第21話京都飛行

(オサム)「だいぶなれてきました。みんなの意思が一致していれば

さほど危険ではなさそうだし。大丈夫ですね皆さん?」


(皆)「大丈夫!」

(オサム)「それではいよいよ長距離の遊泳に挑戦してみましょう。

まず加茂川沿いを南下して京都タワーを一回り西の嵐山方面へ。

北山山麓を宝ヶ池へと戻りながら元の地点に着地」


大きな地図を広げながらオサムが指差していく。

(皆)「OK!」


皆でまた腕を組みなおした。

オサムの左がキーツ右がレイ。レイの隣がケムンさらにナセルだ。


一気に10メートル浮上した。円陣を作ったまま水平になっている。

みんなの意思が一致して円陣は水平のままゆっくりと加茂川を南下する。


四条五条七条京都タワーをかすめて嵐山方面へ。徐々にスピード

がついてくる。渡月橋を確認するとUターンして北山に向かい

あっという間にもとの草むらに着地した。


(ナセル)「いやー緊張した」

(ケムン)「すばらしい。これはすばらしいよ!」


(キーツ)「ちょっとせわしなかったようだね」

(レイ)「そうよそうよ、もっとゆっくり周りの景色を眺めながら

飛んでみない?」


(オサム)「わかった。じゃあ夕食を早めに済ませてもう一度ゆっくり

飛んでみましょう。夕食は焼肉です。OK?」


オサムの意見に皆急速に空腹を覚え「賛成!」と叫んで外にでた。

高瀬川沿いに木屋町から先斗町の細い路地をくだり四条大橋をわたって

南座の裏手にある大きな焼肉店に向かった。


焼肉を食べ終えると外はもう真っ暗。

町明かりの中に加茂川土手を歩く。


(オサム)「コースはさっきと同じ。今度は

     ゆっくりと飛んでいましょう。OK?」

(皆)「OK!」


まずは10数メートルゆっくりと浮上する。

夜景がとても美しい。


川面部分が黒く南に流れている。

ゆっくりとその上を南下する。


東の祇園界隈、川を挟んで木屋町から河原町界隈が一番明るい。

少し高めに浮上すると京都タワーがよく見える。


西のほうに東寺の五重塔のシルエットを望みながら、

タワーをゆっくりとかすめて、

軍艦のような京都駅の南の上空を飛び抜ける。


誰も気がついていないみたいだ。

西にひとっ飛び。嵐山に突き当たる。


渡月橋あたりに人が出ている。

少し低空をゆっくりと、これはレイの念力か?


人は間近に近づいても気がつかないみたいだ。

おそらく彼らには風のようで見えていないのだ。


旋回して北山へ向かう。風が舞い上がり木の葉が揺れた。

今夜は新月で北山の空はとても澄んでいて星が美しい。


宝ヶ池のFM放送局、

「今夜は天の川がよく見えて、こんな日が七夕だったら

彦星と織姫は安心して会えるのに」


とDJが言っている。

「あっながれぼしが。北山では珍しくありませんが

かなり低い空にたった今はっきりと見えました。

ごらんになったかたはFMスタジオBステーションまで!」


みんなは最後のフライトに入る。川端通りを高野川沿いに

今出川まで下りて来てやおらゆっくりと着地した。


滞空時間は約20分、大成功だ。

明日は朝から徹底した飛行訓練をしよう。

どうやって送り火の夜に実験をするかも考えなければならない。


あさってにはそのリハーサル、そして16日の夜8時には

五山に火がともる。果たして天空から舟を呼ぶことができるだろか?


みんなと円陣を組んで夜空を見上げながらオサムはそう思った。


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