第125話 撃退

授業参観でもないのに次々と人が集まり校舎内に入って来た。



このまま進路を進めば奴等の群れにぶつかる。



かといってUターンすれば…



奴等に捕まる…



結香は錯乱した。



結香「どうする?どうする?どうする?どうするの?」



後ろから迫り来る2体の感染者



満杯に入る120ℓのゴミ袋を振り回すおばさんと…



並列するスーツ姿のサラリーマンが2人へと接近して来る。



結香「来た~」



テンパる結香の隣りで呼吸を乱す由美が漏路を探した。



キョロキョロ辺りを見渡し逃げ場を探す由美



留まれば死、進めば死、引き返すも死



どうする…?



焦る2人の間近まで迫るおばさんの足が急に縺れ、転ぶ寸前リーマンのネクタイを掴み、2体は仲良く転倒した。



勢い良く転んだ2体



結香が目前で転ぶ様を目にする



また 由美は辺りを見渡しある物へ目を止め



結香の掴む手を放した



そして由美が動いた。



由美は走りながら花壇横へ置かれた掌サイズの石を拾い上げ



音楽室の窓ガラスへと走り



自分の頭ぐらいの高さに位置する窓ガラスへその石をおもいっきり投げつけた。



ガシャー



網入りガラスに石が貫通、一点の孔穴が開き



網ガラスが割られた。



由美はそのまま壁へと飛びつき、今度は開いた網ガラスの穴へと右腕を突っ込ませた。



割れた穴の破片で手の甲や手首に細かな傷が入り、由美は右目を瞑りながら一瞬痛みで顔を歪ませる。



そして切り傷を我慢しながら右手を伸ばし三日月状の鍵に指を届かせた。



クレセント錠を外し、音楽室の窓ガラスの鍵を開けた。



由美は割れた穴から腕を引っこ抜き、窓ガラスを開けると室内に入り込みすぐに結香を呼んだ



由美「結香~ 早く こっち」



差手で呼ぶ由美へ結香が走った。



起き上がったおばさんとリーマンが結香へ視線を向けるや、再び突進して来た。



由美は手を差し伸べながら結香と感染者達へ交互に視線を向けた。



由美「早く~」



結香が先に辿り着き、壁へジャンプ、差し伸べる由美の手を握り締めた。



結香を引きずり込み、窓を閉めようとした その時だ



突進するおばさんが壁へ貼り付き、ゴミ袋が室内に入り込んだ。



手を使い壁を越えて室内へ侵入しようとするおばさん



おばさんのしがみつく腕とゴミ袋が邪魔して窓ガラスが閉まらない…



由美は力いっぱい窓を閉めようと試みるが阻まれ全く閉まらない窓ガラス



由美が振り向き「結香~ 手伝うか 何かこいつらを叩く武器探してきて」



結香の目にはおばさんの肩から上が不気味に映し出されている。



腕力で這い上がり、室内へ入り込もうとするおばさんのすぐ後ろから続いてリーマンが顔を出し、壁や窓ガラスへ手を掛けると、一緒に侵入しようと這い上がってきた。



室内へぶら下がる大きなゴミ袋の一部が裂け、中から紙くずや牛乳の紙パック、丸めたテッシュなどがこぼれ落ちる。



「んままぁ~ 今日日は… 燃ええない日なのに… 燃えるゴミななななななんか出しててて… 犯人見つけてて注意してあげなないとととあげないとと… え あなた達が犯人なのねね… っと駄目じゃない、じゃないと駄目… あなたが犯人でしょ?でしょでしょ…モラルも品もありゃしないのね 今 今どきのティーンズは なら持ち帰って責任持ってこれ全部食べなさい…」



「おい おいおい いいかぁー おまえ達ぃー 今日は田所さんの所の大事な大して大事でも無い全然大事じゃない社運を賭けた取引先との重要接待日だぞ~ 場所はこの私が110ヶ月間も慎重に慎重を重ね探した結果… いいかぁ良く聞けぇ貴様等… 社運がかかってんだぁ~ 良く聞けよバカヤロー あんなろくでもない奴等の接待料理はコンビニで十分だぁ~ 料亭なんか予約すんじゃねぇぞ 各自おにぎり2個買って会社近くのあの公園に23時に集合しろよ… 時間厳守だからな 社運がかかってる事忘れるなよ この契約は絶対取るぞ 絶対お前ら日を跨いで遅刻して来いよ」



由美に向かってまくしたてる2体の感染者は意味不明な言葉を叫び続ける



結香は音楽室を見渡した。



今まで授業が行われていただろう形跡



机や床には筆箱や教科書、楽譜などが散乱している。



由美「早く~ 何でもいいから早く~」



肩で息する結香は武器になりそうな楽器を探すがこの教室には何も無い あるのはグランドピアノのみが置かれ、それ以外の楽器らしき物は全く見当たらなかった。



どうしよう… 何も無い…



焦る結香



だが…ふと…



そうだ



ある事に気づき結香が迅速に動き出した。



由美が後ろへ振り向くと結香の姿が無い



由美「結香ぁぁ~ 何処行ったぁぁー」



まさか… 裏切って1人で逃げた…?



忽然と消えた結香に



瞬く間に焦燥に駆られる由美



恐怖と焦燥にサンドされた由美は1人孤独に奴等の侵入を食い止めている。



すると



急におばさんの顔がドアップで近づき、口を開けた瞬間



おばさんが噛みつこうとした。



ガチィィ



歯の当たる細鳴り



由美は瞬発で顔を引き、何とかその噛み付きを回避した。



引きつる由美におばさんが侵入寸前まで身を乗り出して来た瞬間



タタタタタ



由美の背後から足音が近づき、棒の様な何かがおばさんへと振り下ろされた。



ガコォ



それは額へと振り下ろされ、直撃、おばさんは背中から地面へと倒れ込んだ。



由美が振り返ると



背後から結香がマイクスタンドを逆さに持ち、それを振り下ろしていた。



すると今度は



リーマンの顔面目掛け、円形の金属がパンチされた。



リーマンの顔面へ直撃した金属らしき物



シンバルだ



バァィィィィン



シンバルの打音を響かせ、リーマンも尻餅を付きながら地面に倒れた。



由美はすかさず窓を閉め、鍵を掛けた。



再度後ろを振り向くと、マイクスタンドとシンバルを手にした結香を目にする。



呼吸が乱れる結香「はぁはぁはぁはぁはぁ…」



由美「結香…」



結香「はぁはぁはぁ…由美 大丈夫?」



由美「うん…」



その時



外から網ガラスに手が当てられ、叩かれた。



ドンドン ドン ドンドン



ギョッとする2人が窓へ目を向けると



先程のおばさんとリーマンが窓ガラスに貼り付き、バンバン叩いていた。

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