第漆夜 家

その昔、私の母がまだ小学校3年生くらいの頃。両親と6歳上の姉、そして母が引越しをした。

母は私も通っていた小学校に転校してきた。引越しと転校自体には、さして問題は無い。

…いや、あったにはあったのだが。


問題が浮き彫りになったのは、引っ越してから約3年後のことだった。

母が中学一年生、母の姉…つまり私の叔母が19になる年のことだった。


叔母は高校を卒業後、地元の洋品店で務めていた。その店のオーナーは、店のテナントが入っているビルを経営する程のやり手で、地元でもそこそこ名の通った人だった。

特にこれといって問題はなかった。…はずだった。


ある日、母が学校から帰ってくると姉の様子がおかしいと感じた。

姉は、「自分は○○屋のオーナーの前妻だ。この娘は勘が強いから、私のすることの邪魔になる。だから憑いてきたのだ」と語った。


これには両親…私の祖父母はとも驚き、すぐさまオーナーを呼んで事情を説明した。そして、叔母と会わせたらしい。


するとオーナーは

「…たしかに自分の前妻かもしれないが、自分にはどうすることも出来ないし関係ない」

と言い、帰ってしまったと言う。


前妻はそれ見たことかと。あの人は昔からそういう人なのだ、と言いけたけたと笑った。


そして、前妻を皮切りに次々とおかしな事が家中で起こるようになった。

誰もいない部屋から物音がしたり、確かにそこにあったものが別のところにあったり…。

ドアの開閉、壁を叩く音など…。ありとあらゆるポルターガイスト。


そして、叔母の体に憑依する霊たち。

祖母の兄弟と昔一緒に遊んだ事のあると話した戦没者の霊や、母や叔母を羨ましいと語る水子。他にもこの土地は勘の強いものが住んではいけない土地なのだと助言した狐の霊(第捌夜参照)もいた。


この話を私に語ってくれた時、母は「よく夏に、ほん怖やあなたの知らない物語をやるでしょ?まさにソレだった…」と。

祖母や叔母が、あの家のことをあまり語りたがらないのはそういうことなのだ、と教えてくれた。


そして、洋品店のオーナーの前妻が語った「すること」…。

それがどのようなものかは今となっては分からないが、と母はこう語った。


オーナーは、車に乗ったまま海に飛び込み自殺した。そして、経営してたビルや店も潰れてしまった。弟が経営してた服屋も店じまいした。


オーナーの自殺は、私の地元では割と知られている。

それは、田舎であり地域住民のネットワークのようなもののせいで、よく見られるものではある。

誰それさんが何をやった、誰それの娘が結婚したなど…。情報が回るのが早いのだ。


そして、田舎ゆえに自殺や事件など…血なまぐさいものが地元民の記憶には残りやすいのだ。

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