生まれ変わった世界はバグだらけの糞ゲーの世界でした
紅生姜
1stクエスト『オークウォーリア』の討伐
~プロローグ~ 突然の死
俺はオンラインゲームが好きだ。
もはや愛しているというレベルを突き抜けて、自身の一部となっているといっても過言ではない。
まあ今時、ネトゲ廃人なんてそれほど珍しい存在ではないがそれでも俺がネトゲ好きであることに変わりはない。
ネトゲ好きには大まかなタイプがある。
一つは特定タイトルにどっぷりハマり、とことんそのゲームを極めるのに時間を費やすタイプ。いわゆる廃人様である。
ゲームにリアルマネーを投入するかどうかは価値観なんかの問題になるのでそれは別だ。ちなみに俺は遠慮なくぶち込む。
一つは複数のタイトルを並行してプレイするタイプ。
もともとハマってたゲームに段々と飽きて、あれこれ手を伸ばしてどれも中途半端に維持している、みたいなスタイルである。
ネトゲを惰性でプレイしているプレイヤーは結構多い。月額課金ですらその手の人種は多いのだから業が深い。
友人グループなどのコミュニティがあると「今日はこのゲームで集まろうぜー」みたいな感じで転々とすることもあるらしい。俺は友達いないのでそういうのはよく分からないけれども。
一つはタイトルを転々とするタイプ。
ある程度ゲームをやり込んで飽きたら新しいゲームへと移ってまた同じことを繰り返す。
もちろん後には何も残らないが元々ゲーム自体生産性があるものでもないのだし、データを大事にしようがポイ捨てしようがそれは好みの問題だと思う。
繰り返すが俺はネトゲが好きだ。
タイプとしては転々とするタイプである。
流行のゲームには飛びつき、全力でレベリングに勤しむ。初期カンストレベルまで上げたら武器強化、製造、Pv、ギルド戦などお決まりのシステムを一通り楽しみ、飽きるまでやる。熱が冷めたら引退して、次のゲームへ移る。
無名タイトルでもとりあえずβ初日に参加して、クエストで討伐対象になった最初のマップの雑魚敵を他のプレイヤーと奪い合う混乱を楽しんで、一通り遊んで飽きたら引退して次のゲームへ。
ネトゲイナゴなんて
ゲームなんて結局飽きればただの作業なのだから、目新しさを求めるのは自然なことだろう。
そんなプレイスタイルであるから今までプレイしたタイトルは100は下らない。
やる方もやる方だが、それだけあれこれ新タイトルを連発する業界も業界である。
まあ、今ではネトゲ業界も斜陽期となりその数も減少の一途ではあるが。
そんな中俺が今、一番注目しているタイトルがある。
『アンリミテッドワールド~無限世界~』
モニタに映し出されたホームページの一番上に大きく表示された文字。
このゲームはかなりキている。
世界設定とかは正直どうでもいい。何か世界が危機になってるか、幾つかの国で争ってるからプレイヤーは何とかしろというのが世のネトゲシナリオの95%だ。
ネトゲの一番の肝はゲームシステムといってよい。職業、スキル、武器、騎乗やペット、PTなどプレイする上で必ず関わってくるシステムでそのゲームの性格が分かる。
しかしこの前世紀の遺物のごとき古臭いデザインをされたホームページからはその情報が全く得られない。
システムの項をクリックすると『ページが見つかりません』とエラーページへと飛ばされるのだ。
ただのリンクミスなのだろうが、トップページの日本語からしてかなり怪しい。
「こちらはオプンベータテストがインフォメーションす」「ゲムをプレイサキる上で注意点」「メンテナンス情?113/02の13:00より」
文字化けと誤字のオンパレードだ。一応開発運営共に国産のはずなのだが、会社は聞いたこともない。
システムの項目も作成が追っつかなくてとりあえず空白になっている可能性すらある。
巨大掲示板のスレッドも覗いてみたが
「久々にやべえぞこれwww」
「始まる前から終わってるじゃねーか」
「オラすっげえワクワクしてきたぞ」
とちらほら書き込みがあるものの見えている地雷過ぎて人が全く寄り付かないでいる。
ただ、一応良い点が全くない訳でもない。
まずNPCの立ち絵はある一定の水準を満たしている。まあどの程度ゲーム内に使われているのかは不明だが。
ホームページでは可愛いイラストなのにゲーム内だと悲惨な3Dモデルだけというのもよくある話だ。
次に声優がやたら豪華であること。ゲームの面白さとはあまり関係ない部分ではあるが、攻撃時の発声が糞のような素人ボイスだと非常にプレイが不快になるので全く無関係という訳でもない。
声優には詳しくない俺でも聞いたことあるくらいの名前を揃えているのだから、結構頑張ったのだろう。もっと他も頑張れと言いたくなるが。
俺はネトゲが大好きだ。だけど少し数をやり過ぎた。
もはや平均点くらいの量産型ネトゲだともう最初から既視感まみれであまり楽しめなくなってしまった。
だからこういうキワモノのようなゲームの糞っぷりをゲロを吐きそうにながら堪能するというのが俺の最近の楽しみとなっているのだ。
クローズβは別のゲームのスタートダッシュ中で見逃してしまったのだが、混沌の期待出来るオープンβの開始日には何とかPC前に待機することができた。
開始時刻を30分ほど過ぎたのに全くサーバーが開く様子はなく、公式からのアナウンスも一切ないがまあこの程度で動じたりはしない。
サービス開始時間が数時間ズレたりするのはよくある話だ。その日の内にプレイ出来ればまだ良しとしよう。
バイトは3日ほど休みだ、なあに時間はたっぷりある。
暇な時間、Twitterではどんな感じの扱われ方をしているかなとスマホをぽちぽちといじる。
そしてその数秒後、俺の意識はそこで途絶えることになる。
『本日15時ごろ、大型トラックがアパートへ突っ込む事故が発生し、アパート一階住人の山田 宗一郎さん33歳の死亡がその場で確認されました。
運転手の男性は現在警察で――――』
こうして俺、山田宗一郎33歳フリーターの人生はあまりにも唐突に終わりを迎えることになるのだが、まだ続きがある。
俺が次に目を覚ましたとき、そこは天国でも地獄でもなく。
『アンリミテッドワールド~無限世界~』という糞ゲー中の糞ゲーの世界だったのだ。
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