第56話 寄生

14時50分



19階 非常階段



デス「なぁ 今の声…あの女の声だったよな?」



芹沢がトランシーバーのやりとりに耳を傾けながら2人へ



芹沢「静かに…」



ハサウェイ「ザァ 羽月さん その前に2点程聞きたいんですが このビルから脱出不可能だと聞きました… 換気ダクトからでも無理ですか? ザァ」



キラー「なんであの女が奴等と一緒にいるんだ?」



デス「女の服と銃が無くておかしいとは思ったんだが… まさか逃げやがったのか?」



キラーの表情が再びイラつき始め「手錠嵌められてんのにどうやって自力で逃げんだよ もし仮に逃げたとしたら… だとしたら龍谷は何処にいんだ? 全くありえねぇーよ 万に一つでもあいつがみすみす女を逃がす訳がねぇー」



デス「だとすると…まさか…龍谷が…あの女に消された…?」



キラーがデスの胸倉を掴みだし「てめぇー 何アホ抜かしてんだ 適当な事言ってんじゃねえぞ そんなん女を逃がすよりも確率低いぞ 龍谷があんな女に殺される訳ねぇーだろ」



デス「ならあいつは今何処にいるんだ?何故女があいつらといんだよ?性処理のオモチャをあいつが逃がす訳ないよな だとすれば考えられるのはやっぱり…」



キラーが突然銃口をデスに向けた。



キラー「テメェー それ以上ほざいたら撃ち殺すぞ あんな危ねぇ野郎が女に負かされる訳ねぇー」



口論になる2人をよそに芹沢はトランシーバーから発する会話を真剣な眼差しで傍受、集中している。



羽月「ザァー 無理ですね… 精々ネズミが通れるくらいの大きさですので ザザァ」



ハサウェイ「ザァ そうですかぁ…ならもう一点… 下水道はどうです?ザザ」



デスは焦る様子で「おいおい ちょっと待てよおまえ… まぁまぁ…分かったから…ちっと落ち着けって なぁ…クールになれよ」 



そしてキラーが銃口を下げた途端



今度はデスがキラーの首筋へナイフを押し当て口にした。



デス「よく聞けキラー そんなの俺だって信じたくはねぇが… あの女が仲間と合流してる… そしてあいつが姿を消してんのは事実なんだよ…もう… イコールなんだよ…」



キラー「なんだよイコールって?」



すると



いつもひょうひょうとする芹沢が2人に対し怒声を浴びせた。



芹沢「いい加減にしろお前等 ホントに黙れよ いいかぁ…攫った筈のあの女の声を聞いた以上… 龍谷は消されたんだよ 女じゃなくあいつらの誰かによってだ… よく思い出してみろ 棚の小物が床に割れて散乱していた… 揉めた証拠だ 龍谷の衣服も残されたままだった… そして極めつけは窓が開いてたんだ あいつらの誰かがあの窓から侵入して殺ったんだよ… 分かったかぁ!? 龍谷はもういない 分かったら少し黙ってろ…」



普段見せない芹沢の気迫に…2人は固まり…事実を突き付けられたキラーの頭の中は真っ白になった。



そして徐々に込み上げるのは…これ以上に無い程の殺意…



誰が龍谷を…?



ハサウェイって野郎か…?



葛藤って奴か…?



それとも江藤って奴か?純やって奴か?



舐めやがって…



壁にナイフを突き刺し、何度も突き刺し始めた。



エレナって女… 捕まえて…



ハメまくって…



身体を切り刻みながら…



吐かせてやる…


12階 喫煙&リフレッシュルーム



羽月「ザァ それも無理ですね…とても人の入れる大きさじゃない…ザザ」



ハサウェイ「そうですか…分かりました…」



ハサウェイが純やにトランシーバーを手渡すと



純や「本題に入るとこれから2人に渋谷組を監視して貰いたいんだ… ちなみに今奴等がどこかにいるか分かるかな?」



羽月「ザ いや 探してるけど見つからない 今の所どのモニターにも映ってないよ… 渋谷の奴等を監視するの?ザザ」



純や「そう 一つ暗殺計画が持ち上がってね… 仲間に気づかれないよう1人1人潰して行く作戦なんだ…そこで まずは2人にそのモニターで奴等の居場所を探して貰いたいんだよ…」



羽月「ザァー なるほど… ザザ」



羽月の口調に微かなためらいが生じているを感じた純や



羽月「ガァ んー分かった…了解 それは見つけ次第報告するけど… それで… ザザザ」  



純や「奴等の居場所を突き止めたら、俺と江藤が付近に待機して ターゲットが独りになった瞬間を狙うって戦法 その絶好のタイミングを2人に頼みたい ちなみに最初のターゲットは… スタンガンを持ってるデスって奴でいく 由美ちゃんなら顔は分かるよね?」



その時だ 



突如トランシーバー越しから由美の小さな悲鳴があがった



羽月「ザァ なるほどね 内容は把握した それなんだけど… それって時間… キャアー ザァ」



エレナ「え?いまの何?由美ちゃんの悲鳴よ」



純やが慌ててトランシーバーを握り「どうした?何の悲鳴?」



羽月「ザザァ その計画ってちょっと時間がかかりそうだね… 腰を折るようで悪いんだけど… あまり悠長にしてる時間が無いかもしれない… 実はあれから二つ程動きがあって… 純やさんが離れた後、その渋谷組の奴等が廊下に火を放ったんだよ… ちょっと… いやそれがかなりマズい事になってきてる… ザザァ」



葛籐「あのクソ野郎共が火を放った…」



純や「マズい事? 詳しく教えて」



羽月「ザザ 今 その火が凄いスピードで燃え広がってるんだよ ガガッ」



エレナ「え?」



ハサウェイ「何…火災が広がってる…? 羽月さん それは何階ですか?」



羽月「ザァ 22階 ザザ」



純や「みんなは大丈夫なの?」



羽月「ザァ それは大丈夫 みんなはまだ2階の建設業オフィスにいるから平気だと思うけど…この火災はヤバいよ ザザ」



エレナは皆を見渡しながら「火が燃え広がってるのはマズいね… 確かに1人1人なんて悠長な事も言ってらんないかも…」



ハサウェイ「確か最新構造の高層ビルだと聞いたんですが耐熱素材とか防火扉とかいろいろ踏まえた上でもビル全体に燃え広がるものですか?」



羽月「ザザ 勿論防火材は使用されてるし、ワンフロアーで食い止めるよう設計されてる筈 だけどほっといたら話しは別だよ それはあくまでも消火活動が前提の上での話しだから あまりにも火の勢いが強すぎる… このままだといずれビル全体に広がると思う ザザザ」



純や「そうだ ならスプリンクラー スプリンクラーをまた回せばいいじゃん」



羽月「ザァ それも駄目だ さっき確認しに行ったんだけど バルブの弁鍵までロックされてたよ 鍵がなきゃ開放出来ない ザザ」



エレナ「一手先を…」



江藤「マズい事態になったね…」



純や「どれくらい… 羽月さん的にどれくらいで一階まで火の手が到達すると思う?」



羽月「ザザ 俺はただの警備員だよ…うーん 火の手は上にあがる… だけど崩壊しながら下にも広がっていくと想定して そうだなぁ~ 素人目から見て…この勢いだと…12時間…いや…8~10時間って所かな… ザザ」



葛藤「次から次へと…今度は火災かよ… こりゃ進退窮まったぞ」



純やがハサウェイへ「確かにかなりヤバいですね…早く鍵を取り返して脱出しないと閉じ込めれたまま皆焼け死ぬ事になっちゃいます… これは1人1人殺ってる暇はないですね」



動揺する4人…ハサウェイは目を閉じながら口にした。



ハサウェイ「少し考えさせてくれ…」



火の手が徐々にビルを蝕み…全てを焼き尽くそうとしている…



そして…タイムリミットが生じた…



残り約9時間と59分



純や「火災の件は分かった もう一点は何?」



すると再び由美の悲鳴が漏れてきた。



羽月「ザザ じつは火を放った後に… きゃあ もう…見れない 羽月さんこの画面切って… ザァ」



エレナ「まただよ どうしの?」



羽月「ザザ じつは今モニターに恐ろしい映像が… 火を放った後に例の女が突然現れて奴等の1人を攫って行ったんだ… ザザ」



純や「例のって中央にいたあの女か?っでそれがどうしたの?」



羽月「ザザァ 食ってるんだよ、あの女が攫った奴を今… 食ってるんだ ガガッ」



純や「渋谷の誰?」



由美「ザザ 純やさん 健太って人です あの拳銃持った人… あいつが今食べられてるの… ガガッ」



女…



ハサウェイ、エレナ、葛藤、江藤はすぐにピンときた



そいつの正体が誰だか察しがついた。



そして息を呑んだ。



エレナ「それって理沙ね…」



純や「理沙?」



ハサウェイが純やへ「あの女って二十歳くらいの黒髪の女じゃないか?」



純や「えぇ そうです やはり既に知ってましたか 実はその件で話したくてここへ来たんです。 あの女普通の感染者どころか普通の特異者じゃないですね… 何なんですかあいつは?」



葛藤「ヤバい相手だ…」



ハサウェイ「あぁ 感染者特有の目の動きが無い それに見た目も動きも…そして頭脳も俺等と何ら変わりない… ゾンビはあの女の命令に従った 奴はゾンビ達の統率を図ろうとしてる」



純や「人間と変わらない… 統率?そう言えばもう一つおかしな光景を見たんです… 感染者が誰かの指示を受けたかの様な動きで渋谷組を襲ってました そうなると指示を出したのはあの女…」



ハサウェイ「間違いないな 奴は意のままにゾンビ共をコントロールする力を持ってる 脳を防御する術や道具の扱い方、組織的な行動を教え込まれたら… このままじゃ人に打つ手がなくなる」



純や「でも 意志表示は一切見られなかった どうやって奴等に指示を…?」



ハサウェイ「言葉だけが伝達の全てじゃない こんな話しを知ってるか?昆虫界で代表的な例を挙げると、ミツバチやアリなどは意識が一部共有されてるそうなんだ…一匹一匹は個体だが一部の意識は全て繋がってる、人間の一卵性の双子が同じ事を考え同時に同じ行動をするようにな、虫の世界ではそんなやつが沢山いるらしいんだ そう考えるともしかしたら奴等はその類いで情報を送りあってるのかもしれない…」



純や「ちょっと待って下さい… 今 虫って言いましたね…実はもう一つ話して無い事があって 実は四足歩行の感染者を倒す寸前、一瞬だけそいつ… 人に戻ったんです」



エレナ「え?」



純や「そして虫だと 全て虫の仕業だと…そう言ったんです」



葛藤「虫の仕業ってどうゆう事だ これはウイルスの仕業だろ」



エレナ「純やさん!ホントに虫の仕業って言ったんですか?」



純や「確かだよ 由美ちゃんだって羽月さんだって聞いた」



エレナ「虫… ねえ みんな! こんな話しは知ってますか? 私は大学で生物学を学んでた事があるんです… その中の分野に寄生に関する事もあって学んだ事があるんです 虫の世界では脳の乗っ取りは珍しい事じゃないの… 特に有名なのが主に鳥の体内に住む寄生虫でレウコロリディウムって寄生虫がいるんですが そいつはまずカタツムリに寄生して脳を乗っ取って、ワザと鳥に食べさせようと狙われ易い場所へ移動させるの… それで…付けられたそいつの別名が…」



「ゾンビリディウムって呼ばれてるんです」



純や「ゾンビリディウム?」



エレナ「そして人間の脳に寄生する虫だっているんです 有名なのがトキソプラズマっ言われてる寄生虫で主な宿主は猫で媒介は同一種なんだけどそれが稀に人に憑く事もあって、乗り移ると脳を乗っ取り始めるの… それで自殺の衝動を繰り返し引き起こしたり、狂人化させたりするんです」



純や「虫が原因… なんてこった…でも…そしたら厚労省やWHO、アメリカ疾病センターの情報は何… 今までの全ての発表はどうなるの?ウイルスって発表は全部デマカセって事?」



ハサウェイ「実際、誰も真実まで辿り着いてないんだよ 検体の解剖などしてなくてただの憶測で発表されてる可能性がある… とりあえず今は正体について話してる場合じゃない それは置いといて今やるべき事を考えよう」



15階 エレベーターホール



壁に磔(はりつけ)られた健太



右手もろとも鉄の棒が突き刺さされていた。



健太の掌からは真紅の液体が腕を伝って、ポタポタ床に落ちている。



痛みから健太の目には涙が溢れ、また血と共に小便を漏らしたのか?液体が足を伝い床を濡らしていた。



健太「ぅぐぐぅう わああああ」



張り裂ける程の眼球、断末魔をあげた健太の左腕が肩から捻り切られ、その苦痛に満ちた表情をニコニコしながら左腕にかじりつく理沙の姿



これから理沙の凄惨な捕食が行われる。








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