第76話 提案

由美「え?」



予想だにしない純やの発言にハサウェイと由美が驚きを見せた。



まさか純やの口からこの言葉が発せられるとは思わなかったからだ



2人は親友…



俺がこいつらと出会ってから知る限り、2人は常に行動を共にしていた。



紛れなく親友と呼ぶに相応しい間柄



そんな1番の相棒だった筈の江藤を殺す決断を下す純やの発言に…



むしろ1番取り乱してしまってもおかしくない…



そんな迷いが生じてもおかしくない状況で純やは誰よりも先に決断を下した。



ハサウェイ「純や… おまえにそれが出来るのか…?」



純や「えぇ 辛いですけど こいつは俺にとって最高のバディーですよ… 出来るものなら何とか助けてやりたいと思ってます… でもそれが無理ならこの手でくだすしかありません…」



エレナ「…」 ハサウェイ「…」



純や「葛藤くんだってよしたかくんを自らの手で下したんです…」



純やが葛藤の死体へ視線を向けた。



由美「純やさん 私…もう仲間が死ぬのなんて見たくない…」



純や「由美ちゃん! 俺だって見たくない でもこいつだけ例外なんて認められないんだ こいつも大事だが同時に…ハサウェイさん、エレナさん、そして由美ちゃんだって俺にとって大事な仲間なんだ これから感染者になろうとしてるこいつと生存する皆を計りにかけるまでも無い… これが俺の答えだよ」



由美「でも…」



純や「残酷だけど… ホント辛いけど…もうやるしかないんだ いいですねハサウェイさん?」



この状況での判断



純やの言ってる事は明らかに正論だ… 分かってる…



それは分かっているのだが…



ハサウェイは簡単に頷く事が出来なかった



純やも身を切る様な思いで覚悟を決め、判断を下しているのに…



どうしても割り切れない… その案に腹をきめれない自分…



覚悟を決められない自分に不甲斐なさを感じるハサウェイ…



まだ頭の片隅から拭え無い一筋の望みが邪魔をしている。



もしかしたら、助ける方法があるのではないかと…



純や「ハサウェイさん!俺がこいつにトドメを刺します… いいですね?」



眼を瞑るハサウェイ



本当に江藤を殺すしか手は無いのか…



本当に俺らの手で…こいつの命を奪うしかないのか…



躊躇いのハサウェイを目にしつつ、純やが由美へ「由美ちゃん その拳銃貸してくれない 俺がこいつにトドメを刺すから」



由美「嫌… 止めて… 純やさん 江藤さんを殺さないで」



純や「由美ちゃん そんな事言わないまで 俺の覚悟が揺らいじゃうよ… その前に頼むからやらせてくれ」



由美「嫌だ… 絶対嫌… この拳銃は仲間を撃つ為の物じゃないもの…渡さない」



純や「こいつが意識を無くしてる今しかないんだ 今ならこいつは何も知らずに逝ける… 今なら楽に逝けるんだよ 俺達だってこいつの苦しむ顔を見ずに済むんだから」



由美「嫌だよ… 本当に殺すしか無いの… それ以外本当に方法は無いんですか?」



方法…?



殺す以外の方法…



うなだれるハサウェイ…



江藤の死を拒む由美…実行しようとする純や…



江藤を囲む純や、由美がこの選択に嘆き苦しみながら、懇請と峻拒の対立、せめぎ合いを繰り広げている。



そんな光景を茫然と冷静が交錯する面持ちで眺めるエレナはある思考を巡らせた。



純やが口にしたあの時の言葉…



あのキーワードがエレナの頭から離れない



虫… そして一瞬人に戻った…



そう言っていた この2つのキーワード



そして可能性と望み…



エレナが3人へ向け口を開いた。



エレナ「みんな 殺しは無しよ これから江藤さんをみんなの所へ運びましょ それで感染者になる前にガッシリと紐で縛るの 誰にも噛みつけないよう特に重点的に口を塞ぐの」



由美「え?」 ハサウェイ「…」 純や「?」



突如な発言に3人は狐につままれたような表情でエレナを目にした。



純や「江藤を縛るってどうゆう事?」



エレナ「殺す以外の手段よ 思いついたわ もしかしたらもしかするの… いーいよく聞いて 純やさん 確か私達に感染者が一瞬だけ人に戻ったって言ってたわね?」



純や「あ…う うん 四足歩行の感染者の時だよね? うん、確かに一瞬だけ戻った 間違いないよ ねぇ そうだよね?」



由美「あ… はい 私も見ました ほんの数秒ぐらいでしたけど…」



エレナ「もし仮に宿主が殺されたなら…器から魂が抜かれた感染者に意識が戻るなんておかしくない? 一瞬でも戻るなんてありえないよ」



純や「う…ん まぁ…」



ハサウェイ「何が言いたいエレナ」



エレナ「私思うの… 感染者は… 宿主はまだ死んで無いと つまり奴らに殺されてる訳じゃないと思うの…」



ハサウェイ「死んでない?」



エレナ「そう 乗っ取られても ちゃんと本体はまだ生きてると思うの ただ純粋に操られているだけじゃないかと… そう思うんだ…」



純や「本体はまだ死んでない…?」



エレナ「そうよ じゃなきゃ一瞬でもなんでも意識が戻るなんておかしい その現象に説明がつかないもの… っとなれば奴らに脳を乗っ取られてるだけで植物人間みたいに閉じ込められてるんじゃないかと思って いくら何でも魂までコントロール出来る訳ないよ」



ハサウェイ「感染者になっても本人は生きている…か…」



エレナ「もう1つ その原因となるもの…それも前に純やさんが話した虫の存在よ… もし仮にこれがウイルスで無いとしたら」



純や「…」



エレナ「もしこの現象の犯人が奇生体の仕業だとしたら何故世界中からその情報が全然あがってこないのか…?それがどうもおかしいと思ったの…」



ハサウェイ「…」



エレナ「最初はウイルスだってデマが流れてたでしょ 虫ってのも違うのかなって… だから信用は出来なかった… だけど理沙が感染者の頭を貫いた時に口走った言葉みんな覚えてる?」



ハサウェイ「…」



純や「ごめん… よく覚えてない…」



エレナ「理沙はあいつらの事を幼虫さんって呼んでたの…」



ハサウェイ「幼虫…?残虐シーンを見せられてて正直覚えて無いが…そう言ってたか?」



エレナ「えぇ 間違いない 私はハッキリ覚えてる その言葉を思い出して 原因は虫だと確信したわ つまり感染者に関してだけど病原の正体はかなりの確率で寄生虫なんじゃないかと… そう思うんだ」



ハサウェイ「ウイルスでなく虫か… 仮にだ その犯人が奇生虫だとしよう… それで?」



エレナ「もし虫が犯人なら… ウイルスと違って抗体を待たずとも外科手術で虫を取りのぞけないのかなと思って もしかしたらそれを取り除けば治る可能性があるんじゃないかと…そう思って」



その言葉でハサウェイの目が見開いた。



純や「手術で取り除く…」



エレナ「これはあくまで可能性の話しよ 確証なんて何も無い だけど0でもないよ 数%でもこの望みに賭ける価値はあると思うの」



純や「脳に貼り付く虫を駆除すれば… 助かるかも知れないか…」


 

エレナ「それなんだけど… もしかしたら寄生してる場所もじつは脳じゃないんじゃないかって思って」



ハサウェイ「脳じゃない…?脳を乗っ取るのに脳に寄生してないって…」



エレナ「分からない それを専門家や医者に解明して貰うのよ」



ハサウェイ「専門家や医者って言ったってどうやって探すんだ?」



エレナ「そしてもう1つ可能性 私達が賭ける大きな望みがあるじゃない 動き出した希望の組織が」



ハサウェイ「もしかしてザクトの事か?」



エレナ「えぇ ザクトはゾンビ討伐で結成された組織だろうけど同時に救出や復興も行う治安維持組織よ 多くの救出者も救ってるのよね なら1人や2人その筋の専門家、医者がいてもおかしくない」



純や「なるほど…」



エレナ「この2つの可能性と望みに江藤さんを賭けたいの いや 賭けるべきよ」



純や「確かにどっちも可能性は低いけど0ではないね」



エレナ「みんなで江藤さんを助けよう」



ハサウェイがエレナを目にすると「殺さずに済むならなんだってやるさ エレナ 俺はその案に乗った」



純や「俺も乗った 江藤を助けよう」



由美「私も それに大賛成です」



ハサウェイ「って事はだ…何がなんでもここから生還しないと行けない訳だな」



エレナ「えぇ勿論 それが大前提」



純や「って事は早い所全て終わらせないとね」



ハサウェイ「あぁ チンたらしてる時間はない…」



「やるぞ」

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