第55話 漏洩

渋谷組も移動し感染者達も姿を消した廊下…



消されぬままに残された弱り火…



その火が再び息を吹き返し…



徐々に火力を強めていった…



火の勢いは壁を伝い… 床を伝い…侵食するように範囲を広げながら天井まで到達



フロアー内を包み込んでいく



スプリンクラーが作動しない今、広範囲に勢いを増しながら…



火災は火急的に拡大



気づけば22階のフロアー全域にまで広がりをみせた



ーーーーーーーーーーーーーーーー



14時35分



12階 喫煙&リフレッシュルーム



純やが額を手で拭いながら「ふぅ~ いや~ ビビった まさか外人のに出くわすとは思わなかった…ゴツいし焦ったわぁー」



江藤「確かにあれはちょっとビビるね…」



ハサウェイ「皆は無事なのか?」



純やは金属バットを壁に立て掛けると



純や「いえ 1人犠牲になりました…」



エレナ「え?犠牲…」



そして、純やがハサウェイ達と別れてから起きた詳細を皆に話し始めた。



四足歩行感染者に襲われ1人が犠牲になった事



由美や羽月と共に警備室を目指し四足歩行感染者と対決、倒した事



またおおますがゾンビ化していた事や警備室のモニター画面でみんなを発見した事など



それらを事細かく説明していった。



そして話題はあの渋谷組と鍵について話されていった…



ハサウェイ「鍵か… 渋谷の誰かが持ってったんだよな?」



純や「えぇ恐らく… あいつらの誰かです…メインのセキュリティーコンピューターが壊れてる以上その鍵が無いと永遠にここから出れません 何としてでも手に入れないと…」



葛藤「こんなデカいビルなんだぜ どっか抜け道の一つくらいあるだろ」



純や「いや 無い 凄いよこのビルは、トイレの小窓までセキュリティーの格子が降りてて出られなくなってる 全てを計算されてる…完璧に脱出経路が塞がれてるんだ あいつらの中に1人利口な奴がいるみたい」



葛藤は皆に視線を向けながら「まじかよ一つも… 馬鹿そうな奴しかいなかったけどな まぁ強いて言えばあの眼鏡 あ!あの眼鏡じゃねえか?」



純や「うん 俺もそう思った…多分細工したのはあいつだと思う」



ハサウェイ「あぁ… 確かに…あの時奴は警備室から交信してきた 奴で間違いないだろ… だがもう誰が細工したなんてどうでもいい話し 、問題はその鍵のありかだ」



葛藤「そんなの眼鏡が持ってんだろ」



ハサウェイ「かもしれないし他の奴が持ってるかもしれない」



エレナ「もしくはどっかに隠してる可能性もあるよ」



葛藤「なるほどな…」



ハサウェイ「どうやって手に入れるかだな…」



葛藤「一気に乗り込んで総力戦でいいんじゃねえ?奴等全員倒して奪い取ればいい」



エレナ「さっき話したじゃない…それじゃあ駄目だよ」



葛藤「なんで?」



ハサウェイ「やっぱり総力戦はリスクがでかい…あいつらの中にも拳銃持ってる奴はいるし… 得体の知れない武器の話しも聞いたから尚更だよ」



葛籐「…」



ハサウェイ「…総力でブチ当たれば次はホントに死人が出るかもしれない… ヘタしたらこっちが全員殺される可能性だってある」



葛藤「じゃあどうするよ?1人1人チマチマ潰してくってのか?」



ハサウェイ「出来ればそうしたい…」



葛藤「そんなんで大丈夫なのか?そもそもあいつらが単独行動するのかよ? きっと奴等だって俺等みたいに固まって行動するぜ、1人になる一瞬の隙を狙えってのは難しい気がするけどな」



純や「いや! それ…やってやれない事ないよ 今警備室は俺等が抑えてるんだ 監視カメラの無数の目が俺達にはある それを使って奴等の居場所を突き止めて行動を監視するんだ それで1人になった絶好の瞬間を静かに殺るんだよ」



江藤「1人になる瞬間か…暗殺だね」



葛藤「どのタイミングでだよ…それは忍耐勝負か?」



純や「勿論やってみないと分からない でも奴等ホモじゃあるまいし24時間男同士でベッタリなんてあるわけ無い トイレに行く時や1人になりたい時だってある筈だよ それを近くでジッと身を潜めて伺い合図と共に殺るんだ ハサウェイさん!どうです?」



ハサウェイ「あぁ いいかもなそれ やってみる価値はあるよ エレナはどう思う?」



エレナ「そうね…その時って…もしかすると相手も油断してるし丸腰って可能性も高いよね 油断してる隙を突くのはいい手かも… それで…もしやるなら誰からやる?」



ハサウェイが視線を向けるとその計画案に江藤も頷いた。



ハサウェイ「そうだな…誰がいいと思う?」



江藤「俺は誰でもいいです 1人になったそいつを殺ればいいかなと」



純や「俺も誰でもいい」



葛藤「俺はキラーってカス野郎からがいいな」



エレナ「私は芹沢がいいです」



ハサウェイ「…」 



エレナ「ハサウェイは?誰がいいと思う?」



ハサウェイ「俺的には…一番殺傷能力の低い奴から狙いたいんだ…」



エレナ「うん?殺傷能力って?」



ハサウェイ「キラーとか言う奴と健太って奴はチャカを持ってる可能性があるし、芹沢って奴は得体の知れない武器を所持してる…どっちも飛び道具だ ヘタしたらその際に返り討ちになる可能性もある… だからそいつらは一旦後回しにして景気づけにやるならデスって野郎からがいい」



エレナ「うん なるほどね…じゃあ…っとなると…」



皆頷き



葛藤「じゃあ最初のターゲットは…あのスタンガン野郎にしようぜ」



ハサウェイ「いいのかみんな?」



エレナ、純や、江藤、葛藤が再度頷く



江藤「じゃあそれで決まりで ちなみにそれみんなで一斉にかかるんですか?」



ハサウェイ「いや 隠密に殺るなら1人か2人がいいな 大勢だと目立つし失敗した時ヤバい… だから他の人は不測の事態やバックアップに備えるって感じでいきたい」



江藤「なら それ俺にやらせて下さい」



純や「なら俺も殺ります」



ハサウェイがエレナを見るとエレナは頷き



エレナ「いいかも」



ハサウェイが葛藤を見ると



葛藤「まぁ 長期戦になる可能性もあるけど いいんじゃねえか おし 2人で決まりだな」



今ここに渋谷組のスタンガン使い…デスの暗殺作戦が浮上し作戦が決まった。



純や「よし!そうと決まればすぐに実行に移りましょう これにはあの2人の力が必要なんで… あ!一応これ持ってて下さい」



純やが無線トランシーバーをハサウェイに手渡した。



ハサウェイ「なんでトランシーバーが2つも?」



純や「落ちてたんで念の為に2つ持ってきました こ」



ハサウェイはトランシーバーを手にしながらボソッと口にした。



ハサウェイ「そっか…」



純や「羽月さん 由美ちゃん聞こえる…?」



すると



羽月「ザァァ バッチし聞こえてます ザザ」



同時刻 19階 非常階段



発狂し暴れるキラーを抑えつけるデスの姿



デス「おい 落ち着け」



キラー「ざけんなよ あのビッチ 健太を何処へ連れ去りやがった…」



デスが暴れるキラーを抑えながら芹沢へ「さっきのあの女はなんだ? あいつ人間じゃないって事だよな…だとしたら健太ヤバくねぇーか? 早く探さねぇーと」



芹沢「あぁ そうだな…それよりキラー あまり大声出すな 奴等が寄って来る」



キラー「なんだと アホ眼鏡 てめぇー仲間が攫われたのに冷静かよ!いつまでもインテリぶってんじゃねぇぞ」



芹沢「頭に血登らしても何も解決もしないよ 取りあえず落ち着けって それと もうちょっと声を絞れ」



荒い息づかいで少し大人しくなったキラー



デスが芹沢へ「まじで健太見つけねぇーと」



芹沢「あぁ 分かってる でも…さっきのは明らかに人じゃないよ しかも見た所、今までのランナーとは全く異質だった気がする 助けに行く前にまずは龍谷を探さないとね」



その時だ



1つ下の階の非常扉のドアノブがカチャカチャと鳴らされた。



3人は視線を向ける…



そしてドアノブがゆっくりと回され、ゆっくりと扉が開かれた。



ノソノソとした足取り…



両腕を前へ伸ばし…



「うぅぅううう」 「ああぁぁあぁ~」



苦しむうめき声をあげた…



通称ウォーカーなる2体が現れた。



デス「馬鹿な… まじかよ… あのクソノロゾンビが自分で扉を開けて入ってきやがった」



芹沢はやれやれといった表情でキラーを見るや「おまえが大声出すからだぞ…」



それから奴等は芹沢等を見上げ、ゆっくりと一段一段階段を上がって来た。



「うぅぅぅぅーうう」



芹沢がゾンビを見下ろし、指に嵌められた球体に手を掛け



芹沢「もうこれ以上大声出すなよ…どんどん集まってくるから」



そして、摘まむや球体から一本の糸が伸ばされた…



芹沢の眼鏡の奥に潜む瞳が悪魔のごとく歪み



芹沢「低脳な馬鹿が折角学習してドアを開けられる様になったはいいけど残念! この鋼糸によって細切れにされる運命さぁ… おまえ達は運が悪かったね… ウスノロちゃん」



それからスナップを利かせ、まるで鞭を振るう様に1体のゾンビへ放出



そして糸が右肩に触れる寸前



球体が揺すられた



すると肩から腹部にかけ奇麗に切断



また球体を揺すりながらスナップを利かせるや胴体がそのまま真っ二つにされた。



上半身がボトッと落ち、階段を転げる。



そして、糸を一旦引き戻すや、再び上から振り下ろされ、今度は下半身が縦に真っ二つにされた。



両断された右足が階段から転がり左足は手すりに立て掛けられる。



芹沢「フフ」



芹沢は素早く糸を引き戻し、次にもう一体へ向けサイドスローでリリースした。



糸はゾンビの額、口、首にかけ絡まり巻き付かれる



そして、球体が揺すられ、同時に腕が引かれるやゾンビの首は切断、顔面がこれまた奇麗に三等分された。



恐るべき切れ味…



ゾンビは細断され崩れ落ちる



芹沢「ハハ 抜群だな」



芹沢が不可思議な手の動作をすると糸が自動的に収納されていく…



階段下には上半身のみのゾンビがこちらへ手を伸ばし呻き



それを見下ろす芹沢が卑下した冷ややかな目を送った



芹沢「喚くな…」



芹沢がそいつへ向け球体を翳し、糸が放出された。



芹沢「ザコキャラが」



小間切れにされたバラバラ死体が散乱する



デス「いつ見てもえげつねぇーな それ そろそろそれが何なのか教えろよ どこで買ったんだよ?いくらしたんだ?」



芹沢「まぁ 通販」



デス「通販でそんなヤベェーの売ってる訳ねぇーだろ」



芹沢「教えなーい!」



キラーがデスへ「もう落ち着いたよ いい加減放せ!」



その時だ



芹沢の耳にある音が入ってきた



小さな声…



「……ちゃん聞こえる?ザザ」



芹沢はポケットに仕舞われた無線トランシーバーを取り出す。



羽月「ザザ バッチし聞こえますよザァァ」



キラー「てめぇーはゲイか?さっさと放せよ」



デス「あ あぁ」



芹沢が2人へ「静かにしろ シィ」



2人が芹沢へ目を向けると



芹沢はトランシーバーを2人へ向けながら「聞けよこれ」



純や「ザザ 2階の皆に異常はないかい? ザ」



羽月「ザァァ 大丈夫 見たとこ特には無いよ ザザ」



エレナ「ザァ 由美ちゃん 凄いね 純やさんに聞いたよ ゾンビと闘ったんだってね ザァァ」



由美「ザ あ…いえ… あ…ありがとうございます ザザ」



純や「ザザ これからちょっと2人の力を借りたい… ザァ」



デス「おい これ…」



エレナの存在、これから実行する作戦、警備室、生存者の居場所…全ての情報が…筒抜けて奴等に知れ渡ろうとしている…

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