第58話 疾走

非常扉の隙間から黒い煙がモクモク立ち込め上昇、その数秒後、引火した火も混ざり隙間から火の手があがった。



フロアー内はフラッシュオーバー現象が発生し既に700度にまで達した火炎地獄と化している…



溶解、燃焼が繰り返され今では天井、床のコンクリートは剥き出しになっていた



その剥き出しのコンクリートに容赦無い猛火力が舐め続けると次第にそれらは変形し脆く



爆裂が発生、コンクリートに幾つもの亀裂が生じはじめた。



そして、フロアー全域のコンクリートに次々と亀裂が生じるとそこから粉塵が舞い散り、熱、酸素量、粉塵濃度と様々な条件が重なり、一瞬にしてコンクリートから出た不燃性の粒子が可燃性へと変化



突如、金属粉塵爆発に似た現象が巻き起こった。



あらゆる窓から火炎が吹き出し



また爆発により天井の各部が崩落、床のコンクリートが突き破られ、更に下の階の床をも突き破り20階まで残骸が降り注いだ



突破口が開けた穴から火の粉が舞い降り、着床、急速にくすぶる火の粉が20階の絨毯で発火した。



こいつらもまた…まるで意志を持ったかの様に全てを燃やし尽くそうと上へ下へと火の手を伸ばしていく…



タイムリミット約8時間…



12階 喫煙&リフレッシュルーム



葛藤が煙草をくわえ火を点けた。



その隣でハサウェイは何処かうわのそらで何かを考え込んでいる…



江藤「火災が起きた今…これから上にも下にも広がって徐々に行動範囲が狭まってくるよ この状況で流石に上に上がる馬鹿はいないでしょうし あいつらもきっと降りて来る  近くの階に潜伏してる筈だよ」



純や「あぁ…」



そして純やがハサウェイへ「あいつらが動き出せば監視カメラですぐに見つけられますし 警備室からの情報で先回りして、待ち伏せの奇襲攻撃だって出来ます 接近戦ならあいつらなんかに負けない自信がありますからね やっぱここは一気にカタを着けた方がいいかもしれません」



葛藤「だな しかもこっちの方が人数も多い 3対5だろ 断然俺らの方が有利だ それに加えて待ち伏せの奇襲攻撃となれば もう楽勝コースなんじゃねえか 総力戦もこの方法ならイケるべ これで決まりだろ? なぁ!ハサウェイ?」



1人考え込むハサウェイ「…」



葛藤「なぁ おまえ聞いてんのか?」



ハサウェイ「うん? あぁ…そうだね」



ハサウェイの様子がおかしい…



それをいち早く察知したエレナが問いかけた。



エレナ「ねぇ どうしたの?」



ハサウェイ「いや… 何でも無いよ」



葛藤「なら 渋谷のゴミ野郎共退治 これで一気にケリつけるでいいよな?」



ハサウェイ「…」



純や「ん!? ハサウェイさん」



葛籐「おい 何ボォ~としてんだ 聞いてんのかよ?」



ハサウェイ「あぁ ゴメン もう それしか方法はないね それで行こう」



何かが引っかかる…



ハサウェイが懐から取り出したトランシーバーを目にした。



さっきから何かが引っかかるんだ…



すぐに気付かなければいけないような事があるような…



このトランシーバーを渡されてからどうも… なんだ…?



葛藤「なぁ 何度も言うけどおまえらキラーって奴には手出すなよ あいつにトドメを刺すのは俺だからな?」



腑に落ちない…



その腑に落ちない元とは一体なんだ…?



純や「分かってるけど混戦になったら実際誰がどうこうなんて言ってらんないかもよ」



何だ…?



葛籐「まぁ そうだな 出来るだけ頼むわ」



何かを見落としてる様な気がする…



胸騒ぎに似たこの感覚…



葛藤「俺がこの日本刀で奴の心臓にひと刺ししてくれるぜ」



江藤「やる気満々だね」



必ず何かある…



葛籐「ったりめ~だろ おっさんの仇だ おっさんの恨み、よしたかの思い、俺の怒りは全てこいつに注入してんだ この斬鉄剣でぶった斬ってぶっ刺してやるぜ」



江藤「ハハ 凄い気迫 頼もしいね」



何だ…?



純や「俺達だっておやっさんの恨み晴らしてやらないとな」



江藤「うん」



そんなやり取りを目にしながら思考するハサウェイ



重要な何かを… 気づけ…



純やがトランシーバーを手にした。



純や「他にも俺達にはこれがある 2つあるから奇襲する時も二手に別れて同時に挟み撃ちが出来る」



葛籐「楽勝だな ならさっさと片付けようぜ」



純や「焦らないの じゃあ本当にこの作戦でいくけどみんないいね?」



葛籐「勿論だ」



エレナ「オッケーです」



ハサウェイが純やの持つトランシーバーに目を止めた。



エレナ「トランシーバーもみんなの分 1人1個あれば挟み撃ちどころか四方八方から狙えていいのにね」



葛籐「そうだよ みんなの分用意してこいよな」



トランシーバー…?



葛籐「人数分ないのか?」



1人… 1つ…?



純や「無茶言わないでよ」



その時だ 脳裏をよぎった



ハサウェイが目を見開き口にした。



ある事に気が付いたのだ



ハサウェイ「純や このトランシーバーって警備室から持ってきたんだよな?」



一同がハサウェイに振り向くとハサウェイの表情は険しい…



エレナ「ハサウェイ… どしたの?そんな怖い顔して…」



ハサウェイ「純や この2つは警備室から持ってきたんだろ?」



純や「えぇ そうです」



ハサウェイがトランシーバーを握りながら「こいつは全部でいくつあった?」



純や「2個です」 



葛藤「それが何だよ?」



ハサウェイ「間違いないか?」



純や「急いでましたけど… えぇ まぁそうだと思います」



ハサウェイ「トランシーバーの1つは潜入班として俺等が持っていた 後おおますさんが自分の分1つと まるこめさんや渋谷組が警備室を占拠した後、俺等に合流する時に使おうとしてた分が1つとで2個持ってた筈なんだ」



エレナ「うん 計3つでしょ 1つは失っちゃったし数合ってるんじゃない? え? それがどうしたの?」



すると 葛藤の表情も急激に険しくなった。



ハサウェイが葛藤へ「前田さんも1つ持ってたんじゃないのか?どうなんだ?」



葛藤「あぁ 1つ所持してた筈だ」



江藤「え?」 



エレナ「え?」



そして…エレナも気付いた…



エレナ「嘘でしょ…まさか…?」



そして再びハサウェイが純やへ「この作戦で…このビルには全部で4つのトランシーバーが持ち込まれてるんだ よく思い出せ ホントに警備室には2つしかなかったのか?」



純やだけがまだ気づいていない…



純や「確かです 2つだけです え? 何? 分からない」



ハサウェイ「3つなければおかしいんだよ… なら…あと1つは何処へいった?ゾンビが持ち去ったか? ある筈の残りのトランシーバーは誰が持ってるんだ?」



まだ気付かない純や「誰が持ってる?」



少し声を荒げたエレナが純やへ口にした。



エレナ「渋谷組よ 純やさん 今すぐ電源を落として」



純やの黒目がうっすら膨張



焦る江藤



江藤「あいつらが手にしてるって事は…まさか…今までのやり取り全て聞かれた?」



純や「作戦の事… 筒抜けか…」



慌てた様子のエレナが更に荒げた



エレナ「問題が違う 由美ちゃん達や3階の人達、私達の場所まであいつらに全て知られたかもしれないのよ」



それを聞いた純やが慌ててトランシーバーを手にすると



ハサウェイ「それは止めろ トランシーバーは奴等に傍受されてる 消せ 内線電話だ」



葛藤「早く電源を落として 電話しろ」



純やはすぐさまトランシーバーの電源をオフり、内線電話の受話器を手にとりまずは警備室の番号を押した。



コール音が純やの耳に入ってくる…



聞かれたとしたら… あれから五分は経過している…



たかが五分だが五分もの時間が過ぎている… 五分もあれば十分過ぎる… もう襲われた可能性だってある…



頼む… 出てくれ…



心臓の鼓動が速まる純やが生唾を飲み込んだ。



そして、5コール目で羽月が電話に出た。



羽月「もしもし…」



純やは一瞬だけホッとした



そして声を張り上げた



純や「今すぐ由美ちゃんを連れてその場から離れろ 今からそっちに向かう 俺達が行くまでどこかに隠れるんだ」



羽月「え?」



純や「渋谷組がそこへ来るかもしれない いいからすぐにどこかへ隠れてくれ 早くだ」



そして電話を切ると今度はすぐさま3階にコールした。



それと同時にハサウェイが突然駆け出した。



ハサウェイ「エレナ 一緒に! 残りは警備室へ行け」



奴等に聞かれた可能性が高い今…



警備室、3階…渋谷組がどちらへ行くか分からない…



二手に別れて、同時に襲う可能性もある



今はいちいち話し合ってる暇は無い…



こっちも二手に別れて向かう他ない…



エレナが3人へ振り向くと軽く頷きハサウェイの後を追って走り出した。



これよりハサウェイとエレナが3階へ向かう…



純や「もしもし 緊急事態だ 今は事情を説明してる暇は無い いいか?今からみんなを連れその場から離れるんだ」



山本「分かりました でも何処へ?」



純や「何処でもいい… フロアー内の何処かへ場所を移し 隠れろ 今からハサウェイさんとエレナさんがそっちへ向かう 早くだ 渋谷組が襲って来るぞ」



山本「え? わ…」



既に受話器が純やの手から放れ、垂れ落ちていた。



純や、江藤、葛藤は猛ダッシュで警備室へ走り出していた。

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