第141話 追手

反社会的な気狂いの民と化す者達



キ印のそいつらが凄い剣幕で駐車場へと雪崩れ込んできた。



どいつもこいつも凄味を見せるイカれた目つきの矜人(きょうじん)達



エンジン音を聞きつけ、その箱の中にある新鮮で極上の生肉欲しさに一挙に群がってきた。



結香「きぁあああ 来たよ来たよ」



茜はシフトをバックに入れアクセルを踏むのだが…



瞬く間に取り囲まれたエスティマ



結香「あややややや」



車が完全に包囲された



窓越しに覗き込む由美、結香は感染者と目を合わせ



結香は途端に悲鳴をあげながら上体を退かせた。



結香「きぁあああ いるぅー いるいるー 先輩早くぅぅ」



由美も気を動転させながら周囲を見渡し、囲む奴輩を見渡す。



14~5体の奴等にあっという間に取り囲まれてしまった車



そして車体が激しく揺さぶられた。



由美「先輩 早く出して下さい」



車内はグラングランに揺すられ、由美、結香、茜の身体も激しく揺さぶられる。



茜「ないの」



由美「え?何がですか…?はやく発車してください…」



茜「わっかんないよ…何処なの?…サイドブレーキがないの…」



焦りの表情で必死にサイドブレーキを探す茜



バン ガッ ダンダン



窓には無数の血の手形がベットリこびり付き、奴等が窓をブチ破ろうと叩き始めた。



ガラスをはじめピラーやドア、ルーフ、フェンダー、ボンネットのあらゆる箇所が揺すられ、叩かれる。



結香「きぁあああ~ サイド何たらって何ですかぁぁ 先輩 いいから早く出して下さい」



テンパる茜はいろんなボタンを押し、チカッ チカッとハザードランプが点灯、ワイパーも動き出した。



違う…違う…何処なの…



今度はボンネットに2体の感染者が這い上がって来た。



ない…ここにもない…ない…



ボンネットへ這い上がる2体の感染者が両手でバンバンフロントガラスを殴打しはじめる。



ガン バンバン



また数体の感染者がセンターピラー、フロントピラーを掴み、更に車体を激しく揺すると共にあらゆる窓ガラスが強味を増して叩かれた。



バァン バンバンバンバン



すると リアガラスにヒビが生じる。



由美の目の前でたちまち亀裂が生じる窓ガラス



やばい… 直、破られちゃう…



由美に悪寒が走った。



動くワイパーを掴みへし折る感染者



フロントガラスにも同様に亀裂が入る



結香「イヤー 割られる割られちゃう」



車内にいる3人に生きた心地などしない最悪な窮地



未だ動かぬ車から虚しく排気される煙り



絶体絶命の危機に



顔を青白くした結香の背中が茜の肩に接触した。



その時



茜の探る左足が足元に位置するサイドブレーキらしきものを捉えた。



あった… これだ…



茜「2人共 あった!早くシートベルトして 急発進するよ」



由美、結香が慌ててシートベルトを装着すると、アクセルがベタ踏みされた。



計器の針が跳ね上がり



茜がレバーをニュートラルからバックにシフトチェンジ



左足がサイドブレーキを解除し



キィキィキキキキィィ~



摩擦音が鳴ると共に揺れるエスティマがバック走行で急発進された。



発進した車は後方に群れる奴等をそのまま巻き込み、そのまま押し潰す



また両サイドに群れる奴等を一瞬にして引き剥がした。



置き去りにされた屍人は動くエスティマへ目を向けるやすぐに動き出す。



車が駐車場中央までバックすると茜はハンドルを切りながら円を描き、エスティマを切り返した。



遠心力でボンネットに貼りつく一体の感染者が振り落とされ地面を転げる。



そして、車を一瞬停車させ茜がレバーをバックからドライブへと操作



茜「行くよ」



再びアクセルを踏み込み、車が発車された。



その時だ



由美の目に映る奴の姿…



新たに入口から向かって来る3~4体の感染者を確認



その感染者達に紛れて…



紛れて向かって来るあの帽子…



ハンチングだ



前進するエスティマを追いかける食人鬼の群れ



茜は眼を瞑りながら前方から向かって来る感染者等へ突入



結香も頭を屈め、由美も接触による衝撃に備え身を屈め



そのまま突進



轢き殺した。



車にぶつかり1体の感染者はボンネットに乗り上げフロントガラスへ接触しながら滑る様に空へと舞い上がり



もう2体は弾き飛ばされ1体は民家の壁に激突、もう1体はそのまま車体に巻き込まれタイヤの下敷きにされた。



タイヤに押し潰され周囲に脳味噌が弾け飛ぶ



死体に乗り上げた車はガタンとぐらつき



車内が縦に揺れながらエスティマが駐車場を脱出



狭い道を右折した。



茜がバックミラーをチラ見するや奴等もこぞって駐車場から飛び出し追いかけて来るのが見えた。



ボンネットには曲がるワイパーを掴みながら必死に車体へとしがみつく感染者の姿



結香「先輩…まだいる…」



茜「分かってる」



玄関から…



ガレージから… 庭から…



周辺からわんさか奴等が湧き出てきた。



一通の狭い道に



突如前方の横道から飛び出す人影、前方に10体以上の奴等が現れた。



衣類は血で汚れ、どいつも何処かしら欠損して血を撒き散らしている。



そいつらが車目掛けて突撃してきた。



結香「うわぁー 前から来たぁー」



茜「大きい道路出るのってどっちだっけ?」



後部席から身を乗り出す由美



由美「真っ直ぐなんですが… そこ右で」



左折の標識を目にする3人



近づく十字路は左折しか出来ない一方通行



だが茜はハンドルを右に切り



車は十字路を右へと迂回した。



ガガガガ



ノンブレーキで旋回するエスティマが壁へと接触



左のミラーが損傷する



そんなのお構い無しにぎこちないハンドル捌きで曲がりきると



今度は出会い頭に6~7体の奴等が3人の目に飛び込んできた。



茜はブレーキなど踏まず



むしろアクセルを強く踏みしめた。



結香「わぁわ~」



茜「もう突っ込むよ 2人共掴まってて」



茜のハンドルを握る手に力が入り



由美は運転席の背もたれにしがみつく



茜「んんん~」



茜は目を閉ざしつつエスティマがまたも突進し、そのまま体当たりするや群れを蹴散らした。



弾けた感染者が電柱や民家の塀に激突、2~3体の身体が空に跳ね上がる。



奴等を凪払い、突破した車



結香「やぁややあやや」



結香は車内で1人取り乱している。



後部席から身を乗り出す由美は冷静な口調でカーナビ役を行った。



由美「先輩 次 そこを左です」



茜がハンドルを左に回し



勢い良く車が左折した時だ



急にブレーキが掛けられた



由美「え?」



急ブレーキで停車するエスティマの前方には民家へ激突した車が見える。



その車から煙りが立ち込め、その車によって道が完全に塞がれていた。



茜「この道は駄目だ…」



茜はすぐに後ろを見ながら再び車をバックさせる。



ピーピーピー



ガリガリガリガリ



下手くそなバックで今度はリアドアをおもいっきり壁に擦り当てながら切り返すや、再び直進で車を走らせた。



後方から迫る奴等



道を埋め尽くす程の奴等の追走がバックミラーに映された。



通学で通い慣れた路地道なのだが茜は恐怖と混乱から困惑し方向を見失っていた。



茜「狭すぎる もうちょい広い道に抜けたい…」



由美「ならあの前に見えるそば屋を左に回って下さい」



餌に群がる虫の様に至る所からエンジン音を聞きつけ次々と現れる奴等



朝とは明らかに違う風景に…



まだ一度も普通の人を見ていない…



見るのは人でない奴等ばかり…



朝からそう時間も経っていないというのに



変貌を遂げた街



変貌を遂げた屍人に



3人に絶望感がひしひしと込み上げてきた。



気付けばボンネットに乗っかる感染者も消えている。



奴等の追走を巻いたのか?



急にバックミラーに映る追っ手の群れも消えていた。



由美、結香が後ろへ振り返り



結香「あれ?いなくなってる 良かったぁ~巻けたんだね」



由美「うん…そうならいいけど…」



茜もミラーを確認、安心したのかアクセルを緩めた。



車が速度を落としながらそば屋を左折すると



キィ



またも車が急停止された。



前方を見詰める茜



茜「あれはまずいよね…」



由美も前へ視線を向けると150メートル先に奴等の大群を発見した。



由美「凄い数…」



結香「あんなの駄目駄目です。きっとあの大通りは…もう…奴等でいっぱいですよ…」



茜「なら 白山通りに出よう」



茜がレバーをRにシフトしバックで切り返すとそば屋を右折した。



そして車を再び走らせた矢先…



横から急に何かが飛び出してきた



ガードレールを踏み台にジャンプし



ガン



それはボンネットへと着地



へこむボンネットに降り立ったそれに車内の3名は目を大きく開かせた。



こいつは…



由美の大きく開かれた目に映るのは…



3人の前に現れたのは…



ハンチング帽を被ったあの感染者の姿…

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