第151話 闘靜

lineの着信音が鳴り、由美が起床した。



snack bar stylish 7日目 7時46分



由美は起き上がると2階の窓際から外へ顔を覗かすスタイルを凝望した。



スズメのさえずりが聞こえ、朝日が差し込む窓から身を乗り出し辺りをキョロキョロ鳥瞰(ちょうかん)している。



由美は壁に立てかけられた伸縮ハシゴを眺め、あくびをしながらスタイルの後ろ姿を眺めた。



顔を引っ込めスタイルは何やらlineを入力している。



何してんだろ…?



由美「おはよ」



スタイルが由美へと振り向き「やっと起きたわね おはよ 今起こそうと思ってたの」



由美「何してるの?」



由美は枕元に置かれたスニーカーを掴み窓際へ近寄ると共に外を展望した。



スタイル「今、迎えがこっちに向かってるってさ、もうじき来るって」



由美「ホント?」



スタイル「えぇ 後10分くらいで着くみたい、それでこの店の周りに奴等がどれだけいるか調べてくれって… だけど一匹もいないわね」



由美はすかさずゾンビや感染者よりもまずハンチングの姿を探した。



忌まわしいあいつの姿を…



見通しの利く道路



奴の姿は無い…



一週間も籠城してたし…姉さんの言う通り流石にあいつも諦めて何処かへ行ったかな…



一抹の不安はあるにせよ、由美は思った。



いくらなんでも一週間も張り込んでる訳ないか…



わざわざずっとこの場に留まり、じっと待ち構えてる筈はないかぁ…



由美の胸のつかえが取れ、溜飲が下がった。



良かった…やっとあいつの恐怖から解放されたんだ…



スタイルと共に外を見張る由美は胸を撫で下ろした…のだが…



でも…一欠片…何だかまだつかえてる感じがする…何か引っかかる…



スタイル「由美 手順はこうよ、これから3台のバンが来るから、車が見えたらすぐにそのハシゴを降ろして、車に乗り込むわよ いいわね?」



由美「あ…はい 分かりました」



ピローン



了解しました 今 靖国通りです。

すぐに撤収出来るよう待機してて下さい…風間



スタイル「今、靖国だって」



スニーカーを履きながら頷く由美



地獄と化したこの世界



これから助けが来る…



この都会の郷里…自分の生まれ育ったこの街を離れ…



数々思い出の詰まったこの在所を抜け出し、新たな他所へと移る。



これから安全な場所、新たな仲間が待ってる事だろう…



スタイル「由美 不安?」



由美「え?」



スタイル「安全とは言えこれから知らない人達と新天地で暮らすのよ…そこらへん大丈夫かなと思って」



由美「うん…少し不安はあるよ…でも姉さんもいるから私は大丈夫」



スタイル「そう それなら良かった…」



スタイルが必要以上に辺りを警戒していた。



まるで何かを探してる様に…



由美がスタイルの横顔を目にし、辺りへ注意を払った時だ



遥か遠方の横路から1体のゾンビが姿を現した。



ヨロヨロした足取りの死者を目にする由美



由美は指差しながら



由美「姉さん あれ見て」



スタイルも遠望し骸人の存在を視認した。



すると 後から後からゾロゾロと奴等が現出するのが見えた。



公然と細路から顕在する惨鼻なる風骨の死骸者達



由美「ヤバいよ…姉さん…」



あれよあれよと奴等が大通りへ続出して来る。



スタイル「バッドタイミングね…」



また…同時に…



ピローン



もうそろそろ着きます…風間



エンジン音が響き渡って来た。



車の音だ…



2人は顔を見合わせる



由美「車だよ 来るね」



スタイルが携帯を仕舞いながら「えぇ、ハシゴを降ろすわよ 手伝って」



立てかけられたハシゴを2人掛かりで降ろし始めた。



由美「ねぇ… ぞろぞろやって来たよ…」



スタイル「距離はあるからまだ大丈夫…間に合うわ、さぁ降りよう、先行くよ」



キィィィィ キイイ キィィィ



タイヤの擦れる音が近づく



スタイルがハシゴを降下し、地上に降りると2階を見上げ、由美を呼んだ



スタイル「さぁ 来て」



辺りを見渡し、手で招くスタイル



由美もハシゴを降り始めた。



遠方から亡者達のうめきのコーラスが近づいて来る。



由美にも迎えの車にも早く…早く…と心の中で呟くスタイル



キィィィィ キィィィィ



車のブレーキ音がすぐ近くまで聞こえてきた。



そして、由美がハシゴからジャンプし着地すると同時にキィィィィ キィィィィ キィィィィ



曲がり角から勢いよく3台の車が飛び出してきた。



スタイル「来た」



猛スピードで接近するバンが由美、スタイルの目の前で急ブレーキするや停車された。



待望の救出車が到着



先頭に位置するバンの後部ドアがスライドされ開かれるや1人の男が外に出てきた。



サバゲー用のミリタリーファッション



迷彩服に身を包んだ男が2人の目の前に現れた。



肩にはBB弾使用の電動ガン、AKー47が吊されている。



そしてゴーグルを上げ男が口を開いた。



「ママ お久しぶりです、お迎えにきました」



スタイル「風間さん」



風間「挨拶は後です、とりあえず早く乗って下さい」



スタイルは頷き車内へと乗り込んだ



車内には3人の男達



小学生らしき男の子がいる。



皆、風間同様ミリタリーファッションに身を包んでいる。



風間「さぁ 君も早く」



由美も頷き車の中へと入った。



風間が後方2台へオーケーらしきサインを出し、自らも車へ乗り込もうとした その時だ



風間の目が大きく開き、ピタリと動きが制止



由美、スタイル、車内の男達が制止する風間へ視線を向けると



風間の口から突如血が吐き出され、由美のブラウスに血がこびりついた。



由美「ひぃ」



スタイル「か…風間さん」



「な…」「え?どした?」



吐血しながら風間が後ろへ振り向くと



そこにはハンチング帽を被る



醜い顔容の感染者が存在した。



風間の背中から手刀が突き刺されている。



手首まで深々と刺し込まれた手の刃が肉を貫いていた。



風間「ぐふぅ」



風間の肩からハンチングの顔がにょきっと出され車内へ目が向けられる。



スタイル「あ…あ…」



具現化された一抹の不安



由美、スタイルの眼前に…



ハンチングがいた。



ハンチングは手刀を抜くや鷲掴みにされた風間の心臓を取り出していた…



吹き出す血液



風間はそのまま大の字で仰向けに倒れ、目を開けたままあの世へ急行した。



ハンチングは掴んだ心臓を放り捨てるや今度は由美の左腕を掴んだ



左腕を掴まれた由美はハンチングを見詰める。



無表情な狂気のまなこが由美の目に焼き付く。



反抗する気も死の予感さえも何も浮かばず、予期せぬ襲撃に由美はただ茫然としていた。



思考回路が停止した由美



まばたきもするのも忘れハンチングの目を見詰める その…さなかに…



突如 ハンチングの脇腹と二の腕にアルミ矢が突き刺ささった。



また車内から1人の男が身を乗り出し、車のドアを力強くスライドした。



由美の腕を掴んだハンチングの左手が勢いよく挟まれ、切断される。



閉まるドア、切り離されたハンチングの左腕を由美、スタイルが目にした。



「兄ちゃん、あれ例のサイレンサーだよ」



小学生らしき男の子がそう言い放つと



「ハンタータイプか?」



「うん 可能性高いよ、風間さんの死体に興味示さないし」



向かいの男がトランシーバーを手にした。



「幸雄、タカチンさん そいつサイレンサーの疑いがある 今、始末しないと大変な事になるよ」



「ジィ 了解 風間さん殺りやがったからどちらにせよすぐにぶっ殺すジジ」



「ジジィ こいつは俺っち達にまかせなぁ、そっちは車から出ないように ジィー」



由美が窓から外を覗くやゴッツいクロスボウを構える2人の男の姿を目にした。



また真ん中のバンから2人の男が外へと出てきた。



ハンチングVS神谷町部隊の闘靜(とうじょう)が始まる

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