第146話 存在

家から飛び出した由美



逃げるったって… 一体何処へ逃げればいいの…



行く宛も無い由美は左右を振り返り困惑した。



ガタガタ ガシャーン



気づけば周囲が騒がしい



先程まで静かだった住宅街のあちこちから騒音が響動いた。



数軒斜め前の2階ベランダに母親と小さな女の子が立てこもり、必死に窓を抑える母親



バン バアン



「お義母さん やめてください お義母さん」



「うわぁぁ 来るなぁぁ」



また先の通路を生存者らしき男性が横切り、その後ろから6~7人が追いかけ横切って行く



ガシャン パリン ギャャャ



うわぁぁぁ キャャャヤー



ガラスの割れる音や何かが壊れる音、女性や男性の悲鳴が辺りから聞こえてくる。



「ぐぁあああ~」



今まで外出禁止令でひっそり身を潜めていた人達が奴等に侵入されたり内部で感染して炙り出されたりして外へと飛び出していた。



騒乱する住宅街



由美は取り敢えず自宅から離れ走り出した。



車の防犯ブザーの音



玄関のドアが内側から激しく叩かれ喚く声



「わぁぁぁ~ 離せぇぇぇ」



庭の草木がガサガサと鳴る音



至る民家から火災があがり、パチパチ鳴る音



ガレージのシャッターが激しく揺れ、門も内側から激しく揺すられた。



悲痛な叫び声と同時に



あちこちから奴等の気配や存在が確認された。



「あっち行けぇぇ~」



煙りが街中たちこめ



もはや狂瀾怒濤の死の街と化し



混沌と荒廃

 


狂気が乱舞する。



そんな危険地帯を走り抜ける由美が├字でふとある物に目が触れた。



2~30メートル先の電信柱に当たり停車する、あの見覚えある車



え…?



茜が運転し別れた筈のあのエスティマが止まっていた。



なんで…?



由美はそのエスティマへと近づき



そして、その手前で倒れる女性を発見した



目を見開いたまま息絶えるその女性に…



由美は愕然とした。



嘘……



横向きに道路へ横たわり転がるその女性の死体…そこには…



そんな…



後頭部がピタリと背中まで折り曲げられ、完璧に首をへし折られた茜の遺体があった。



持田先輩…



目を見開いたまま死んでいる茜



由美は茜の死体の前で崩れ落ち、両膝をつけた。



なんで…持田先輩までも…殺されなきゃならないの…



茜が誰に殺されたのか その殺した相手が…



由美には誰の仕業かすぐに察する事が出来た。



ことごとく自分の周囲の命が奪われ茜までもが毒牙にかけられた。



悲愴に悲愴が重なり、追い打ちをかけるショックに…



由美は正座する様に座り込み涙を流した。



うなだれ、泣き崩れ、意気消沈する少女。



生きる気力さえ削がれ、お先真っ暗な崖っぷちから絶望の世界へと突き落とされた気分



重なる不幸な出来事に打ち拉(ひし)がれ



由美は両手で顔を覆いながら多大なる悽愴感を漂わせている…



何度も悲しみに捕らわれ涙を流す由美に



茜の指先が忽然と動き始めた。



悲しみに暮れる相手に無情なまでに追い打ちをかけるあの現象が…



誰だろうと容赦しない…死人の甦生現象が始まった…



茜の手足が活動を始め、全身へ行き渡ると共に口が開かれる



「う…うぅうううううぅううぅ」



ハッ っとさせ目にする由美



茜が動き出し、立ち上がろうとするのが見えた。



安らぎを許さぬ無慈悲なまでの強制的復活



茜がゾンビとなり復活を遂げる。



由美「あ…あ…」



唇を震わせ動揺する由美



へし折られ背中に貼り付く茜の顔も動き出し、ジロリと眼球を由美へ向ける。



由美「あ…やだ…先輩…」



互いに目を合わせながら茜と由美は互いに立ち上がり始めた。



「うううぅううう」



茜ゾンビは四つん這いで片膝をつき綽然たる態度で立ち上がった。



由美「あ…やだ…」



身体が戦慄し凍りつくが



逃げなきゃ…



固まる身体を動かし



後ずさる由美はその場から逃走し駆け出した。



T字路へ差し掛かり、曲がる寸前由美が振り返ると首が取れた様な首無しの茜ゾンビがヨロヨロと徘徊、こちらへ向かって来るのが見えた。



またその先の曲がり角から忽焉と現れた奴の姿も視界に入り、由美は再び恐怖が込み上げた。



奴だ…



ハンチングが追って来た…



由美は恐怖の追跡者から逃走を図る



靴も履かずに道路を駆け抜けて行く



目的地も無くただひたすらに…



これからどうすればいいの…?



家族も親友も仲間も失った孤独な由美…



何処へ行けばいいの…?



逃走中 由美の頭を混乱、孤独、悲観が錯綜した。



こんな地獄の様な絶望的世界を私1人で生き抜く自信なんて無い…



もはや頼れる相手がいない今…私なんかが1人で生きて行けない…



私には絶対無理だ…



生きる望みが絶たれ、生きる気力が失落する由美に…



ピロピロ~ン



ある一通のlineが舞い込んできた。



携帯からコール音が鳴り、走りながら携帯を取り出す由美



そして 由美の目が一瞬にして変わった。



そうだ 私にはまだいる…



私はまだ1人じゃない…



姉の様な存在



唯一頼れる相手が1人だけ…



いる



lineの相手はスタイルからだ



由美 もし無事なら返事頂戴



今どこにいるの?



スタイルからのlineを目にした由美



姉さん



由美はスタイルの店を目指し走り出した。

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