第53話アポロジュニア4

(チャーリー)「私が外に出ます!」

(ジェームズ)「いやいい。ジャッキー!」

(ジャッキー)「ナムストーン、ナム・・・」

(ジェームズ)「ジャッキー!聞こえるか?」


(ジャッキー)「こちらジャッキー。大丈夫です。

周りが明るくなりだしました」

(ジェームズ)「早く戻ってこい!」


(ジャッキー)「あ、嵐がやみました。淡いピンク色で

心地よく輝いています。何か見えます、天空一杯に。

瞳です。大きな瞳です。何かとても心が落ち着いています。

ふわっと雲に浮いているみたいです」


(ジェームズ)「早く戻ってこい!ジャッキー!」

(ジャッキー)「キャプテン。眠たくなるほどいい気持ちです。

何か聞こえてきました。天使の歌声のようです」


(ジェームズ)「何を言っているのだジャッキー?窓から見ると

外はすごい嵐だぞ。どこにいるのだ?声は間近に聞こえるのに」


(ジャッキー)「ZZZZZZZ」

(ジェームズ)「眠るなジャッキー!もどってこい!」


(センター)「なにかおきたのか?」

(ジェームズ)「ジャッキーが外で。しばらくお待ちください」

(ジャッキー)「今そちらに戻ります!」


ジャッキーがそう言った直後にジュニアが大きく揺れた。

船内の圧力が急速に高まってきた。稲妻が走り、

オーロラが舟を取り巻く。すごい圧力だ。


(ジェームズ)「みな、大丈夫か?」

(チャーリー)「頭がキーンとする」

(モハメド)「目が回る、目が回る」

(ジェームズ)「ナムストーン!ナムストーン!」


アポロジュニアの周りのオーロラは消え揺れも止まった。

ゆったりと雲の上に浮かんでいる。


雲はピンクに輝き、天空には大きな瞳が見える。

天使の歌声が聞こえてくる。


ゆったりと眠っているジェームズ。

ハッチからジャッキーが入ってくる。


(ジャッキー)「はーい、キャプテン。ただいま戻りました」

(ジェームズ)「お帰りジャッキー。どう?ハッピー?」

(ジャッキー)「イエス、ベリーハッピー!

チャーリーとモハメドは?」


二人は操縦席にうつ伏せているチャーリーの肩をたたいた。

ぐらっと振り向いたチャーリーは死んでいた。


両眼をカッと見開いて眉間から打ち抜かれたように丸い穴

が開き、血が流れ出ている。モハメドも同じだ。


(二人)「チャーリー?モハメド?」


(センター)「キャプテン!何が起きたのか報告してくれ!」


(ジェームズ)「報告します。死者2名生存者2名。生存者は

ジェームズとジャッキー。死者2名はチャーリーとモハメド。

眉間を撃ち抜かれて即死です。原因は何かさっぱりわかりません。


舟は今すこぶる安定していて揺れもなく気分は良好です。SACと

同じスピードでこのまま地球軌道に入ります。SACは淡いピンク

色に輝いていて雲に乗っているような感じです」


(センター)「二人は何で死んだんだ?」

(ジェームズ)「さっぱりわかりません。急にキーンと音がして

すごい嵐と揺れの中、圧力が急速に高まってきて苦しくなり

目が回ってきて思わず叫びました」


(センター)「助けてくれ!と叫んだのか?」

(ジェームズ)「いいえ、ナムストーンと叫んで気絶しました」

(センター)「?」


(ジェームズ)「ふと気が付いたらジャッキーが帰還していて

周りは嵐も止んでとても静かで心地よく、二人でチャーリーと

モハメドを起こしたんですが、眉間を撃ち抜かれ即死のようで」


(大統領)「二人に確認したい。圧力が急速に高まり頭がキーン

となった時ナムストーンと叫んで二人はなぜか助かっていると

いうことだな?」


(ジェームズ)「そうです。その通りです」

(大統領)「誰も信じないだろうが、これを公表しよう」


宇宙船アポロジュニアは地球への落下軌道に入った。

地球から見ると、まさに黒雲が天空を覆い尽くし、

氷の嵐に巻き込まれる直前で稲妻、オーロラ、雷が轟き、

ヒョウが降り出してきた。


急速に温度が下がり、気圧が高まって息苦しい。

黒光りする粒子がまとわりついてくる。


一陣の突風が吹いて、いよいよ氷の砂嵐が磁気の乱れを

伴って30時間地上で荒れ狂うのだ。


地上1万数千メートル、宇宙船から地球が見える。ピンク

の雲のようなアメーバ彗星の最先端に押されるように見え

隠れしながら地上へ落下していく。


落下地点の南太平洋まであと数周。ヒマラヤの峰々が下方に見える。

その近くに小粒の何かが見える。飛行機ではない。なんとそれは、


水平飛行する5人のスカイダイバーだ。インド洋から東アフリカに

かけてアポロジュニアは少しづつ高度を下げていく。


スカイダイバーの五角形のシルエットが下方のあちこちで見えてきた。

ジュニアは南極上空を通過して南米を北上しヨーロッパ上空を横切る。


スカイダイバーの密度が急に増加して天空一杯に広がってきた。

こちら側から見ればピンク色の幸福な雲に見えるが、


地上から見上げればまさに氷の嵐の到来だ。嵐の雲を突き抜けて

5人のユニットダイバーが宇宙船のすぐ真下まで無数に広がり

浮上してきている。


ほぼ宇宙船と同じ高度でとどまり、ともにゆっくりと落下していく。

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