第7話 団子二重奏
わたしは肩を落とす。
どう説明すれば、この状況が伝わるのか、自信がない。
だけど、自分の意志に反して、口と舌が動き出した。
『わたしは魔女じゃない。爽香。日本人よ』
びっくりして手で口を抑えても、まだ勝手に動いている。
ヒゲさんも、その内容には目をまん丸にしていた。
「にほん……とはどこだね」
『アジアの東、太平洋の西。ヨーロッパからじゃ遠いでしょうね』
「よー、ろ?」
訝しげな顔のヒゲさんに、わたしは泣きそうになる。
「これ、どういうことなの!?」
「さっきの団子じゃ。隠し事ができなくなる薬を練り込んである。
――言っておくが、解毒薬なんざまだ渡しとらんよ」
「酷い!」
『酷い!』
わたしの口が、自動で一人二重奏する。
ヒゲジジイ――さんとか付けたわたしが間違いだった、人を見る目がなさすぎた!――は自分の髭をゆっくりと撫でて、ふむ、と唸るとわたしにまた質問をした。
「おまえさん、自分がどういう状況だと考えておる?」
『ヨーロッパの中世あたりにタイムスリップでもしたのかしら、良い方に考えて』
「悪い方に考えたら?」
『異世界ね。登場人物が車の名前のあれ、好きだったわー』
わたしは悲鳴を上げた。
「やめて、わたしの頭ん中、勝手に引っ張り出さないで!」
『やめて!』
「すまんの、最後にひとつだけ」
本当にすまないとは思っていない顔で、ヒゲジジイはまだ何かをわたしに聞いてくる。
「エヴォヌートの名に、心当たりは」
『なにそれ』
「……本当にすまなんだな」
ほれ、と小さな瓶の栓を抜いたヒゲジジイが、それを渡そうとしてきた。
この流れでその薬を飲めるほど、わたしも素直に生きてない。じっと睨みつける――あ、だめ、何か涙出てきた――わたしの前で、ヒゲジジイは困ったように帽子を脱いで頭をかくと、懐から、草の葉で包んだ何かを取り出し、中を開いた。さっきのと、同じお団子に見える。
何を、と言う前にヒゲジジイはそれを飲み込んだ。
もぐもぐ、ごくん。と、少し間を置いてから、目を細めてわたしの顔を見る、ヒゲジジイ。
「……ほれ、効果はわかっとろ」
「それは、本当に解毒剤なの?」
「そうじゃ。このまま飲めば良い」
『間違いなく魔女避けの解毒剤じゃ』
今度はヒゲジジイの口が二重奏。
ひったくるように瓶を奪うと、わたしはその中身を飲み干した。
「……わかっとっても、勝手に声が出るのは気持ちよくないもんだの」
「じゃあそんな薬飲ませないでよ。なんでそんなことしたの」
きっぱりと言い捨てて、わたしは苦い顔をした。
薬がかなり、苦かったからだ。
「近くで魔女が見つかったと、報せがあってな」
『おまえさんが魔女じゃないかと、疑っとった』
同時に補足するヒゲジジイの言葉にウソがないことは、わたしが身をもって知っていた。
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