第83話 応戦

大きな音を聞きつけ 純や、由美、スタイル、中村、山本の5人が廊下に飛び出してきた。



矢面に立つハサウェイとエレナに駆け寄る5人



スタイル「ねぇ… 今の何の音… は!」



由美、純や、中村、山本、スタイルが2人同様、前方に目を向けと そこにはあの化け物の姿



5人は急激に身幹を固まらせた。



視界に入る畸形体の感染者にまばたきさえも忘れて



スタイル「あわ… な… なによあれ…?」



純や「なんだこいつ…?」



もう化け物以外の形容が見つからないクリーチャーに震撼する山本、中村が数歩後ずさり



ゾンビよりも遥かに醜い外形



そして、背中から生える3本のあれに純や、由美が釘付けにされた。



ハサウェイ「スタイルさん達は早く中に戻って」



スタイル「…」



そしてエレナも口調を荒げる



エレナ「3人共早く行って 足手纏いになる 2人は力を貸して」



中村「はい… 行こう」



中村がスタイルの腕を掴むや山本と3人で即座にその場から身を引かせた。



3階廊下



ハサウェイ、エレナ、純や、由美vs奇形&四足歩行型特異感染者



こちらの動向を観察でもするかの様にその場に停止する特異者



野太い唸り声をあげジッとしている。



ハサウェイがそんな化け物を目にしながら険しい表情で口にした。



ハサウェイ「あいつらがこの世に現れて早3ヶ月経つが… 純や…あんなのいままでに見たことあるか?俺は初めて見るぞ」



純や「当然同じくっす… あの背中のは何すか…」



ハサウェイ「エレナの言う通り、こいつらの元凶が虫な線 真実味を帯びてきたな」



純や「真実味?」



ハサウェイ「あれは触手だろ」



純や「触手? 触手って あの触手すか」 



ハサウェイ「そうだ ならそれをどう作り出した…? ウイルスは細胞を蝕むだけで、物質の形成や変形なんか出来ない」



純や「はあ…」



ハサウェイ「だが虫の世界ならどうだ…?形を全く別な物に変化させるメタモルフォーゼ(変態)ってのがある あれをみる限りでは虫の方が辻褄が合う」



純や「なるほど ってか虫でもウイルスでもどっちでもいいんすけど… これからあんなの相手にすんの?」



ハサウェイ「あぁ やるしかなさそうだ」



純や「逃げるって選択肢もありますけど…」



ハサウェイ「だがお姉さんはやる気みたいだぞ」



拳銃を構え、眼光鋭く特異者を狙うエレナの額から一筋の汗が垂れていた。



決して室内の暑さからでは無い



冷や汗と言うやつだ



エレナがユラユラさせる物体を凝視



それは血塗られ、かつ扉を殴りつけた為か…先端が潰れている



由美が恐る恐るエレナの隣りに着け言葉にした。



由美「あれ… 人の腸じゃないですか」



エレナ「そうかも 由美ちゃん構えて」



由美「はい」



3本の物体へ目を凝らすハサウェイと純や



純や「このままどっか行ってくんないかね?」



引きつる苦笑いのハサウェイ「頼んでみろよ…」



純やがハサウェイを目にしながら「俺達は何をすれば…?」



ハサウェイ「得体が知れないからな…迂闊には仕掛けられない 今分かってる事は、あの3本の触手は扉をぶっ壊す程の破壊力があるって事だ 無闇に近づいて殴られたらひとたまりもないぞ」



純や「…」



ハサウェイ「ひとまずお姉さんにまかせよう」



その時だ



特異者がアクションをおこした。



「グゥラァゥゥゥウウ」



純やは金属バットを構え



純や「来るかぁ…?」



ハサウェイも弓を構えた。



特異者は吶喊的な蛮声、猛獣の雄叫びに近い激しい声音を発し



そして、突然1本の触手を天井に、もう2本の触手を左右に伸ばし壁へと打ち込んだ。



「グゥゥー エーレーナー」



エレナ「え?」由美「え?今…」



純や「…」 ハサウェイ「??」



4人は耳を疑う。



天井、壁に穴を開け、潰れた先から更なる血を垂らす触手



純や「今…エレナさんの名を呼んだよね…エレナさんの知り合い?」



エレナ「まさか… 初対面よ…」



ハサウェイの顔が更に険しさを増した。



こいつの… あの伸縮自在な触手…



自ら潰し、傷を負いながらも…



身の危険や己の損傷を厭わない気か…



なりふり構わぬ破壊行動…



エレナ「何で私の名を…?」



近寄れば構わずに自虐的とも言える触手攻撃をかましてくるだろう…



やはり遠距離で仕留める他ない…



ハサウェイ「エレナ 俺が1矢放射する」



そしてハサウェイが弓をしならせ、特異者の額に照準を合わせるや第1矢を放った。



シュ



矢音をたて放たれた弓矢



高回転した鏃が額へ届く寸前触手に叩き落とされ、妨げられた。



弓矢の速度は時速約200キロ



射術レベルの高いハサウェイが確実に射止める為 狙い澄ました1矢が



通常の人間や感染者ならまるで問題ない1矢が…



軽々と反応され、防がれた。



防がれた事により…ハサウェイの中である事が思い浮かべられた。



今まで幾何の死線をこの武具に頼り、歴戦で培った己の腕、その自信が脆くも崩れる



認めたくはないが…



改めて自負心が否定されてしまうようだが…



もう…認めざるをえない…



特異者レベルにこの武器は通用しない…



当然あの女王を倒すのも難儀となるだろう…



こいつではこの先 生還は難しい…



こいつでは…



しかし同時に…



だが… こいつは通用しないが…  



こっちには更に上の武器がある…



射撃レベルは…



自分と同等… いや 俺よりも上かだろうあいつが手にする武器



しかも、俺の弓より数十倍の殺傷力を持つ武器、しかも時速なら約1000キロものスピードがある武器



マッハの世界 矢が駄目でも音速の銃弾スピードならどうだ…?



そう… この弓が駄目でも俺等にはエレナがいる…



ハサウェイはエレナの後ろ姿に視線を向けた。



エレナに賭ける…



エレナ「矢は弾かれちゃうね やっぱ私達でやるよ由美ちゃん」



由美「はい」



由美がエレナの隣りで構え、トリガーに指を添えた。



エレナ「弾は?」 



由美「込めてあります」



エレナ「実戦で身につけて」



由美は特異者へ銃口を向けながら



由美「はい」



エレナ「この拳銃の弾道は少しホップして上がるから、的より2~3センチ下に銃口を向けて撃って、先端の部分のフロントサイトを的の1センチ下へ合わせる感じよ」



由美「はい やってみます」



2人のリボルバー隊が特異者へ狙いを定めた時だ



1本の触手がエレナ目掛け飛んで来た。



蛇行な軌道で飛来する触手に…



スピードはそれ程出てない目標を捉えたエレナがすかさず引き金を引いた。



パァン パンパン パァン パンパ



1発も外す事無く、全弾触手に弾着



触手が血を吹き出し、空中で止まって、のたうつ



エレナは素早くシリンダーを開き、薬莢を床へ落としながら



エレナ「本体に撃って!」



由美へ射撃の指示を出した。



構える由美は合図と共に引き金を引いた。



パンパン パァン パン パン パァン



ノズルから射出された5発の弾丸が放たれ、2発が腹部と右太股に直撃



化け物が微かに反応を示し、2カ所にダメージを与えた。



既に弾倉へ弾込めを終えたエレナは空中で浮遊する触手に再び釣瓶打ちで応射する。



パァン パンパン パンパンパン



プライマー(雷管)から点火され火薬が燃えて発生するガス圧力、それが銃身から弾丸を大気中へ押し出した瞬間火薬燃焼の爆発音を奏でる



それが大気と激しく衝突してソニックブーム(衝撃波)が爆発音と混じり合う銃声



双方合わさる為相応に響く音、下手すれば鼓膜を破く程の大きな音が鳴る。



そんなけたたましい銃音を鳴らし、空中浮遊する醜い物体に弾丸が食い込んだ。



触手は銃撃を嫌がっている



効いている…



銃弾を受けた触手が空中でのたうち回る中



由美が新たに弾丸を詰め込み、撃鉄を押すや同時に既に装填を終えるエレナ



嘘…? 早過ぎる…



射撃の腕前は勿論の事



エレナの真骨頂とも言える凄さは、その弾丸の入れ替え速度



それを目の当たりにして、由美はまざまざとエレナの凄さを実感した。



流石は音に聞こえたエレナの実力



由美は感服の意でエレナへチラッと視線を送った時だ



被弾した触手が収縮され戻されると



停止する特異者本体が自ら歩み始めた。

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