MK5(まじでKする五秒前)

ハイロック

第1話 「まじで殺される五秒まえ。」

天津冴瞬あまつさえ またたきは超能力者である。

といっても、世界を大きく変えるほどの能力を持っているわけではない。

彼は一日に一回だけ時間を五秒ほど戻すことが出来る。

戻ったことは彼以外には認識できない。


彼が自分の能力に気づいたのは中学1年生の時であった、あまりに愚かな理由で死にかけたことがある。

彼の地元には自殺の名所で「シャインクリフ」と呼ばれる崖があった。断崖絶壁となっており下は海ですらない。陸にそびえる断崖絶壁、落ちたら間違いないなく死が待つ、そういった場所だった。

 自殺志願者以外は近寄らないその場所だっだが、彼とその友たちは、若気の至りでそこに訪れていた。

 そして、若者特有の愚かさで彼らは崖の限界まで近づこうとしていていた。

 とくに瞬は無鉄砲な男だったので、我先にと崖の先端に近づいて行った。

「うわっ、やべえな。」

と先端から一メートル手前くらいで足はとまった。一メートル手前だからまだ余裕はある、しかしその余裕がよくなかった。


 瞬の友達は冗談のつもりで、ほんのおどかしのつもりで彼を軽く押した。強く押したわけではない。1m先の崖に落ちるはずがなかった。

 しかし、瞬はバランスを崩して落下した。

叫び声を出す余裕すらなく、瞬は落ちていった。彼は死を覚悟した。


うそだろっ。こんなので終わりか。

なぜおれは崖なんかに近づいたんだ。


叫び声をあげるよりも、後悔だけがおそっていた。

その後悔は、彼に「もしやりなおせるなら」と言う強い思いを与えた。



次の瞬間彼は崖の上にいた。全くわけがわからなかった。

彼は崖から落ちていなかったのだ、崖の先端まではまだ3mはあった。

 そして、そこで彼は足を止めた。

 すると、先ほど瞬のことを押した友人は瞬に向かって

「おい、なにびびってんの。おまえが行くって言い出したんだろ。」

と言った。

彼には訳が分からなかった。

「おれ、おまえに押されて落ちなかったけ?」

そう聞くしかなかった。彼には先ほどのできごとは間違いなく現実だったと思われたからだ。


「そんなことするかよ。もう少し進んだらびっくりさせようとは思ったけどな。」

友人は笑いながらそういった。


落ちた事実は無くなっていた。

時間は確かに崖から落ちるまえに戻っていたのだった。

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