闇の恐怖
辺り一面真っ暗な所にわたしは立っている。
上も下も、前も後ろも全く見えない暗闇の中。
ここがどこかはわかんないし、わたしがここにいるのかもよくわかんない。
そんな闇の中、わたしに話しかける声を聞いたの。
「ここだ、こちらへおいで……ステファニー……」
それはおじいちゃんの優しい声なんだってすぐにわかったわ。
いつもわたしと遊んでくれたもの。
わたしのお願いをたくさん叶えてくれたおじいちゃん。
わたしの考えている事が手に取るようにわかっていたおじいちゃん。
そんなおじいちゃんも……もう、いないの。
あれはとっても晴れた日。
みんなでおじいちゃんのお見送りをしたのよ。
ママからは「おじいちゃんは神様の所へ行くのよ」と言われたわ。
たくさんの人々が教会に集まって、牧師様のお話しを聞いたわ。
最初はみんなが何をしているのかよくわからなかった。
知らないおじさん達が綺麗な箱を運んで来て、牧師様の隣に置かれたの。
兄さんが「あの箱にはお爺様が入っているんだよ」
黒い服を着た人たちがとても悲しい顔をしていたのを覚えているわ。
それで気づいたの、おじいちゃんとはもう遊べないんだって。
それからみんなとおじいちゃんが神様の所に行く準備を手伝ったの。
スコップを持ったおじさん達が綺麗な箱に湿っぽい土をたくさんかけたわ。
わたしはおじいちゃんの箱が見えなくなって、とても悲しくなったわ。
もう、おじいちゃんの優しい声は聞けないと思ってたの。
でも、今聞こえるこの声はおじいちゃんの声にそっくり。
「おいで、ステファニー……」
おじいちゃんの姿は見えない。
それでも優しい声はずっと聞こえる。
「おじいちゃん……どこなの?」
暗闇の中で見回した。
「ここだよ、ステファニー……」
声がした方向を向くと、小さな光があるのに気づいた。
「おじいちゃん……なの?」
光の方へ手を伸ばしても届かない。
「おいで、ステファニー……」
小さな光は
「そこにいるの……?」
暗闇の中でゆっくりと歩きだした。
「そうだよ、ここだよ……」
一歩進むごとに白い光は段々大きくなっていく。
わたしは一生懸命走った。
おじいちゃんに会いたい、いつも優しかったおじいちゃんに……
「さぁ、おいで……」
白い光に真っ直ぐ手を伸ばした。
少しでも早くおじいちゃんに届くように。
あと少し……もう少しで――
やった、届いた――
そう思った瞬間、強い光に包まれた。
あまりにも眩しかったけど、目を瞑ってる暇はなかった。
白い光の先に黒くてもやもやしたものが遠くに見えた。
あれは……おじいちゃん?
光がゆっくりと無くなり、白いカーテンと自分の手が見えた。
さっき力一杯伸ばした私の腕。
起き上がって部屋を見回した。
見慣れた家具たちと新しい部屋。
確かにわたしの部屋。
さっきのは……夢だったのかな?
コンコンコン
扉の向こうから軽いノックの音がした。
程なくして、ママの声が聞こえる。
「ステフ?もう起きたかしら?」
少し安心した。
ちゃんとママの声が聞こえる。
ここはあんな真っ暗な所じゃないみたい。
「おはよう、ママ……起きてるよ」
「おはよう、ステフ。入っても良い?」
「うん、いいよ」
わたしの返事を聞いてママは入って来た。
温かいお湯が入ったボウルとふわふわのタオル、そしてホットミルクと甘いはちみつを載せたワゴンと一緒に。
「あら、目が赤いわよ……嫌な夢でも見たの?」
ベッドで座り込んでいるわたしにママは駆け寄った。
「ううん。大丈夫よ、ママ」
そう言って笑ってみせると、安心したように微笑み返してくれた。
「それじゃあ、顔を洗って綺麗にしましょ」
わたしの手を引いて、ワゴンに乗せられた温かいお湯で洗った。
ママにはおじいちゃんの事、言わないでおこうかな。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
この家族に仕える執事のマットは、朝から大忙しで一息つく暇もない程だ。
主にダスティンとディアナ、アンソニーを起こし終わった後には、全員分の朝食を準備する事が朝一番の重大な仕事である。
スザンナが準備を少し手伝ってくれた為、いつも通りの時間ぴったりに起こしに行けた。
今は一階の玄関ホールで館の主人達が食堂までやって来るのを待つのみである。
ただ待つのも時間を無駄にしているようで、落ち着かないマットは昨晩の出来事を考える事にした。
昨晩、スザンナが言っていたアランと言う名。
それだけがマットの心に引っかかっていた。
己の記憶が確かであれば、二年前に葬儀を行ったお方の名前である。
言ってしまえば、今の館の主人であるダスティンの父親に当たる人物だ。
それをなぜ、今年から雇い始めたスザンナが知っているのか。
それが謎だった。
彼女には前の主人の話を一切していない上に、館の住人の誰もあのお方の話をしていないからだ。
もしかしたら、ステファニーが何か話したのかもしれない。
だが、それはおかしい。
ステファニーとアランはとても仲が良かったが、大好きだった祖父を思い出して深く悲しむような子であり、スザンナが
何より、あの時のスザンナの顔は想像を絶する恐怖に
今思い出しても哀れな程引きつった顔をしていた事を覚えている。
昨晩、あの場所で何があったのか。
それはスザンナ本人じゃないと分からないだろう。
だが、恐らくスザンナは何も答えないだろう。
これは年長者故の勘という奴だ。
きっと頭に強く、その恐怖が残っているはずだ。
そんな彼女に強く問い
これもまた、年長者だからこその知識だ。
誰でも嫌な記憶を無理に聞き出されたくないものだ。
それも、亡き者の名を
マットにはスザンナがどれ程の恐怖を刻まれたのか想像出来ないが、余程恐ろしい夢を見ていたのだと思う。
だが、マットはスザンナが言っていた言葉に違和感を感じていた。
知らないはずの名前を呟くが知らないと言う。
誰にとってもこれは矛盾でしかないだろう。
彼女が見た悪夢の中でどのような状況でそうなったのか、いくら考えても検討が付かない。
しかし、今回の件はあまり関わらない事にしよう。
マットはそう決めた。
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