしが疑われるがまあ良しとしよう。


「か、かしこまりました」


「それと、その見た目じゃ警察呼ばれちゃうから見た目を変えさせてあげよう。まあ気分的なものだけどね」


的を射た意見だ。俺が少女と一緒にいたら通報事案なのは間違いない。それにこの見た目で人に話しかけるのは辛い。蔑みの眼で見られてからスカウトなんて……

それはそれで何と言うか、そそる。

が、それでは仕事にならない。



「じゃあ、そうだね。その人形はどう?」


その人形。それは俺の部屋にある良く分からないサムライのマスコットだ。可愛らしいデザインだが何で俺が持っているのかは見当もつかない。


「お願いします」


目の前が明るくなると同時に身が軽くなっていった。今まで無駄に蓄えた贅肉とは今日でおさらばだ。そう俺には明るい人並みの生活が約束されたのだ。

やったぜ!


「じゃあ、よろしくね」


「分かりました」


「あ、言い忘れたけどもう元には戻れないからね。仕事からもその身体からも」


動物は気持ち悪い笑みを浮かべてそう言い放った。俺としては複雑な心境になった。

何せ見た目は別に戻らなくてもいいし魔法少女達と一緒にいられる事に不快感は無いし、給料も貰える。楽な物じゃないか。

それを如何にも嫌なことだという言い方をされると俺の人格を否定されたような気がしてたまらない。



そんなことより、取りあえずは業務内容の確認だ。確か「魔法少女のプロデュース」所謂、プロデューサーというやつだろう。そんな仕事に付けるとは夢にも思わなかった。いや、思ってたら怖いんだけど。

マニュアルを開くと中には様々な仕事内容が書かれているらしく目次だけで三ページにも及んだ。とりあえず業務内容の項目を開く。


まず始めに能力の解説だ。図が付いていてわかりやすい。

拙者の能力には便利な物がいくつかあるらしい。これをうまく使っていうことで仕事をこなしていくんだろう。


其の一、「少女への記憶操作」

記憶の改ざんは義務ではなくあくまで必要な場合のみ行うらしい。しかし、俺が人様の記憶を操るなどもっての外なので使うことはないだろう。


其の二、「少女への能力の付与」

これは義務、やらなくてはいけないらしい。能力は必ず少女本人の要望を聞いたうえでその意見を尊重して決めること。確かにこれはその通りだ。俺が好き勝手に能力を付与していたら大変なことになってしまう。


其の三、「魔法少女の素質チェック」

便利機能の様なもので魔法少女候補の中から素質のある人間が分かるらしい。因みに全ての少女が魔法少女候補らしい。


其の四、「空中浮遊、透明化可視化切り替え、空間作成、その他諸々」

飛べる、消える、空間作れる。まあ色々できるらしい。流石に活字を読み続けるのには飽きてきた。どうにか出来ないのだろうか。


今日は必要最低限なことだけを呼んでおこう。そう決めた俺の行動は早い。目次を開き必要そうなものを見つける。


「魔法少女管理者の義務?」

これだ。これは説明されてない、多分かなり重要だろう。

ページは最終頁だ。

開くというより最後のページ以外すべてのページを落とす感覚だ。


一、本部の連絡はこのマニュアルの連絡ページに浮かび上がり条件達成、時間経過で消えるので必ず一読し  た上で達成に向け行動すること


二、魔法少女を悪用し、利己的な使用方法をとらないこと


三、全ての任務には魔法少女の意見を聞いたうえで行動すること


四、魔法少女になる際には周りの人間から忘れられることを必ず伝えたうえで決断してもらうこと


五、福利厚生の徹底を行うこと


以上四項の厳守を徹底するように



簡単だ。こんな仕事があったなんて知らなかった。

連絡ページはこの前の見開きページだ。一つだけ書き込まれている。


「魔法少女管理者への就任おめでとうございます。早速ですが魔法少女を一人スカウトしてください。手順はマニュアルを参照。また給与は月ごとの働きを見て評価し翌月一日に現金支給」


魔法少女を一人スカウト。つまりは一人の少女を見つけ出せということか?

いや、周りの人間から忘れられてしまうのだ。そう簡単にはいかないだろう。というよりも魔法少女の適正が高い少女はどれぐらいの割合なのだろうか。


いや、それを分からせるための任務か。

初給料を手に入れるべく俺の向かう先は外。いざ外へだ。


そういえば、もし。もしもだ居もしない友人から仕事を聞かれたらだ。

そうしたら俺は自信満々でこう答えるだろう。


「俺は魔法少女をプロデュースすることになった」

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