第57話 午贄

19階 非常階段



全ての会話のやり取りを耳にしたキラー、デス、芹沢



信じられないといった表情を浮かべるデス…



デス「嘘だろ…健太が食われてる…?」



龍谷の死に続き… 今度は健太が食べられてる… 今現在仲間が殺されようとしている…



トランシーバーから流れた情報を耳にし、キラーも放心状態に陥り、ただ…ただ…俯いている。



そして乱心気味なデスがキラーの肩を激しく揺すった。



デス「おい おまえ 何ボォーとしてんだ?今聞いただろ!早くあいつを助けに行くぞ! 早く! 早く助けに行こうぜ」



純や「ザザ また何かあったら連絡する、そっちも何かあればすぐに報告よろしく ザァー」



羽月「ザァ 了解 分かった ガァ」



そして無線のやり取りが終わった。



芹沢はトランシーバーを懐へ仕舞い、眼鏡の縁を上げるとデスとキラーに視線を向けた。



デスは明らかに動揺を見せキラーと芹沢へ交互に目を向けながら声を荒げた。



デス「なぁ お前等 何ボサッとしてんだよ どうしたんだよ? 早くしねぇーと健太が食い殺されちまうぞ さっさと行くぞ 早く助けに行かねぇと」



芹沢「デス… 助けたいのはやまやまだけど もう間に合わないよ 無駄だ もう健太は諦めよう」



デス「諦めるだと? ダチが今…食われてんだぞ シカトできっかよ」



芹沢「あいつら肝心な場所は言わなかった 何処をどう探しに行くの?」



デス「そんなの片っ端から探せばいいだろ」


芹沢は目を瞑りながら「悔しいけど無駄だよ… 間に合わない」



デス「おい!おい!おい!おい!おまえ人を殺し過ぎて…とうとう仲間の命まで薄くて軽くなっちまったか? ダチだぞ」



芹沢「まさか… そんなんじゃ… 残念だけどもう助けられないって言ってるだけだ」



すると



デスの目つきがカァ!っと見開き懐に手を突っ込んだ。



そして懐から何やら取り出す直前、芹沢がまるでスパイダーマンのクモの糸の様に手首にスナップを加えた。



一線の糸が球体から飛び出し、一瞬にしてデスの首に巻き付かれる



芹沢はその球体へ手を添えながら口にした。



芹沢「やめろ 何する気だよ?落ち着けって 頼むからこんな所で爆弾使用とかは止めてくれるかな そんなのあの化け物か、俺等以外の奴に使ってくれよ」



懐で握られた手榴弾



デスはもう片方の手で首に巻き付く糸へと触れた



デス「テメェーはこのヘンテコな武器で今度は俺まで手にかけようって気かよ? チョンパするか?」



芹沢「おまえこそ… 血迷って3人仲良く爆死の心中なんて御免なんだよ おまえが引けば俺も引く 単におまえがその手をどければいい話しだ」



デスが首に巻きつく糸を人差し指でそっと触れた。



途端に指が切れ血の滲むその指を見ながら口にした。



デス「へ なんだよこれ…ちょっと触れただけで指が切れやがった ただのワイヤーじゃねえな… なぁ芹沢 この手をどける代わりにこいつの正体を教えろ」



芹沢は一瞬笑うと「やれやれだね しつこい奴だ しょうがない…分かったよ」



そして巻き付つ糸がスルリと外され引き戻された。



デスも懐から手を出す。



芹沢「これは鋼糸ってやつだよ こいつはトスミクロンと言ってピアノ線よりも微細で強度も精度も高い炭素鋼で出来てる それを四重にも編み込んであるんだ そしてこの球体を揺するとこっからマイクロ波の熱電と超振動をこの鋼線に伝えられ仕組みさ 分かった?もういいだろ」



デスは吹き出すと「ハハ 言ってる意味わかんねぇよ なにがマイクロ波だ馬鹿野郎が あ~あ じゃあこれからどうするよ?あいつらが欠けた以上…3人じゃシラけちまうな そろそろ脱出でもすっか?鍵かけちまえば、いずれあいつらみんな焼かれて死ぬだろ」



すると…



キラー「ふ…ふふ…はははは…」



キラーが突如顔を上げ大笑いしだした



キラー「はぁははははあはは…」



デスと芹沢が高らかに笑うキラーを目にした。



キラー「うけるな…中々おもしろいジャパニーズジョーク言うじゃねえかおまえ」



デス「あぁ?」



キラー「脱出? 逃げるって言うからよ うけるって言ったんだ」



デス「別に俺は…」



先程の笑いがピタリと止み…キラーの笑い顔が一変!凶気と狂気に満ちた顔に豹変していた…



キラー「皆殺しだ このビルにいる全ての奴等を皆殺しにする」



芹沢「だってさ… デス!脱出はまだ駄目みたいだよ」



キラー「脱出するとか寝ぼけてんなよお前等 2人も殺されたんだぜ この怒りは殺戮で晴らすぞ 脱出は暴れ終わってからだ」



芹沢はデスへ「だとさ もう観念して付き合うしかないよ」



キラーは天井を見上げると「あ~ 久し振りだぜ~ 入っちまったよ…完全 殺(や)る気スイッチ入っちまったわ どいつもこいつもブチ殺してやらねぇと気がおさまらねぇ~わ」



芹沢「いや~ キラー 今のおまえの表情… 生き生きとしたいい顔してるよ 輝いて見える それでセックスの道具もみんな殺っちゃう系?」



キラー「生きたオナホールは殺すな 殺すのは男だけにする メスは後で時間かけてゆっくり地獄見せてやっからぁ」



芹沢「了解 新リーダー 仰せのままに」



デスも吹っ切れた表情へ変わると



デス「フゥ 憂さ晴らしの人間狩りかぁ まぁそれもありだな 付き合うよ大将 それじゃあどっちから攻める?2階?警備室?」



キラーは銃をしまい鋭いファイティングナイフを取り出した。



キラー「まずは2階から行く 警備室から攻めるぞ!」



デス「ほ~い あれ?何でナイフに…?」



キラー「こっちの方が得意なの知ってんだろ それに銃だとあっさり殺し兼ねない… こいつでじっくりジワジワ血祭りにあげねぇーとだ」



芹沢は微笑を浮かべると「はは やっぱ性根からイカれてるよお前は…」



キラー「行くぞ」



鬼畜な3人が動き始め忍び寄る渋谷組が警備室へと迫る



エレナ達はまだそれに気づいていない…




15階 エレベーターホール前



生まれてこのかた…これほどの痛みを味わった事は無い…



いい大人にもなって、勝手に小便が垂れがった… 漏らしちまったよ…



すげぇーどころか 意識がぶっ飛びそうなくらいのこの痛み…



痛みに耐えきれずショック死する奴の気持ちが良く分かったぜ



こんなのを今日は4回も受けてんだ…



一回目はファーストコンタクトで特異野郎に手を握り潰され、原形留めず五指をあらゆる方向にへし折られた。



二回目は雑巾でも絞る様に腕をねじ曲げられ肩から手首までのあらゆる骨をへし折られた



そして三回目は太ももを銃で撃ち抜かれ…



四回目は… 今俺の腕を…捻りながら引きちぎりやがった… その腕を俺の目の前で食ってやがる…



最悪だぜ…



気が遠のきそうな視界の先には女の姿が映り、朦朧とする中、自分の腕がもぎ取られ食べられている光景を眺めていた。



俺はこれからどうなるんだよ…?



絶望視する健太が瞼を閉ざした途端



カァっと目が見開かれた。



健太「うぐぉ」



今度は理沙が切断面にかじりつき、肉片を噛みちぎったのだ



肉を噛み締め、味を確かめるかの様にムシャムシャと咀嚼する理沙の顔は血で真っ赤に染まっていた。



理沙「うげぇー やっぱ貴方マズいよ こんなマズい肉 理沙食べれない こうゆうマズいお肉はあーげる」



理沙が口に含む肉片と健太の左腕をポイッと後ろに投げ捨てた。



すると 周りでユラユラ徘徊する感染者やゾンビ等が一気に群がり争奪がはじまる



それはまるでパンをあげるとたちまち群がる鳩の様に1本の左腕におよそ30体程が群がり、それを巡って激しい奪い合いが行われている



腕が頭上高くまで跳ね上がり、その腕に伸ばして掴もうとする何十本もの手が伸ばされた。



そして腕が落下するとその腕に再度群がり、追いかけっこで感染者やゾンビが廊下を移動していく



理沙「この前のお肉の方が全然おいしかったよ 不健康で不新鮮でしょ~ 変な味がするんだよね」



切られた傷口から大量の出血…



出血多量で健太の意識が急激に薄れていく



美味い…?まずい…?



クスリやってっからか… つ~かそんなん知るかよ… 



やばい… 目が霞んできやがった…



死ぬのか… 俺は…



健太の霞む視界に、腕の争奪戦に加わらぬ…



理沙の後方でただジッと立ち尽くす4体の感染者が目に映った。



なんだこいつら…?



そこいらの奴と違う…



特異感染者か…?



理沙が後ろを振り向く事なく人差し指をクイックイッと動かすや…



1体の感染者が理沙のすぐ後ろまで近づいてきた。



何を話す訳でもない理沙と感染者の姿…



他の感染者はジッと立ち尽くしている…



何してんだこいつら…?



ねぇ…



このお肉 全然美味しく無い…だから貴方達で…この女を探してきてよ…



言葉では無い会話が行われている



そう… この女だよ… それは駄目…そのお肉は理沙の許可無く食べちゃ駄目よ… お腹が空いてても我慢しなさい… ただ見つけるだけでいいの… うん…そう いい子ね…じゃあすぐに探してきて…



いってらっしゃい…



すると 1体が後退り理沙から離れると何処かへと姿を消した。



パン



いきなり両手が叩かれ



同時に笑顔の理沙が健太を覗き込んだ



理沙「そうだぁ そうそう ここの部位は美味しかったもの もしかしたらここならぁ理沙でも食べれるかもしんない」



そしておもむろに健太のズボンのベルトに指を掛け外し、ズボンが脱がされた。



おい… 何する気だ…



理沙「えい」



そして下着がずり下ろされた。



嘘だろ…? 美味しかった部分ってまさか…?



虚ろな目で健太が見下ろすや



下半身丸出しな健太の肉棒を理沙がしゃがみ込み握り締めていた。



そして上目づかいで健太を目にしながら理沙は舌先で肉棒を舐め回し、口に含んだ



理沙「ふふふ」



健太「うっ」



こんな激痛にも負けず劣らず反応された男根、感じた健太のシンボルが見る見る大きく、固くなっていった。



理沙は艶めかしい上目づかいで健太を見上げ、健太と目を合わせながら数度根元まで口に含んだ



その時だ



健太「うぐぁぁ」



張り裂けんばかりに目を見開いた健太



何の掛け声も合図も無く突然男根が根元から噛み切られた。



健太の虚ろだった目が再び大きく見開かれ 、痛みで涙を流し、また同時に口を開けたまま、よだれを垂れ落とした。



健太「かぁ… か…」



ムシャムシャと口の中で噛み砕かれ食べられた肉棒…



だが すぐに…



理沙「うげぇー やっぱこれもまずい ぺっ」



健太の目の前で吐き捨てられた。



理沙「あ~あ がっくし もう理沙の餌として失格だなこりゃ これじゃあ脳みそも美味しくなさそうだし もういーらなぃ 後ろの子達にあげちゃお」



そして理沙は「それぇ~」



健太のヘソに指を突っ込み… そのまま手を突っ込ませていった。



白眼を向く健太「が…がはぁぁああ」



理沙「それそれそれぇ~」



手刀で健太の体内にスブズブ奥まで突っ込ませ、何かを掴むや



理沙「あった つっかまえたぁ~」



それを強引に引き抜いた。



腹部から鮮血と共に取り出された物…



理沙の握る手には腸が掴まれていた。



そして腸をズルズル引き出し、それを掴んだまま感染者達の間を走り出した理沙



完全白眼を剥き健太は既に絶命している。



そんな健太の体内から腸を引きずり出しながら…



およそ7~8メートルまで伸ばされた腸



感染者やゾンビ達はその長く伸びた腸に釘付けとなる



勝手に食いつくと理沙に怒られるからなのか?



30体程の感染者やゾンビ達はまるでご主人からおあずけを喰らう犬の様に、ザワザワした様子で腸を見詰めていた。



理沙「みんな ちゃんと待った出来ていい子ね お待たせしましたぁ~ はい じゃあ召し上がれぇ あちらもお好きにどうぞ!」



絶命した健太本体を指差す理沙



全身血塗れな理沙が廊下を歩む背後で貪欲なまでの感染者、ゾンビ達がこぞって食らいついていた。



立ち尽くす3体の特異者だけが、肉に興味を示さず理沙の後をついてきた。

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