第128話 種類

閉まるドアの先からは引っ掻き音が聞こえてきた。



間一髪女子更衣室に入った2人



結香は勢い良く室内に入ると何かへつまづき前方に倒れ込んだ。



大胆に転倒した結香は膝とおでこを床へ打ちつけ、手にするマイクスタンドがコロコロと転げる



結香「ったたぁ~ たた…何?」



由美「結香ぁ 大丈夫?」



何かに足を取られた結香



由美が振り返り視線を向けると入り口前に人が倒れていた。



うつ伏せで倒れる男性の姿



教師らしき男性の死体だ…



すると



女子生徒「それ私のクラスの担任だよ ついさっき私達の目の前で自殺したの…」



由美「え?」



うつ伏せで倒れる結香はおでこを擦りながら振り返り、死体だと気付くや飛び起きた。



女子生徒「理由は分からないんだけどね…いきなり首に包丁突き刺して死んだの…」



確かに己で自殺を図った形跡がある…



教師の首に深々と突き刺さる包丁を2人は何とも言えない表情で目にした。



女子生徒「あなた達…」



由美と結香は揃って扉に佇む女子生徒へと目をやった。



女子生徒「それより危なかったね」



由美「え?……あ!…ありがとうございます…助けて頂いて…」



おでこをさすりながら会釈する結香



女子生徒「私は茜 持田 茜って言うの 貴女達は2年生ね?」



由美「あ はい…そうです 私は冴木です 冴木由美です」



結香「松浦結香です」



茜「そう 冴木さんと松浦さんね」



その時だ



「あかねぇー」



更衣室の奥から男性の呼び声が聞こえ2人の生徒が姿を現した。



怒り気味な表情で男子生徒が姿を現すや由美と結香へ近づき



荒げた口調で問い詰めてきた



男子生徒「なぁ おまえ等 外で暴れてる化け物共に噛まれてねぇーだろーなぁ?」



由美「え?噛まれ…あ…あ…はい…大丈夫です…」



男子生徒「おまえは?」



結香「あ 私も大丈夫です…噛まれてないです…」



男子生徒「本当だろうな?」



由美「はい 嘘はついてません」



茜「ちょっと淳 いきなり来てそんな言い方止めてよ」



いかにも真面目そうには見えない2人の男子生徒



そう… こいつらは感染者に襲われ命からがら逃げ延びた不良グループの生き残り…



3年の内藤淳と加賀見秀平だ



淳「おまえも勝手に入れんじゃねぇーよ あんなやべぇー奴等が入ってきたらどうすんだ もうノックされようがここには誰も入れんなよ 全部シカトしろ いいな?」



不良の2人はそう吐き捨てると不機嫌に奥へと戻って行った。



茜「によ…あいつ あ ごめんね…気にしないで 奥に他にも生徒がいるから一緒においで 紹介する」



茜に手招きされ



結香は起き上がり



由美と共に茜の後へとついて行った。



ロッカーが無数に立ち並ぶ女子更衣室の奥には他にも4名の生徒達が存在していた。



「それ誰ですか?」



淳「茜が勝手に入れやがった」



茜「だからそんな言い方しないで」



秀平「まぁ 淳 噛まれてないならいいべや カッカすんな」



淳「絶対これ以上誰も入れんなよ茜」



茜「指図しないで」



秀平「まぁまぁまぁ… こんな所でカップルの喧嘩は止めぃ」



互いに睨み合う淳と茜の間に入り、仲裁する秀平



「あんた等2年生?」



ベンチに座る1人の男子生徒が由美等に話し掛けてきた。



由美「あ はい」



結香「えぇ…」



「ふ~ん…」



剣道の防具を完全フル装備する男子生徒



その隣にはラグビーのヘッドキャップを装着する男子生徒が携帯をいじりながら座っている。



またその横には野球のキャッチャーマスクを装着する女子生徒が不安気に座っていた。



剣道の生徒「ここって確か日本だよな… これからどうなんだよ… あいつらに噛みつかれると仲間にされちまうんだろ?隣の教室に探せば誰かの防具セットくらいあるっしょ おまえも俺みたいに完全武装しといた方がいいんじゃね?」



ラグビーキャップの生徒「訳わかんねぇーよ 誰がこんな危ねぇー外に出るかぁー あ 室井からline来たぜ 今、みんな屋上にいるらしいなぁ…」



剣道の生徒「まじかぁ 俺等も屋上行った方がいいんじゃねぇ?」



ラグビーキャップの生徒「だから 外出んの嫌だって あ!また来た……あ?なんか屋上に100人以上いるらしい…なんか…すし詰め状態で息苦しい言うてる…」



剣道の生徒「まじ?ギュギュウかよ それなら行かなくて正解だったな…」



ラグビーキャップの生徒「あぁ だな…… あ!また来た……………え?なんか屋上ヤバいらしいぞ」



剣道の生徒「どしたの?」



ラグビーキャップの生徒「キチガイ共が入口前に群れて入ろうとしてるらしい」



剣道の生徒「それヤバいやつじゃん… つ~かあいつら何なんだよ…?学校無差別殺人事件だぞこれ 警察とか何で来ないんだよ?… つーか先生は一体何してんだよ」



キャッチャーマスクの女生徒「なんか職員室が襲われて集まってた先生の殆どがやられちゃったらしいよ」



3人の会話を耳にする由美と結香



剣道の生徒「え じゃあ大人とか誰もいない訳?」



キャッチャーマスクの女生徒「分からない… もうみんな混乱してるし…」



剣道の生徒「守(まもる)110番しろよ」



ラグビーキャップの生徒 守「もうさっきから何度もかけてんだけど何故か繋がんないんだよ…」



そうだ 携帯だ



由美は思い出し、自分のロッカーへ向かおうとした時だ



「ねぇ みんな…あれ見てよ」



もう1人 女子更衣室の小窓から外を眺めるピンクのリボンをつけた1年生らしき女子生徒が口にした。



この更衣室には7名の生徒と由美、結香合わせ、計9名の生徒がいる。



喧嘩を中断し不良2人と茜も小窓へと近寄る。



茜「どしたの?響子」



皆が小窓へ集まり外に目を向けた。



由美と結香も一緒に目を向けた。



小窓から見渡せるグランド



そして…そのグランドには今…



小さな門から今なお部外者が侵入し



ざっと50~60はいるだろう…



多数の人が徘徊していた



それに加え鳴り止まぬサイレン音と遠くで数え切れぬ程の煙が上がっている。



ピンクリボンの女子生徒 響子が絶望的な声色で口にした。



「やっぱり…前々から前兆はあったじゃない…きっと地獄が満員になったから…この世に現れたんだよ…ゾンビが…」



茜「止めてよ響子…」



守「それ…ゾンビって映画のセリフパクってるし…つーかゾンビって何だよ…?」



響子「え?みんなゾンビの定義知りたい?」



守「いや いいや…」



剣道の生徒「なんでこんなに…みんなしてラリってんだよ…みんなしてよぉ… もう… この世の終わりかもしんないなぁ…」



響子「かもね これはゾンビだよ…間違いないよ…とうとう現れたんだ」



キャッチャーマスクの女生徒「響子 ゾンビって何?」



響子「よくぞ聞いてくれた早苗たん ゾンビとは死んだ筈の人間が蘇って人を襲う化け物の事だよ 起源はブゥードゥー教の呪い話しとかゾンビパウダー辺りがルーツかな 本来原典ではただ蘇るだけなんだけど…そこにカニバリズムとヴァンパイアの伝染性、個体群性が加わった今ではドラキュラと並ぶ程の代表的なマスコットモンスターなんだよ」



守「それってつまり…ようは人が作り出した架空の化け物って事だろ?」



響子「確かに人間が作り出した空想の化け物だよ でも…じゃあ…なら…あの人達はどう説明するの?あの人達が普通の人間には見えないよね?」



茜「響子 ゾンビの話しなんて止めて」



剣道の生徒「そうだよ ゾンビ?馬鹿馬鹿しいな ホラー好きも大概にしろよ」



響子「なんで?現実に現れちゃったんだからみんな目を背けちゃ駄目だよ い~い宗一郎 い~いみんな あれはれっきとしたゾンビと言うくくりに入る化け物なんだよ 映画とかゲームに出てくるのと同じなんだよ」



剣道の生徒 宗一郎「馬鹿じゃねえのおまえ ゾンビなんかいる訳ねぇーだろ ホントホラー好きにも程があんべぇ」



響子「馬鹿はおまえだよ」



宗一郎「んだと」



淳「おい そこの一年黙れ!俺と秀平は直に奴等に襲われた…その話し信じるよ おまえの話し信じる… で 何なんだこいつらは?」



響子「2012年にアメリカのフロリダで起きたゾンビ事件の事 知ってますか?」



宗一郎「ゾンビ事件?」



秀平「あ それ知ってる 当時ネットのニュースで話題になったやつだよな 顔の大半を食べられたってやつだろ でもあれは結局… 確かLSDが原因だった筈じゃ… なんて名前だったっけかな…」



響子「バスソルトです」



秀平「あ~ そうそう それそれ」



響子「確かに幻覚剤で狂っての犯行だって当時は言われてました…犯人は何発も銃弾を受けたのに死ななかったらしいです… でもね… 実はあれ…LSDが原因じゃないって噂があるんですよ」



早苗「え?」



秀平「何なの噂って…?」



響子「当時アメリカで流行った幻覚剤のバスソルト 服用するとかなり狂暴化する事で有名だったんですが…そのフロリダの事件では薬の使い過ぎで犯行前に既に死んでたって噂があるんです」



守「まじか なら…死体が蘇って襲って食ったって事か?」



響子「うん…そう…つまり…クスリでおかしくなったんじゃなくて…クスリの多量接種で死んだ人間が生き返って犯行に及んだ…当時の記事の見出しはリアルゾンビ出現…です」



茜「…」



響子「銃弾を浴びても死ななかった…死体が蘇った…人を食らった… これをゾンビ以外なんて表現すればいいの…?」



守は外をボンヤリ眺めながら…



守「なら…こいつらみんな…ゾンビだってのか…」



響子「一種のね でもゾンビも分類すると2種類に分れるの 1つはゾンビ、リビングデッド、アンデッドなんて呼ばれる歩く死体 そしてもう1つは死んでもいないのにああなっちゃうタイプ」



宗一郎「死んでないのにゾンビになるタイプって何!?」



響子「あのグランドにいる人達の事 今いる大半がそのタイプよ… そいつらの事をこう呼ぶの…」




「感染者…と」

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