第84話 攻防

決して走る事の無い、緩慢な歩武で3本の触手を揺らめかせる特異感染者



ズッシリと四足歩行で地を踏みしめ、近づいて来た。



4人は後退る



エレナ「みんな気を付けて…」



バックでゆっくり後退する4人が曲折した廊下をそのまま曲がった。



視界から隠見し奴の姿が消えると



「グゥゥ エェレェナ~」



又、エレナと叫ぶ不気味な声



純や「あんなの相手に俺等…ホントに生きて出れるのか…」



ハサウェイ「…」



まただ… また私の名を呼んだ…



何よこの化け物…何で私を…



まさか…?エレナの胸裏に浮かんだ事…



エレナ「あいつもしかして私を狙ってるのかも…」



純や「エレナさんを?」



ハサウェイ「名を呼んだからか?」



エレナ「えぇ もしやと思うんだけど…」



その時だ



由美がハッと何かに気付いた面持ちで口を開いた。



由美「あのプレート… あっ…思い出しました。あの化け物…私…見た事あるかもです」



突然の発言に3人は由美に視線を向けた。



純や「はぁ?どこで?」



由美「警備室の監視カメラの画像でですよ 渋谷の1人が理沙ってのに食べられてる時に横に映ってた奴かもしれません… あの首にぶら下げたプレートに見覚えがあります」



ハサウェイ「理沙の横…?」



由美「その理沙を囲んで立ってた奴ですよ 全然容姿は変わっちゃってますけど 間違いありません きっとそうです」



純や「じゃあ… あいつの目的って…」



エレナ「やっぱりそうだ あの女の使いっぱしりね」



純や「って事はエレナさんを捕まえに来たって事?」



エレナが頷いた。



ハサウェイ「ならあの化け物っぷりは何だ?」



エレナ「それは分からない…」



ゆっくり後退しながら建設業オフィスの扉を通過、芹沢に首と両腕、両脚を切断された特異者の死骸を通過した辺りで



角から触手と共に奴が姿を現した。



「ググウー グゥゥウウ エェレーナ~~」



ひとたび拳銃を向けながら後退するエレナと由美



ハサウェイ「あいつが本当にエレナを攫いに来たと言うなら… エレナはここにいちゃマズい 早くこの場から逃げろ あとは俺等で何とかする」



純や「そうだよエレナさん 早く何処かに身を隠した方がいいよ ここは俺達で奴を倒すから… ってあんなの倒せるのか自信無いけど… でも まぁ何とかする… 多分…」



エレナ「はぁ? 私に逃げろとか何言ってるの?」



ハサウェイ「冗談で言ってるんじゃない 状況分かるだろ? いいからさっさと逃げろ…」



エレナ「私はみんなを置いて1人で逃げたりなんかいたしません」



ハサウェイは言葉を詰まらせた「…」



純や「でも… 今回は渋谷の奴と違う あいつらは人間だったから良かったけど今回は攫われたら完璧にアウトだよ あの女の所に連れてかれたら食べられちゃうんだよ」



エレナ「純やさん 私は逃げも隠れもしません ましてやあいつに攫われるつもりもございません」



断固として突っぱねたエレナをハサウェイと純やは後退しながら無言で目を向けた。



すると エレナがハサウェイ、純やに拳銃をちらつかせ



足を止めたエレナの口調が鋭さを増した。



エレナ「肝っ玉の小さい男の子2人はそこでおとなしく見てて あの化け物は女の子2人で仕留めてやるから」



由美「…」



エレナ「あいつは… 銃殺してやる」



由美が足を止め、構えながらエレナの隣りに配置させた。



エレナ「化け物相手に遠慮はいらない 触手は私がやるから 貴女はあの本体にありったけの弾をぶち込んで」



由美「は…はい」



エレナ「思う存分ぶちかますわよ 穴だらけにしちゃいましょ」



純やがハサウェイに耳打ちした。



純や「エレナさんって…徐々に気性荒くなってません? 軽いチンピラエレナっすよね…」



エレナ「純やさん 今の聞こえたわよ」



純や「え? 嘘 どんだけ地獄耳  あ…いや… 頑張れぇー2人共」



「グゥゥワウウゥ」



拳銃を身構える2人と特異者との距離約10メートル



由美が緊張して唾を飲み込んだ時



エレナ「来る 撃って」



3本の触手が伸ばされ、襲いかかってきた。



3本とも軌道からエレナに向けられている。



パン パパン



エレナから放たれた発砲音と同時に再び3本の触手を空中で撃墜させた。



触手達は血を吹き出し、一旦怯むと見せかけて、襲いかかる瞬間



パン パン パァン



間髪入れず弾丸が食い込み、飛来が阻止された。



カラン カラン カラカラカカーン



落下する薬莢が互いにぶつかり合う音を鳴らし



まるでマジシャンの様に一瞬にして穴に弾丸が装填され、すぐに発砲可能になる。



パァン パンパン パァン パンパン



由美がトリガーを引き本体に銃撃をおこなった。



頭部を狙ったものの、5発外し、1発が右腕に着弾する。



由美が素早く弾込めすると



触手が一旦後ろへ下がるや



今度は3本同時に螺旋の動きでエレナに襲いかかって来た。



連続でエレナが発砲



パンパンパンパンパァン



5発中2発外すが、3本共必中させ、触手達を見事にピタッと空中停止させた。



もう至る個所から血が吹き出しボロボロに陥った触手だが襲撃の手を止めようとはしない…



触手がまたも収縮され、またも引き戻される。



そして…



今度は標的を由美に変えたのか?



またも3本の触手が伸ばされ、それは由美目掛け飛んで来た。



ギョッとした表情で身を固める、由美の眼前で…



パァン パァン パァンパァン



エレナの放った弾丸が貫き、由美への接近を寸前で阻んだ



1本の触手が貫かれた弾丸によって真ん中箇所からちぎれて、落下



たちまち萎れた花の様にダランと垂れ落ち



そのまま動かなくなった。



純やは目の前で繰り広げられる光景に口をあんぐり開けたまま驚きを見せていた。



なんだ… この射撃… 凄過ぎる…



なんなんだ… この戦い…



例を挙げるならバッティングセンターで変化球混じりな80キロの球を撃ち抜いてるのと同じ



しかも3つの球を…



しかも10メートルそこそこの至近距離…



前に警察署であった話し…



一斉に襲いかかって来た100体以上もの感染者を全て1人で撃ち抜いたと聞いたあの信じがたい話し…



これなら…



それが十二分に頷けた。



でも… これって…昔狩猟でちょっと銃をかじったとかのレベルじゃないよね…



とにかく半端ねぇ…



ゲームの画面でも見てるかの様なリアリティーに欠いた光景に純やは驚愕を隠せないでいた。



パン パンパァン! パァンパァン パン



由美から連発で放たれ、顎と頬に命中させた。



「ウゴォ グウゥゥ」



化け物特異者を前に一歩も引けを取らない優勢な状況



エレナと由美が同時に弾込めを開始した時だ



床に転がる胴体のみの特異感染者の死体へ



1本の触手が突如死体の背中を突き刺し、胴体を持ち上げた。



もう一本の触手は転がる生首を串刺しにして同様に持ち上げる。



エレナ「また…」



そう… その死体と変わり果てた特異感染者が以前行った事と同じ…



胴体を盾代わりに…



生首を触手の盾代わりに…



四足歩行感染者が防御態勢に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る