第4話キーツカーン
○キーツ カーン
フルダ大学の医学生キーツ カーンは親の代から医者であった。
3人兄弟の末っ子がキーツである。
2人の兄も医者で2人とも独立してベルリンとハンブルグにいる。
実家はグリム童話で有名なゲッチンゲンだ。
両親はこのゲッチンゲンの町医者として今も開業している。
小児科内科が専門である。
ここで生まれたキーツは幼い頃から近くの森をさ迷い歩くのが好きだった。
二人の兄とは年が離れていたので厳格な父のもと医学書を学びながらも、
毎日何時間か森の中で心を癒していた。家の近くの森といっても
それはチューリンゲンの森へと続く里山の奥。
その入り口付近のうっそうとした原生林の森、
白雪姫や7人の小人が出てきそうな奥深い森である。
もう何年も隅々まで歩き回りお気に入りの林の祠ほこらや
小さな泉、湧き水の出るせせらぎの沢、すわり心地のいい切り株。
昼寝用の大木の平らになった大きな枝木。小鳥の声、風のそよぎ、
木漏れ日、などなど森のすべてがキーツの心を癒してくれた。
医大に入学が決まった初夏のころにキーツは久しぶりに森をくまなく歩いた。
入試から開放されて初夏の萌木の息吹を命の奥まで吸い込んだ。
歩き疲れてキーツは大枝木のベッドで心地よくまどろんだ。
夢を見ている自分を見ている自分が空から見つめている。
空の自分の瞳が急降下してまどろんでいる自分の眉間に迫った。
思わず反射的に目を開ける。眼前に自分の大きな瞳が急接近してくる。
ぶつかると思ったその瞬間、瞳の奥の奥に何かぴかっと光るものを見た。
そして目が覚めた。体中すごい汗だ。
木陰から一本の日の光がちょうどキーツの顔面を捉えていた。
まぶしいな、この光のせいか?と思いつつ右ポケットに手を入れた。
するとそこに小石が入っているではないか。栗形の、色が
かなり変化する不思議な石だ。珍しいすごく美しい石だ!
キーツはしばらく見とれていた。石は薄ピンク色に輝いて収まった。
キーツは大急ぎで家に帰り勉強机の秘密の小箱に鍵をかけて入れた。
その小箱はキーツの子供のころからの宝物がいくつか入っていた。
その片隅にピンクの石は納まった。勉強に疲れたとき時々その箱を
あけてみた。間違いなくあるピンクの石、
キーツはとても心が安らいだ。
その後勉強も忙しくなり精神科を専門として臨床、
国家試験、論文、学会とめまぐるしく多忙となり
気がついてみれば大学院も卒業間近26才になっていた。
そうしたある日、
『アンビリーバブルストーン!ドンチュウノウ?』
のタイトルを見つけた。アクセスしてみると日本発だ。
特徴ある石の形が目に飛び込んできた。
「この石は何年か前に拾ったあの石だ」
急いで秘密の小箱を探した。小箱は
すっかりほこりにまみれて引き出しの奥にあった。
開けてびっくり石は見当たらない。
そのスペースだけがあいている。
「確かピンク色のとても美しい小石だったが、
どこに消えたんだろう?」
引き出しをひっくり返してみてもやはりない。
気のせいだったのかな?もう5年も前のことだ。
少し悔やまれながら小箱を引き出しに戻し、
他のノート類もきれいに整理して引き出しを閉めた。
大きく深呼吸をしてもう一度引き出しを大急ぎであけて
奥の小箱を取り出しぱっと開けてみた。
「あっ!」
あるではないか。薄いピンク色のあの石だ。
「君はナムストーンなのかい?」
やさしく声をかけると石は輝きを増した。
間違いないナムストーンだ。
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