第69話 打技

警備室



純やvsデス



純や「…生きてここから出さないからね」



扉に鍵を掛けた純や



こんなクズな奴…



純やはデスを見ながら…



ふと幼き頃のあの時の事を思い出した…



新宿御苑マンションに住む純やは同マンションに暮らす同世代の友達と毎日の様に遊びに出掛けては泥だらけになって帰宅、毎日のように母親を困らせていた。



もっぱら遊び場は校庭やら公園、近くにある庭園 新宿御苑である



小学生にもなると男の子らしさ全開、好奇心も旺盛で絵に描いたようなわんぱくぶりを発揮



よく悪戯しては近所のおじさんやおばさん、管理人のおおますや恵美子さんに叱られていた。



そんなやんちゃな少年時代を送っていた小学2年の時のある日…



マンションの友達がある一匹の犬を拾ってきた。



まだ目も開かぬ生まれたばかりの真っ白な子犬



このマンションはペット飼育禁止なのだが



子供達は管理人のおおますに飼育を直談判した



「管理人さん お願い どうしてもこの犬を飼いたい…」



「おじさん ちゃんと世話するから お願い」



「おまえ達にちゃんと世話なんか出来るのか?」



「できるよ」 「うん できるできる」 「出来るにきまってんじゃん」



「毎日 朝晩と散歩に連れて行かないといけないんだぞ 雨が降ろうと雪が降ろうとだ 大変なんだぞ おまえ等ホントにそれが出来るか?」



「順番順番にやるから大丈夫」



「絶対やるから飼わせて」



悪ガキ共の真剣なまなざしと熱意にほとされたおおます



「いいだろう だがこのマンションはペット禁止のルールだ 飼うなら住民1人、1人の許可がいる」



そして子供達はおおますと一緒に1部屋、1部屋住人にその旨を説明し許可を頼み込んでいった。



このマンションの中に犬嫌いな人はおらず、全住人から了承を得た子供達



そして駐輪場奥のスペースで特別に飼わせて貰えるようになった。



すぐにおおますの用意した犬小屋が設置され、ガッツポーズで喜ぶ純やとわんぱくな仲間達



おおます「ちゃんとみんなで面倒見るのが条件だからな 飽きたからもういいは駄目だぞ サボったらゲンコツだからな いいなみんな?」



「はーい」



純やを含め子供達は大きく首を縦に振り、返事した。



早速子供達からスノーと名づけられた子犬



真っ白で雪のようだからスノー



子供達が学校に行ってる間は犬好きなおおます夫妻が協力し面倒



子供達はちゃんと子犬を世話した



スノーはスクスクと育ち、スノーは大型犬のようでみるみる大きくなっていった。そして今では仲間の一員となりどこに行くにも子供達と一緒



野球をしている時も 釣りをしている時も 庭園に密かに作られた秘密基地でも 悪戯する時も それがバレておおますに怒られる時もいつも子供達と一緒



友達同士が喧嘩になれば仲裁にだって入る



そんな日々を送り



ごく当たり前の様に1日1日の思い出が純やの記憶に刻まれていく中



純やが小学4年生にあがった頃



いつもと変わらず学校で野球をしていた時にそれは起こった。



校門の外に飛び出したボール



「スノー ボール取ってきて」



いつもと変わらぬ球拾いの場面、スノーがダッシュでボールを追いかけ校門から飛び出した時



スピードを出したトラックがスノーの横から現れた…



一瞬の出来事…



その事故で一瞬にしてスノーの命が潰えた。



大声をあげて泣く友達



純やもわんわんと声を荒げて泣きじゃくった。



魂の抜けたスノーの亡骸を囲み



純やはこの時初めて、生き物の死と向き合い、悲しみを知った。



命の尊さ、儚さ、大事なものを失った時の虚しさ、これらをスノーの死から学び、実感すると共に



幼きながらもスノーの死により、漠然とした生の重要性、貴重性なども知る事が出来た…



どんな生き物にも命がある…



デス… この目の前にいる男にも…



こんな下劣なクソ野郎にも…



俺は目の前のこいつをこれから殺そうとしている…



おおますさんの命を奪った許せないこいつを



羽月さんまで手にかけ、このビルだけでも既に5~6人もの人を殺めて来た凶悪な殺人者を



でも…



こんな奴でも命は1つしかない…



本当に自らの手でそれを奪うのは正解なのだろうか…?



果たして本当に引導を渡すべきなのだろうか?



純やは刹那な時間、目を閉じ神妙な面持ちで顔を鬱いだ…



純や「…」



自問自答する純やが自ら導き出したその答えは…



目を開き、ニンヤリと笑みを浮かべた。



こいつは特別っしょ!



こんな奴… 生かしておく必要ないっしょ!



つーか引導渡してやるに決まってっしょ



こんなカス殺っていいに決まってる



全身がまだ痺れて動けないデスに狂気じみた怒り笑顔を向ける純や



そんなキレ顔の笑みを浮かべる純やを見てデスの肝が瞬く間に冷やされた。



純や「ねぇ おまえプロレス好き?」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



3階廊下



目を細め、視界を開けた2人



芹沢の姿は忽然と消えていた。



ハサウェイ「大丈夫か?」



エレナ「うん 平気 あいつ逃がしちゃったね…」



ハサウェイ「あぁ」



エレナ「さっきのあれ何?」



ハサウェイ「閃光弾だよ」



エレナ「閃光弾って…バスハイジャックとか立てこもりの時に使われるあれ? あいつらそんな物まで持ってるの」



ハサウェイが腕に絡まる糸を取りのぞきながら



ハサウェイ「そうみたいだ あいつは他にもう一個持ってた それよりエレナ あいつの糸の事がちょっと分かったぞ」



解いた糸をエレナの前に放り捨てた。



ハサウェイ「それ… ピアノ線に似てる 多分あの球体みたいなやつに仕掛けがあるんだ それであれに触ると切れたりするんじゃないかと思う」



エレナ「球に触ると… って事は?」



ハサウェイ「触れさせなければいい…」



エレナ「なーるほど って事は腕から切り落としちゃえばいいって事ね」



ハサウェイ「おっかない事言うな 悪エレナ登場か」



エレナ「そうだよ 私もう本気で激おこなんだから」



ハサウェイ「まぁ次会ったときは あの武器を封じてやろう」



エレナ「うん」



ハサウェイ「そして鍵のありかを吐かしてやる」



エレナ「えぇ あの男 絶対に許さない」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



警備室



純やが拳を振りかぶり、デスは咄嗟に頭を抱え防御した。



ほぉ ガードね でも… そんなの関係ないね…



純やはデスのガード上から強烈な右ストレートを打ち込んだ。



バコッ



ミシィ 嫌な音が鳴り



骨にヒビが入ったのだろう…



デス「ぅぐ」



眉間にシワ寄せ、デスが表情を歪ませた。



純や「あら もしかしてガードした腕イっちったかぁ? 俺さぁー 青春時代ずっと野球に打ち込んできたんだけどさ 野球と同じくらい趣味に夢中になったものがあって それがプロレスなんだわ」



デス「あぁ?」



純や「だーかーらぁー」



喋りながら再び拳を振りかぶり、パワーを蓄えた純やが再びパンチを繰り出した。



バカッ ペキッ



デス「ぐぅ」



クソッ… なんだこのクソ重いパンチングは…



まるで鉄に殴られたような激痛が生じデスの右腕は大きなアザができ、ヒビの範囲を更に広めた。



純や「脆(もろ)! ちゅーかまだMAXじゃないんだけど」



3度目の振りかぶられた拳



純や「それよりプロレスって技のネーミングがなんかカッコいいし、派手な技もいっぱいあって面白いんだけど実際には危険な技ばかりだから友達とのプロレスごっこはたかが知れてんだよね」



デスがガードする隙間から純やに視線を向けた。



さっきからこいつは何をほざいてやがる…?



純や「ほれ 3発目」



力を込めた拳が放たれ、3発目も同じ箇所に打ち込まれた。



ドカッ ベキッ



デス「があぁ」



今度はハンマーで殴られた様な硬い拳がモロに入り、デスの右腕はパンチの威力に負けた。



純や「あららら 今折れちゃったんじゃない? ガードしてんのに折れてちゃ意味なくねぇ 相当カルシウム不足でしょ…」



右腕が青く腫れ上がり、骨が折れると右膝をつけて姿勢を崩したデス



純や「プロレスごっこしようぜ」



すると その瞬間を逃さず純やがデスの片膝に左足を乗せ、ジャンプと同時に右の膝をデスの頬にブチかました。



ドカッ



デスは唾を吐き捨て、勢いよく倒れ込む



純や「死ぬ前に覚えといて まずはこれが武藤敬司のシャイニングウィザードだよ」



デス「チッ 何がなんたらウィザードだ 知らねぇよ」



純や「お 少し元気出てきたんじゃない?」



デスが上体を起こしながら懐に手を入れようとした時



目前には低空に浮かぶ純や



バカン



低空式ドロップキックがデスの顔面を直撃した。



純やは背面受け身で着地させ



純や「おいおい ごっこ中によそ見しちゃ駄目でしょ」



クソッ なんだこいつは…?



鼻から流血するデスが起き上がると、既に仁王立ちで見下ろす純やを見上げた。



純や「喧嘩でプロレス技使ってくるなんて初体験でしょ? あ 殺し合いだったか… さて 次は何の技試そうかな…」



その時 



キラー「ハハハァー ハハハハ」



扉の先からキラーの下品極まりない声が聞こえてきた。



そして… 



キラー「ヒャーハァァー 俺の勝ちだ」



葛藤は殺され



これから2対1となる

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