第104話 拘留

「警視庁… こちら目白10 え~ 殺人事件発生… 殺人事件発生…緊通により現着した所…5名の遺体を確認… え~マル害の内2名はPM…既にマル犯らしき男は確保… 至急…緊配及び応援要請お願いします… え~住所は目白台3ー22ー10…繰り返します…殺人事件発生 住所は目白台3ー22ー10 現在マル犯らしき男を確保… 応援要請願います。」



「ザァ 了解…ザァ」



「警視庁各局…警視庁各局……」



そして20分後…



深夜の寝静まった住宅街に救急車や数台のパトカーが赤色灯を点灯させ停車していた。



門、玄関前にはそれぞれ2人の制服警官が警備で立ち、既に到着した鑑識、科警研、刑事などの捜査員が部屋や庭で捜査をおこなっていた。



門、玄関前には黄色いKEEP OUTのテープが張られ



庭はブルーシートで覆われている。



1台の黒いレガシィが警灯を点灯させ現場に到着、スーツを着用した2人組が降車した。



首に警察バッジを掛けた2人の刑事だ



2人の刑事は透明な薄い手袋をはめながら、警備の警察官を通り過ぎ部屋の中へと入って行った。



すると 



1人の刑事が出迎える



夏「浜さん お疲れ」



浜崎「うす こんな真夜中に…おまえも大変だな」



夏「はは」



苦笑いする夏刑事



そして浜崎の相方の横谷が口を開いた



横谷「夏さん 状況はどうですか?」



夏「最悪な現場だよ…仲間も殺られてる…2人共仏さん見て吐かないように…」



浜崎「横谷と一緒にすんな」



浜崎、横谷、夏がリビングに入り、まだ回収されぬ遺体の前で立ち止まった。



シートに被された1体の死体



夏がそのシートをめくると右腕を噛み切られた警官の死体が横たわっていた。



浜崎「こりゃ ひでえなぁ…」



横谷「ホントですね…警官殺しか…ここの腕は?」



夏「右腕なら2階の部屋に落ちてたよ…」



浜崎「死因と調べは?」



すると 夏がメモ帳のページをめくり 話し始める。



夏「刈田宗雄巡査 27歳 死因は見ての通り、頸動脈断裂と右上腕部欠損による出血多量死 110番の通報で駆けつけた所、襲われたようだな。続いてこっちだ」



夏はキッチンを指さし2人を誘導した。



そして、キッチンへ入るや浜崎、横谷の前でまだ回収されぬ2体目の遺体を披露した。



夏「同じく現場へ駆け付け襲われた 田中将太巡査26歳 死因はこちらも頸動脈断裂による出血死、それと隣の仏さんは…この家の奥さんで鳴海秋奈45歳 死因はこれまた同じく頸動脈断裂による出血だ まだあるぞ…」



今度は浜崎、横谷を連れ、リビングを抜けると開かれた窓から庭へ出て新たな遺体を前に手で指し示した。



夏が被されたシートを剥がしながら



夏「ひでえぞ…」



剥がされた遺体を目にした浜崎と横谷は一瞬目を反らした。



夏「鳴海玲二52歳 死因は恐らくベランダからの落下による転落死だ…直接の原因はこの散乱具合で言うまでもない…そして最後にこの隣りの遺体が1人娘の鳴海玲奈21歳 これも死因は頸動脈断裂による出血死及び転落による脳挫傷となってる…遺体はこの5名で以上だ」



浜崎「この男以外は皆…頸動脈断裂による出血多量死か…?」



夏「あぁ 一応、司法解剖へ回して詳しく死因は調べられるだろうけどな…」



横谷「例の被疑者は?」



すると 夏がブルーシートをめくり、パトカーに座る道へ



2人の警官によって挟まれながら後部座席に座る道へ親指を向けた。



夏「あいつだ 逃亡の恐れが無いと判断されまだいる。これから重要参考人として署に連行される」



浜崎「どうゆう事だ?」



2人の目に映る、虚ろな表情の道



夏「暴れる様子は無い… まるで廃人のようだな…」



横谷「廃人…?って事は精神鑑定か…」



浜崎「あの男は…?」



夏「御見内 道25歳 鳴海玲奈の交際相手だ」



浜崎「動機は?」



夏「詳しくはまだ分からないが…恐らくは交際のもつれによる逆恨みと踏んでいる。現状精神に異常をきたしてる為…明日から取り調べを始められるかどうか…なんにせよあいつが全て事情を知ってる事は間違いないだろう」



横谷「彼女にフラれて頭がイカれて一家惨殺って事か… 世も末っすね…」



浜崎「それで…駆け付けた警官を殺し1人の警官の右腕を切断したのか…?ホントにそんな理由でそこまでしたのか…?」



夏「どうだろうな…詳しい事はまだ分からんが推測ではそうなってる」



浜崎「刃物は?」



夏「まだ見つかって無い…」



浜崎は玲奈の喉元を覗き込むやキッチンへと向かい2体の喉元を確認、またリビングの遺体の喉と腕部を目にした。



そして、夏へ



浜崎「夏 刃物は発見されて無いんだよな?だろうな…今4体の喉と右腕を調べたがどれも凶器が使用された形跡が無い… あれは…全て噛み切られた痕だ 食いちぎられてる」



横谷「食いちぎられた痕?って事は奴が4人に噛みついたって事すか?」



浜崎「あれを見る限りでは噛み跡に間違いないな 噛み殺したやつは本当にあいつなのか?」



横谷「狂って猛獣の様に噛みついたのでは?」



浜崎「なら頸動脈を噛み切ってるんだぞ…あいつの顔、衣服を見てみろ…大して血がついて無い…普通なら返り血で真っかっ赤だぞ」



横谷「犯行後、顔を洗ったとか着替えたのでは?」



浜崎「あの男…精神をきたしてんだろ…そんな冷静な行為が出来るのか?」



夏「まぁ これだけ臨場に証拠が残ってるんだ 調べですぐに事実が判明するだろう」



浜崎「あぁ そうだな…詳しく調べさせろ…誤認だけはするなよ」



そして1台のパトカーが道を乗せたまま発進された。



5名の殺害容疑



重要参考人 御見内 道 25歳



直ちに警察によって逮捕され、道は署へと連行された。



そして拘留される




目白台一家殺人事件



翌朝 月曜日



各紙、朝刊の一面にこの記事がデカデカと取り上げられ、テレビでも大きく取り上げられ報道された。



あっと言う間に大きな話題となり波紋を呼んだ惨殺事件



この事件の話題を旋風した大きな要因は…



一夜にしての大量殺人、そして、その中に2名もの警官が含まれていた事である。



警官殺しの見出しや文字が世間に氾濫した。



それともう一つはその殺害方法だ



猟奇的なこの事件は、原始的かつ動物的な噛むといった行為によって5名の命が奪われた事…



凶器が使用されてない稀なケースでの犯行に



今まで類を見ない殺害方法に、世間からあっと言う間に関心と注目が集められた。



密かに増大する連続通り魔事件との関連性の有無も問われ



二大ニュースとして、人々を恐怖に陥れ



瞬く間に日本中を震撼させた。



テレビでは朝から晩まで長い尺がとられてこの事件が報道され



インターネットなどのあらゆるツールのニュース情報もこの件の記事が大きく載せられた。



そして、そのテレビや新聞に重要参考人としてあの男の名前が大々的に挙げられる頃



目白台警察署に道は抑留されていた。



第2取調室



昼から始められた取り調べ室に座る1人の刑事が煙草を吹かしながら、何度も同じ尋問を繰り返している。



明らかに様子がおかしく、ただジッと座り、口を閉ざす道の姿が見られた。



道の目は完全に正気を消失している。



受け答えもせず、本当に廃人の如く目の焦点が一致していなかった。



入口付近の壁へ寄りかかり、腕を組みながらただジッと道を見据える夏刑事



闇雲に時間だけが過ぎ、3時間が経過した



テーブルに置かれた灰皿には既に一箱分の吸い殻



新たに煙草の火が消され、痺れを切らした刑事が夏へ振り返って口にした。



刑事「夏さん これ駄目ですよ。やはりこいつ… 完全にイっちゃってます 粘ったものの3時間経つのにひとっ言も喋らないんですから… やっぱ2~3日置いて様子見てからの方がいいかも知れないですね」



刑事は立ち上がり調書らしき書類を夏に手渡した。



刑事「それをどうするかは…夏さんの方で頼んます じゃ お疲れっす」



そして、刑事は足早に取調室を後にした。



虚ろでただ一点を見つめる道を見詰める夏



魚の死んだ様な目…確かにこれはとても人を殺した奴の目とは思えない…



もし浜崎さんの言う通りこいつが犯人で無いとしたら…



だとすれば…こいつの…こんな風になる程の大きなショックとは…?



一体何があったんだ…?



ふとした疑問を浮かべながら、道へジッと視線を向ける夏の元へ



取調室の扉がノックされ、扉が開かれ浜崎刑事が姿を現した。



浜崎「どうだ?」



夏「思った通り… やはり駄目だ まぁこんな状態だからな…うんともすんとも言や~しない」



浜崎「そうかぁ… 夏 ちょっといいかぁ?」



すると 浜崎が夏を外に連れ出した。



浜崎「横谷が今、司法解剖の立ち会いで大学病院に行っててな さっき 連絡があった」



夏「…」



浜崎「例の被害者と思われてた鳴海玲二の胃袋から、いくつもの肉片が検出されたそうだ」



夏「胃袋から?」



浜崎「あぁ 勿論豚や牛じゃねえぞ 人間のものだ 1人娘の部屋に落ちてたあの切断された右腕 あれの欠損した指らしき部分の肉と他にも食いちぎられたであろう喉の肉が血液と一緒に腹から出てきたそうだ」



夏「鳴海玲二ってあの頭をぶちまけてた害者か?」



浜崎「あぁ そうだよ…咀嚼されてる… 明らかに食べた証拠が出てきたんだ これから採取されたそれらを血液鑑定とDNA鑑定に回す」



夏「っとなると?」



浜崎「あぁ…俺の睨んだ通りだよ まだ結果が出てないからハッキリとは言えないが、あいつは限りなくシロになる」



夏「父親が犯人?何故?無理心中か?」



浜崎「いや その線も薄いな…いろいろと調べてみたんだが、借金もなければ人間関係のトラブルも無い、近隣との関係も良好 まさに幸せを絵に描いた様な立派な家庭のようだ」



夏「じゃあ何故…?警官までも…」



浜崎は首を横へ振りながら



浜崎「動機は分からない…だが もう1つ あいつのシロを立証する決定的な証拠が見つかった」



浜崎はカセットテープを取り出し夏に見せた。



浜崎「最初に110番通報したのはどうやらあいつだ これはその時のやり取りが記録されたテープだよ」



夏「え?」



浜崎「まぁ 聞いてみろ」



第1取調室に専用の再生装置が置かれ、浜崎によってそれが再生された。



「ピー …はい こちら警視庁110番です。どうされましたか?事件ですか?事故ですか?」


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