第56話大衝突3

11:00AM、先進国では財閥、政治家、高級官僚、金持ち

などは極めて手際よく地下に逃れた。多くの庶民はすべて見放

されたのだ。


12:00、各国の軍隊ではもうすでに地下司令部、大規模作戦壕

が完備されていて作戦将校と特殊部隊壕に潜ったが一般の兵士の

ほとんどは家族の元に戻っていた。


13:00、ジェームズとジャッキーの乗ったアポロジュニアは

高度4000mを切ってきた。ヒマラヤ、アルプス、ロッキー等

の山々はすでに黒雲の上に突き抜けていて無数の人々が

ナムストーンの大合唱で浮遊している。


14:00、人口密度の高い中国からインド東南アジアにかけては

天空での浮遊の密度が他とそう変わらないということはものすごい

数の人々が地上で、この黒雲の真下で押しつぶされそうな圧迫力の

中でもがいているということか?


15:00、オーロラ稲妻が地を走りすさまじい雷鳴がとどろく。

マイナス20度の寒波、氷の嵐が荒れ狂う。不気味に輝く黒雲が

高層ビルに絡みつく。通風口から鍵穴からドアの隅から黒雲は室内


に入り込んでくる。気圧が急速に高まりキーンという音がして

目が回り始める。ナムストーンと叫んで次々と人々が天空へ舞い

上がっていく。


16:00、全地球全世界の庶民が今當に押しつぶされ

ようとしていた。すさまじい圧力だ。稲妻とオーロラの黒雲

は地上を隅々までくまなくはいずり始めた。


どんな強固な建物でも中に入り込んできた。頭がキーンと

痛くなる。強烈な耳鳴り。ぐるぐると目が回る。立って

いられない。座ってもだめだ。みなうずくまった。


約30億人の人々がこの最終の決定的瞬間を迎えた。

「もうだめだ押しつぶされる!」

頭が割れそうだ。眉間がきりきりといたんできた。


するとその時、多くの人々は黒雲の上空から天の声を聞いた。

遠くで大合唱が聞こえる。大空の大合唱。それは、

「ナムストーン、ナムストーン」

の大合唱だった。


地上の庶民の多くは氷の雨を見上げた。

「ナムストーン、ナムストーン」

一人また一人と口ずさむ。

全世界のいたるところで人々は叫び始めた。

「ナムストーン、ナムストーン」


地上の大合唱は天空の大合唱と一つに溶け合った。

地上をはいずりまわっていた黒雲は地下へと潜る。


天空の人々も今は皆地上に舞い降りてくる。

地球全体ががナムストーンに包まれた。


宇宙に広がる大きなやさしい瞳に見守られ、

世界はピンクに包まれた。少しずつ

天空には青空が戻ってきた。


そうした中でもどうしても救われない人たちがいるものだ。

臆病な人やひねくれ者プライドだけが高くて独善的で人の

善意に素直になれない人たちだ。


意外と多く素直にナムストーンを言えなかった人々は約10億人

もいたのだ。残念ながらこれらの人々は生き残れなかった。


17:00、宇宙母船は静かに南太平洋に着水した。

オーロラ輝く黒雲は海中へも向かった。


ついに30時間が過ぎた。地上はすべて明るさを取り戻した。

まるで台風一過のすがすがしさだ。何事もなかったかのように

またいつもの日常に戻ったかに見えた。


海や山や森川辺。牧場や湖。大自然は元のままだった。

小鳥のさえずり。牧場の馬や牛も何の変化もないようだ。

ただ、人たちの中に生き残れなかった一部の人たちがいた

という事実を除いて。


浮遊していた人たちはそれぞれの国や故郷にゆっくりと

下降し戻っていった。非常にゆっくりと着地し。何事も

なかったかのように青空を見上げ両手を広げて大きな欠伸をした。


不思議なメロディーが聞こえてくる。天使の歌声だ。人々は

やさしい母のまなざしを天空に感じた。それは銀河系ほど

もある大きな瞳がじっと地球を見つめていたからのようだった。


オーロラに輝く不気味な黒雲層は、さらに密度を高めながら

地下へ地下へともぐりこんでいった。すべてのシェルターに、

地下壕に、地下の宮殿に。どんなに完璧に密封していても

黒雲は進入してきた。海にも。


北極海、潜水艦が浮上した。ハッチが開いて一人だけナムストーン

と言いながら這い出てきた。ほかは全員死んでいた。


地下宮殿も独裁者もみな眉間を撃ち抜かれ死んでしまった。エゴや

邪悪が眉間からアメーバ彗星SACに吸い取られたとしか思えない。

一様に皆同じ、そんな死に方だった。


東京霞ヶ関の地下官僚システムは崩壊した。悪意ある

官僚や政治家、極悪人はすべていなくなった。SACは

地球上の全ての邪悪を吸い取るクリーナーだった。


これは40億年に一度あるかないかの宇宙の大異変でも

あったようだ。

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