第51話アポロジュニア2

独りよがりな危険性がどうしてもにじみ出てくるから、

後回しにされ後輩に追い抜かれていったのだ。


自分では教官でもいいNASAに残れればと思っていたから

こんな幸運はない。一つ間違えば9.11のテロに

参加していてもおかしくはない自分を感じていたのだ。


ジェームズは典型的な英国紳士でその情報処理能力と判断力

は的確だ。あまりに慎重すぎるために予備飛行士のままできた。

最初にして最後のチャンスだと思っている。


ジャッキーはめっぽうメカに強い。体も強靭で陽気な性格だ。

ただ一つ身長が170㎝に満たないために後回しにされてきた。


大統領が続ける、


「戦いはこれからだ。何か異変が起きたなら失敗は許されない。

君たちの正確な情報掌握、分析、判断が60億全人類の生死を

分かつのだ。最重要な責務である。覚悟して出発してくれ。

万が一判断がつかない異変が起きたならば」


皆は真剣なまなざしで大統領を見つめた。


「その時は必死でナムストーンと唱えてくれたまえ。以上!」


『ナムストーンだって?大統領は気でも狂ったか』

とチャーリーは思いつつ顔だけは真顔で大統領を見つめていた。


モハメドは、

『ナムストーンなんて知らないね。俺にはアッラーがついている』

と大統領を睨み返した。


ジェームズとジャッキーは二人同時に、

「ナムストーン!」

と唱えていた。大統領は右手握りこぶしをどんと

左胸にあてて、


「イエス、ナムストーン、OK?」

「ナムストーン、OK!」

4人は一応声をそろえてナムストーンと答えた。


ガス状アメーバ大彗星SACはさらに詳しく分析された。

惑星間をものすごい速度で加速しながら進み、星に近づく

と急速にブレーキがかかる。高速移動中は高濃度に凝縮し


ブレーキがかかると拡散する。組成は炭酸ガスと水が90%

後がN、P、Sの化合物である。いわゆるハレー彗星と同じ

組成である。通常の彗星には核というものが存在するが、


SACには存在しない。拡散濃縮を繰り返しながら途中の

小惑星群を飲み込み吐出しして濃度を高めて進む。

まるで天空のアメーバそのものだ。


ほうき星のようにケイ酸塩のチリの尾や炭酸ガスイオン

のプラズマの尾がないのも特徴だ。ただしほうき星と同

じように周囲は水素のコロナ雲に包まれている。


木星軌道からははるかに離れていたが、それでも大きくSAC

の軌道は押し曲げられた。火星との間の小惑星群に次々と

衝突しながら火星をかすめた。この時SACの軌道はさらに


捻じ曲げられて地球直撃コースに定まったのだ。SACは

なぜ今まで発見されなかったのか?彗星というのは、いきなり

現れるから彗星というのだということで発見は難しい。


彗星はどこからやってくるのか?それは太陽から何兆キロメートル

も離れた冥王星の外、太陽系の果てからやってくる。230万年

というとてつもなく長い年月を経て、やっと木星を通過した。


このころ初めて存在が確認された。宇宙空間移動中は高濃度の

塊になるので高性能望遠鏡でもとらえにくい。心臓の鼓動の

ように収縮拡大を繰り返しながらアメーバ彗星は近づいてくる。


小惑星と衝突するときは大きく拡大して、その惑星の邪悪な物、

醜悪なものを全部吸い取ってしまう、天空のクリーナーでも

あるのかもしれない。

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