青春初心者
諸星 秋凪
第1話①始まりの日
お兄ちゃんの高校の卒業式を見て当時中学生だった私は思っていた。私は何をしているんだろう……と。人生なんでも上手くいくなんて美味しい話は漫画やアニメの世界だけ。少なくとも私はそう思っている。でも、それでも、私が見た兄の卒業式は皆が笑いながら涙を流していた。楽しそうに思い出を語っていた。高校生だから?共学だから?多分違う……。中学生だって高校生だって女だって男だってそんなのには何も関係ない。……じゃあなんでわたしは上手く出来ないの……ねぇ……なんで?……教えて……。
『♪〜〜♪〜〜』
遠い記憶の中で遮るように音楽が鳴っている。……朝か……。私はスマホを手に取りアラームを止めた。まだまだ寒いが少しずつ春の暖かさを感られるようになってきていた。
「ん〜〜っ!はぁ……入学式……か。」どこか重たい腰をあげつつ窓へ向かう。薄いピンクのカーテンを開き、さらに伸びをした。
私の名前は水森 絢香(ミズモリ アヤカ)。今日から高校生。正確にはもうちょっと前からだけど……。中学生の頃の苦い記憶が頭をかすめた。高校生になったのだから中学の時のような失敗を私は犯すわけには行かない。だって『楽しく儚く淡い青春はたった1度きり。』なのだから。
真新しい制服に袖を通し、リビングへ出る。母は私に気づくと「あーちゃん……おはよ。制服いい感じじゃん」と声をかけてくれた。いつも通りの陽気な母だ。
「ママ、高校生なんだからあーちゃんはやめてよね!(笑)」ダイニングテーブルに座りつつ母へ言葉を返す。
「そう〜?ならあーちゃんも高校生なんだから゛ママ゛はやめたらぁ〜?(笑)」なんじゃそりゃと思いつつ私は母に朝ごはんを催促した。……母のご飯はお世辞にも美味しいとは言えないが。
朝食をそそくさと済ませ私は洗面台へ向かった。高校に合格してからというもの『高校生デビュー』を果たすために私は10代向け雑誌を読み漁り色々と研究したのだ。薄い学生向けメイクをまずはじめにする。そして肩下まである髪の毛を緩く巻き、ピンクのリボンのバレッタで止めた。前髪もストレートパーマで巻きヘアスプレーをかける。ここまでやって鏡の中の私を見つめた。……中学のモサい私とは大違いだな……と少し苦笑してしまうほど別人だ。でもこれでいい。私は高校で変わるのだから。
「じゃあ、いってきまーす。」私は玄関で叫んだ。すると母はまぁってぇーー!とリビングで同じように叫びながら玄関へ走ってきた。
「何?」
「頑張れ!絢香!」母はそう言うと肩を叩いた。その手のひらの暖かさに母の励ましを確かに感じたのだ。
「……うん!!いってきます!」
「いってらっしゃい。」母は少し悲しい笑顔で私を見送ってくれた。なぜこの時私は気づかなかったのかと今でも自分を責めている。ー・母の心の闇に。
中学校は都内の伝統校の中高一貫の女子校に通っていた。だからスカートも無地の膝下。リボンも首にきっちり。靴下は白くて短い。もちろん化粧や巻き髪など言語道断。今考えても……と言うか当時も思ってたけど……ダサかった。うん。非常にダサかった……。今は黒いスクールソックスを膝下まで履き、膝上10センチでチェックのスカートを履いている。中学の反動で私は割と校風の自由な高校を受験した。それはやはり正解だったようだ。
トコトコ歩き最寄り駅につく。すると男子学生だが同じ高校の制服を身にまとっている人を見つけた。ネクタイの色からして学年は同じ。声をかけてみるのもいいのかもしれない……が、そんな勇気は私にはなかった。隣の列に並び列車が来るのを携帯をいじりつつ待っていた。その時だった。
「水森……絢香……?」不意に私の名前が呼ばれたのは。
「え?」慌てて振り向くと先程の男子生徒だった。よくよく見てみると小学校の時に仲の良かった同級生だったのだ。
「……かっきー??」恐る恐る私は聞く。するとその男子生徒は太陽のような笑顔で「おう!」と言った。
彼は私の同級生であり全く連絡を取っていなかった幼馴染みの1人。柿原悠太(カキハラ ユウタ)である。人見知りをしなく誰とでも気楽に話してしまう付き合いやすい友人のひとりであった。小学校卒業を期にすっかり疎遠になってしまっていだが、彼から話しかけてくれたあたりその性格は変わっていないように思えた。
「久しぶりだな!お前も自由が丘高校なのな。」悠太は3年間の空白をものともせず、私に明るく話しかけてくれた。
「あ……うん。」女子校に3年間もいたおかげかすっかり男子との喋り方がわからなくなっていたことに気付かされる。
「あれ??絢香って確か中学受験したよな?」心臓がドクンとうなる。彼に悪気はない。分かっている。ただ単に知りたそうに悠太は聞いてくる。
「あ……うん。でも……その……合わなくて……色々。」
「ほ〜。よくわからんが、なんかあったら相談しろよな〜!」悠太はまたも太陽のような笑顔で返してきた。それからも電車の中でも話しかけてくれて沢山笑わせてくれた。これが男子か……。小学校の頃のバカやっていた悠太にはまったくもって見えなかった。凄くドキドキした。まさか……とは思いつつ考えないようにして通学路を悠太と共に歩いた。
「でもなんかあれだな〜。しばらく見ないうちに絢香可愛くなったな!別人みてぇだ!」
「ぅえええ?」突然の事にびっくりして声を荒らげてしまった。本当に男子対して耐性がないのだと思い知らされた。これはいった言葉も言葉で悪いが。
私はびっくりして後ずさってしまった。
(え……ん?可愛い??おおーーー???)心の中であるから言える幼児のような発言。いきなり後ずさったせいでバランスを私は崩してしまった。
「あっ……」
『ドン』
「いったぁ〜……」後ろへ下がってしまい人とぶつかってしまったのだ。
「すっすみません……。」私は振り向いて謝罪をするともうぶつかってしまった彼女は歩き始めてしまっていた。
「あっ……」まあいいか。と心の中で片付けて私は立ち上がろうとした。すると彼は手を差し出してくれた。
「大丈夫か??」太陽のような笑顔は変わらず私を起こしてくれた。
「あ……ありがとうございます。」照れながら私は足元を見た。
「え?」多分先程の彼女のものであろう。くまの可愛いキーホルダーが落ちていたのだ。自分からぶつかってしまいその上ちゃんと謝罪できなかったことに罪悪感を感じ私はそれを拾うことにした。
「……何……組かな……??てか……同じ学年??……背が高かったから先輩かも……」入学早々の前途多難にだいぶ困ってしまっていた。
「ぷぷっ……。」悠太は唐突に笑いだした。
「ど、どうしたの?」
「面白すぎて……!」
「ええええ?なっ何が??」私が聞いても悠太は笑っているだけだった。
「ちょっ教えてよー!」すると悠太はさっそうと歩きだき振り向いた。
「入学早々遅刻すんぞ。」それはいけないっ。と思い私は小走りで悠太を追いかけた。まだ麗かな春の朝だった。
これがすべての始まり。何も知らなかった子供な私が少しずつ階段を上がっていく。ずっと地下いにいたから上までの距離なんて分からない。ただただ明るい光を求めて歩き出す私。でも……気をつけて?人生全てが上手くいくなんて、面白くないでしょ?
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