第178話 鬨声

ゆくりなく口付きの触手が方向転換、芹沢へと向けられた。



エレナへ緊切する他の触手も



ドアを押さえる触手さえも



背を向けた本体を除き



ドラスティックなまでに激しく浮遊する全触手が芹沢に向けられた。



微動だにせず硬直した芹沢と理沙本体



エレナが目にするや、いつの間にかある物が空中で互いにぶつかり、絡み合い、停止していた。



静かに仁王立ちする理沙の右手掌から延々と伸ばされた触手が…



芹沢の放った糸を空中でキャッチし、捕縛していた。



芹沢「ププ ひでぇ~ざまだな ゾンビ映画もゲームも真っ青な醜くさになったもんだ」



またあなたなのぉ~…



しつこくない…?



ちょっとお呼びじゃないんだけど~ 邪魔しないでくれる…



芹沢「お 何?なんだこれ?テレパシー?」



芹沢の頭にも伝わったのだろう理沙の声



場をわきまえなさい 慮外者…



芹沢「なんだよこれ?拈華(ねんげ)ってやつか?以心伝心とか流石にやる事が違うねぇ~化け物は…」



理沙の邪魔ばかりしやがって…



下劣な人間の分際で… っと生意気…



芹沢「まぁそう言わず俺も混ぜてくれよ テメェーに無くてもこっちにはあんだわ テメェーには色々と借りがあるからきっちりノシつけて返さないといけないんだわぁ」



エレナが芹沢と目を合わせた。



すると



突如 芹沢から新たな糸が放出されて来た。



咄嗟にバットでそれを受け止めたエレナ



糸がバットへ何重にも巻き付いていた。



エレナ「チッ」



芹沢「ふふ」



うっすら笑みを浮かべ、イかれた目つきの芹沢が言葉を吐いた。



芹沢「テメェーもだよエレナぁ 龍谷に健太、デス、キラーの恨み…その代償にテメェ~を一生ダルマにして性処理のオモチャに使ってやんだから 逃がさねぇーぞ」



エレナ「あんたこそ 多くの仲間が殺されたこの恨み…そのシンボルに鉛弾撃ち込んでやる事…忘れてないわよね」



芹沢「ほざいてろ メス猫が」



やれやれだね…下等な人間の中でも特にオスってのは… ホント救いようが無いんだよなぁ… なんちゅうか品性のカケラも無いっていうか…



肉の品質だって硬いし、マズいし…



割り込みでお前なんかが理沙の食糧に手出しするんじゃ… ないの~~



空中で絡み合い拮抗する糸と触手が瞬時に解かれ



目にも止まらぬ空中戦が繰り広げられた。



糸と触手がぶつかり合う



他方向からランダムに放たれた触手を、巧みに編み出す糸のシールドで防ぐ芹沢



また負けずにリリースされた鋼糸を骨で形成された触手の牢固な硬質部で弾き返す理沙



背を向けたまま触手のみを操作する理沙



同時に複数の糸を技巧で操る芹沢



複数の糸と触手が同時にせめぎ合い、鍔(つば)迫り合い、迎撃し合った。



輪切りに切断され、ピヨッた触手が床でのたうち



壁に押しつぶされ、切断された鋼糸がただの糸へと変わる



急調で荒々しいラジカルな撃ち落とし合いが実行され



激しい攻防



苛烈な兵仗(ひょうじょう)による剣戟(けんげき)が廊下の中心で実施された。



めまぐるしく交錯しながら本体へと攻撃を仕掛けるが、途中で弾かれ、互いにそれを許さず、互いに譲らず、互いに一歩も引けを取らずな接戦が遂行されていた。



互いに無傷、ある意味均衡した戦局



互いのマニュピレーション操作された飛び道具のみが中央に残骸として重なり合い、朽ちていた。



敵同士の激しい潰し合い



大いに歓迎なこの戦闘シーンを目にするエレナがハッとした。



常人の域を逸脱した意味不明な戦いに見入ってしまっていたのだ。



戦闘に夢中になってる理沙と芹沢



今なら…逃げるチャンスだ



エレナはチラリと金属バットを目にした。



そして、熱戦中の2人を目にした。



流石にこの巴の中、金属バットで参加するのは無謀…



まずは拳銃を手に入れなければ…



こいつらは両方共 敵…



どっちも助ける義理もなければ、死のうが関係無い…



いや…むしろ両方、共倒れてくれればそれにこした事はない…



私には好都合な話し…



傷つけ合うも良し、勝手に死んでくれれば尚も良し



でも私の勘だと恐らくこの2人は決着がつかない…



2人をやるには私しか…



どっちにしても今の私じゃ役不足…



2人の争いを目にするエレナ



やっぱ武器が必要だ…



今がチャンス… 逃げよう…



絶好の好機、エレナがこの場からの一時脱出を図った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



中央自動車道



東名、関越の2道、京都殲滅作戦



これらの大戦に加え、中央自動車道でもZACT対ゾンビの激しい戦いが繰り広げられている



そして、2道の第1防衛ラインが突破された  同刻



山口一等陸尉率いる防衛隊が侵攻を死守する中



これからC3爆弾を用いたブラックホークによる高架橋破壊作戦が行われようとしていた。



しかし…



作戦開始間近に…



何の前触れも無く次々と感染者に異変が生じ、動揺する隊員達



タタタタタタタタ  タタタタタタ



軽機関銃から連射された銃弾がノソノソ歩む感染者の身体へ斜めに銃穴を空け、身体から伸びた気色悪い物体を銃弾が捕らえた。



身を捩(よじ)らせ、転げる感染者



銃弾が貫き、触手が地面で暴れていた。



タタタタタタタタ タタタ タタタ



「なんなんだよ…こいつらは?」



タタタタタタタタ タタタ



「いいから撃て…」



「投擲班 早く投擲投擲 早くぶち込め」



タタタタタタ タタ



5~6個の手榴弾が同時に投げ込まれ



いくつもの爆発でボロキレの様に奴等の身体が八方へと吹き飛んだ



タタタタ タタタ タタタタタタ



「タンクバスターの次弾はまだか?もたもたしないで早く発射急げ」



「MMAT準備出来ました 撃てます」



「ならいいからさっさと撃てぇ」



「中MAT 5発目 よ~い しゃ~」



「タンクバスター6発目 発射ぁぁ~」



一斉に放たれた砲弾が奴等の群れに着弾、砂煙りを巻き上げ、多くのゾンビや感染者が行動不能な程ズタボロに転げた。



そんな前線で奴等を迎撃する中



山口率いる35名の隊員等が迷彩型ボディーアーマーやベストを着用、鉄帽を被り、弾薬や手榴弾の補充を行っていた。



これから防壁を降下しブラックホークと共に掃討作戦の任務にあたる、選ばれし35名の隊員達の姿だ



「ザザ こちらUHマルフタ…コマンドポストへ 目的ポイント到達 目標の高架橋 視認した ザザ」



「ザァ こちらブラックホークマルサン 同じく視認しました ザザザ」



「こちらコマンドポスト了解 ブラックホーク各機へ 3分後に投下を開始しろ」



「ザ UH01了解 これより投下態勢に入る ザザ」



「ジィ こちらUHマルフタ こちらも了解 コンポジションタイプ3爆弾投下カウントダウン開始する ザザ」



「ザザ ブラックホークマルサン 同じく了解 ザザ」



「ザァー UHマルヨン了解 C3

投爆 2分15秒前 ザァ」



ブラックホークによる爆弾投下まで2分を切った頃



山口の前に集まる隊員達



隊員達を見渡し、山口が口を開いた。



山口「よし 後1分もしたら、ブラックホークが橋を破壊する…それに伴い、これよりこの防壁を降下する、降下後は、3隊に別れての散兵戦術隊形に入る 1班林分隊、2班立川分隊、最後に俺の山口分隊 基本この3分隊に別れて行進間を横隊4、縦隊4の陣形を崩さず真ん中に必ず給弾係を入れて行動しろ、後は各個の散開行進に移って構わない、また…この下に降りたら目標捕捉後は主に各自の判断が要求されるだろう、各個うろたえずに己の判断で迎え撃て、自由射撃を認める それから…ここからが重要だぁ、いいかぁ これから奴等は大群で襲いかかってくるだろう…慌てず、落ち着いて行動しろ、速やかな弾薬補充、そして正確な射撃で奴等を取りこぼす事無く洗浄しろ いいなぁ? 分かったかぁ?」



その場の一同が一斉に返事した。



「了解」



山口「よ~~しおまえ等ぁ~ 俺からの命令だぁ 誰1人死ぬ事無く、任務をまっとうしろぉ~~」



山口によって89式自動小銃が頭上に掲げられ、鬨の声があげられた。



山口「奴等を全て倒すぞぉぉぉ」



「おぉぉおおおおお」



山口に続き隊員達が皆、小銃を持ち上げ、合戦前の士気を鼓舞する叫び声があげられた。



「ザザ UH01 C3投下 ザザザ」



山口「よし 作戦開始だ」



山口1等陸尉率いる35名の勇猛な隊員達による掃討作戦開始される。

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