老夫婦とアンドロイド~それから~

彼野あらた

老夫婦とアンドロイド~それから~

 アンドロイドのハンスが加藤夫妻の家にやって来てから、半年ほどが過ぎた。

 2人と1体は、今ではすっかり良好な関係を築いている。

 隠居して悠々自適の暮らしを送っている夫妻は、家の中ではハンスと共に団らんし、家の外へもハンスを連れて出かけることが多くなった。

 そうやって穏やかに人生の後半を楽しんでいた夫妻だったが、一つ懸念があった。


正一郎せいいちろうたちは、今度の正月も帰ってこないのか」

 清治きよはるは憮然とした表情で言った。

 正一郎とは加藤夫妻の一人息子である。だいぶ以前にこの家を出て、自分の家庭を持っており、小さいながらも会社を経営している。

「去年までは帰ってたのにねえ」

 理沙りさは心配そうな表情で清治に応えた。

「ハンスを贈ってきた時にも顔を見せなかったしな。どういうつもりだ」

「仕事の都合と言っていたけど、そんなに忙しいのかしらねえ」

 会話する夫妻の傍らにはハンスが黙然とたたずんでいた。

「ハンス、何か知らない?」

 理沙が何気なくハンスに尋ねる。

 知っているわけがない、と思う清治だったが、

「はい。知っています」

 ハンスの意外な答えに驚いた。

「知っているのか!?」

「ここに来る前、正一郎さんの家にいったん預けられたとき、彼らの話を聞きました」

「それなら、どうしてそのことを今まで言わなかったんだ?」

「正一郎さんから秘密にしておくように言われていました。今までは質問されなかったので答えませんでしたが、現在、私の管理権限は清治さんと理沙さんにありますので、お二人が望むのであれば、情報の開示は可能です」

「この辺りは、良くも悪くもアンドロイドということか……」

 つぶやく清治に、理沙が不安そうに声をかける。

「どうする、あなた? 正一郎が秘密にしておきたがっているのなら、聞かないほうがいいかしら」

「いや、聞こう。このままではすっきりしない」

 清治は決然と言った。

「教えてくれ、ハンス」


「危ないところだったな……」

 事態が一段落した後、清治はひとりごちた。

 正一郎は事業がうまくいかず、借金で首が回らない状態だったのだ。

 あちこち金策に駆け回っていたが、親には頼りたくなかったので、会いに来るのも控えていたのだった。

 ハンスを手に入れた時も、いっそのこと売り飛ばしてしまおうかと思ったのだが、親に会いに行けず、面倒を見ることもできない後ろめたさから、清治たちのもとに贈ることにしたという。

 そんな事情を知った清治は、さっそく持っていた資産を処分し、息子の借金返済に充てることにした。

 最初は清治の申し出を拒否しようとした正一郎だったが、清治に一喝されて結局受け入れた。

 そうして借金を返済した上で、清治は事業を建て直すアドバイスまで行い、無事に事態を収拾したのだった。

「まったく、いつまでも経っても手間のかかるやつだ」

「でも、ハンスが教えてくれたおかげで助かったわねえ」

「ああ、そうだな」

 理沙の言葉に清治は同意する。

 事態を知らないままだったらと思うとぞっとした。

「しかし、これで隠居生活ともおさらばか」

 清治は正一郎の会社の顧問に就任することになったのだ。

 大きな企業ではないため、それほど報酬が出るわけではないが、年金もあるので、夫婦二人と1体のアンドロイドが暮らす分には問題ない。

「フルタイムで働くわけじゃないから、現役時代ほどじゃないでしょう」

「まあな」

 妻とハンスによって生活にいろどりがあり、新たな仕事によって張り合いもある。

 第2の人生もなかなか悪くない。

 そう思う清治だったな。

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老夫婦とアンドロイド~それから~ 彼野あらた @bemader

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