第35話 感染

純や達6人がレストランのフロアーに足を踏み入れるとエレナ、ハサウェイを発見した。



ハサウェイ、エレナは振り返り純や達を見るがすぐに視線を前方へと戻した…



再会を喜ぶにはまだ早い…



80階レストランフロアー 8時51分



新宿チームvs特異感染者



まだ感染者の存在に気付いて無い純や、江藤、葛籐、よしたか、由美、スタイル



だが2人のよからぬ様子からすぐに緊迫する空気を察した。



すると 再び扉から顔を覗かせた女感染者が今度は純や達に微笑みかけた。



江藤「!!」 



葛籐「なんだあいつ?感染者か?」



ハサウェイ「気をつけろ こいつは普通の感染者じゃない」



純や、江藤、葛籐、よしたか、由美、スタイルはすぐに状況を把握した。



純や「例の…」



江藤「新型ってやつか…」



特異者「ふふふ」



不敵に笑みを浮かべていると急激に片目が張り裂けんばかりに見開かれ眼球が不自然に上下左右に動き始めた。



由美「ひぃぃ」



スタイル「ひゃ」



純やは金属バットを強く握り締めゆっくりハサウェイに近寄り、江藤は弧を描く様にゆっくりと移動、反対側から葛籐も移動を始めた。



女特異者「きゃははははは」



突然高らかに笑い声をあげ、ハサウェイを見るやまた口を開いた。



女特異感染者「あ…たし…のた…いぷ…」



ハサウェイは眉間にシワを寄せながら感染者から視線を反らさずに眼にした。



よしたかは日本刀を両手に握りハサウェイ等の前に立ち、構えた。



江藤もアーミーナイフと中華包丁を構え感染者との距離を取りながら側面に位置する。



葛籐も感染者の背後へと回り込み、江藤、よしたか、葛藤の3人で感染者を取り囲んだ



純や「ここは俺達にまかせて それよりこれ返しますね」



純やがハサウェイの洋弓と矢を手渡し前へと出た。



ハサウェイ「助かるぞ 純や」



そしてハサウェイは弓矢の入った筒を肩に掛け、折り畳まれた弓の可変部を広げながら純やの後ろ姿へ視線を向ける。



女特異者はケラケラと笑い続け、純や、よしたか、葛籐、江藤は一定の距離で取り囲んで膠着した。



両側面…背後にいる彼等を見向きもせずただ前を向いて笑い続ける特異感染者



周りを気にしてないのか…? 



もしや眼中に無いというのか…?



通常の感染者なら速攻の一手なのだが…



相手は特異感染者



防御したり避けたりすると聞いている…



攻撃して、もし防御か避けられでもしたらその瞬間に身体を食いちぎられる恐れがある…



その為各人先制攻撃をくわえたいのだが迂闊に近づけないでいた…



特異者の様子を伺う4人



そんな張り詰めた空気の中



女特異者「あぁぁあぁあああああ」



女感染者の両目が膨らみだし、次いで首筋から頬にかけて血管が浮き上がっていた…



そして



突如 狂った形相に変わった特異者が江藤を見るや鉄製の扉を片手で持ち上げ、それを投げつけようとしてきた。



だが! 投げつける寸前、肩まで持ち上げた途端に扉の重みでか細い腕の筋繊維がブチブチとブチ切れた。



そして第2関節から骨がへし折れ腕が90度に垂れ下がった。



女感染者「うぅ~~ ん キャハハハハハハハハハ」



女感染者は己のへし折れた腕を見るや不気味に奇声の笑いをあげ始めた



エレナ「腕が折れた…」



その時



江藤が素早く間合いを詰め、踏み込んだ



感染者の喉元目掛け先制の一撃



アーミーナイフの刺突を繰り出した。



だが!横から急に掌がのび、喉元に刺さる寸前、左手でガードされた。



江藤「!!!」



ノールックな状態で、しかも確実に仕留められる間合いとスピードを要したにも関わらず、ナイフは阻止された…



江藤があっけに取られた表情を浮かべると感染者はナイフの突き刺さった左手を払った。



ナイフを握る江藤の足が浮き、否応なく浮き上がった体は宙にもってかれるやそのまま投げ飛ばされた。



バキッ ガシャャ



身体がテーブルに落下、叩きつけられた衝撃で破壊される…



葛籐「お…おぃ」



純や「江藤!」



この場の誰もが目を疑う中、感染者は次に純やへ目を付け、飛びかかってきた。



女特異感染者「ゲェキィィイイイ~」



アーミーナイフが突き刺さったままの左手で純やの髪の毛を鷲掴み



凄い力で引き寄せ、大口を開いた。



頭に噛みつこうとする



純やは引っ張られながらも咄嗟に金属バットを感染者の前へ出すと、感染者は金属バットへ猛烈な勢いで噛みついた。



かぶりついた感染者の歯は折れ、砕け、欠ける。



無意識な防衛本能で勝手に身体の動作と反応を行った純やは感染者の噛みつきを何とか阻止した。



金属のバットにくっきりと残る歯型…


恐るべき顎の力だ…



女感染者の口から折れた歯と血が垂れ落ちる。



次の瞬間



葛籐が背後で鉄パイプを振りかぶっていた…



風圧を感じる程の会心のフルスイングで感染者の頬へ直撃、女特異者の頬が陥没したが、女特異者は倒れる事無く持ちこたえた。



続いてよしたかが日本刀を頭上で振りかぶり脳天目掛け叩き斬ろうとした時だ



女感染者がよろけざま、崩れた態勢を立て直すや、振り下ろす直前のよしたかの右手首へと噛みついた。



特異感染者の欠けた歯、かろうじて残った歯が深々とよしたかの手首へ食い込み…



そのまま食いちぎられた。



よしたか「ぐあぁ」



手首に激痛が走り苦悶の表情を浮かべるよしたか



江藤「なっ…」



スタイル「え」



ハサウェイは目を見開き弓を構えた。



エレナも隙を突いて床に落ちた拳銃までダッシュし、拾うや感染者へ銃口を向けた。



ハサウェイ「みんなそこをどけ 俺が射抜く」 



エレナ「私がやる」


2人同時に口にし、照準を定めた瞬間



グサッ



女感染者のこめかみに刃が突き刺された。



ハサウェイ、エレナが撃つ寸前、江藤がサイドからサバイバルナイフを突き刺していたのだ



女特異者は扉のドアノブを握ったまま、また純やの髪の毛を掴んだまま白眼を剥き、膝を付くと



前方へ倒れ込み、沈黙した。



よしたか「うぐぐぐぅぅ」



噛まれた箇所を押さえ、うずくまるよしたかの横でちぎられた肉片をくわえ横たわる女特異者



純やは髪の毛を掴まれた手を解こうとするがビクともしない…



エレナ、ハサウェイ、江藤、葛籐はよしたかへと近づいた



エレナ「よしたかさん!」



ハサウェイ「傷をみせて」



まじかよ…?



おまえ…



葛藤はよしたかを茫然と見詰めていた…



よしたかが感染者に噛まれてしまったのだ



純や「と…とれない…ちょ…誰か…」



手から大量の血が流れ、ポタポタ床に垂れ落ちている



傷は深い…



それに…



ハサウェイは傷口と共に痛みに歪めたよしたかの顔を目にした。



噛まれた……



葛籐「よしたか お…おまえ…噛まれた…よな」



ハサウェイ、エレナ、江藤も茫然自失した。



噛まれたら傷口から唾液や口内に潜むウイルスが体内に進入、血流に乗り脳を目指す…



そして100パーセント感染してしまう…



猛スピードで脳を目指し、たどり着くと脳内で大増殖、全ての機能が乗っ取られる



特効薬も対処法も未だ無い…



噛まれれば…終わりだ…



葛籐は慌てふためき



葛籐「よしたか 今なら間に合う その腕切断するぞ いいな?」 



そして、よしたかの手から日本刀を奪い取った。



ハサウェイ「駄目だ それは真剣じゃない 単なる模造刀だから骨は斬れない 斬るなら一発で切断しないと死ぬ程の苦痛を与えるだけだ」



葛籐「ならどうすればいいんだ?早くしないとこいつは感染するぞ 誰かナタかチェーンソーでも持ってねぇのかよ!? 今すぐ腕を切らねぇとこいつは奴等の仲間入りになっちまう」



ハサウェイ「…」



よしたか「うぐぐ… っきしょー 油断しちゃったわ」



葛籐は膝を崩し、拳を床に叩きつけ深くうなだれた。



葛籐「まじかよ…」



エレナ、スタイルは手で口を覆いうっすら眼には涙を浮かべている。



江藤は純やの髪をサバイバルナイフで切った。



純やが立ち上がり、江藤も俯いたまま立ち上がった



よしたか「ハサウェイさん… 噛まれた人間って絶対こんなんになるの?」



横たわる女特異者の遺体を顎で差すよしたか



ハサウェイは数秒の間を空け、ゆっくり頷いた。



ハサウェイ「あぁ…」



よしたか「俺が… 俺がこんなんになるの…?」



なんて言えば良いのか投げ掛ける言葉が見つからずただ眼を閉じて佇む一同



エレナ「ねえ ハサウェイ… ホントにないの?助かる方法とかじつはあるんじゃないの? なんか…なんでもいい 助かる方法とかってないの? なんでもいいから言ってよ」



ハサウェイは何度も何度も首を横へ振り

 


ハサウェイ「ごめん…残念だが分からない… ホントに分からない…現時点では…どうする事も…」



エレナ「そんなぁ… 嫌よ」



よしたかは傷口を押さえながら口にした。



よしたか「俺も…俺もこんな醜い化け物になるのか…この俺が…」



噛まれた以上… 後、数時間もすればウイルスに命を奪われ、身体も奪われ、感染者に変貌してしまう…



仲間の認識など皆無なただ闇雲に人を襲う様インプットされた入れ物になってしまう…



よしたかは虚ろな表情でエレナを見ると「なら… ゾンビなんかになる前に、今ここで…エレナさん それで頭を撃ってくれないか?」



エレナは両手で顔を覆うやしゃがみ込み顔を激しく横に振った。



幾筋の涙が流れ落ちてくる…



よしたか「そうかぁ… じゃあ誰でもいい 一思いに頼むよ… 自分でやる勇気がどうしても無くて…かといってゾンビになって皆を襲うのは嫌だし」



純や「よしたか君を撃てる人なんてこの中にいないよ」



葛藤の頭に何気ないあのやり取りが浮かんだ



もしゾンビになりそうになった時…容赦なく秒殺して下さいね…



絶望感が覆い尽くす中 葛籐が口を開いた。



葛籐「よしたか 安心しろ それなら俺がやってやるよ トドメは俺が刺してやる」



よしたかはうっすら笑みを見せながら「ははぁ そりゃあいい…あんたに殺されるなら本望だわ」



葛籐はエレナから拳銃を取るやよしたかの額に押し当てた。



葛籐「みんな! こいつが死ぬ所見たくなんかないだろ!先に屋上へ行っててくれ」



ハサウェイ「分かった みんな… 屋上に行こう」



ハサウェイがよしたかの肩へ手を添えたのち歩き始めた。



純やがしゃがみ込み泣き崩れるエレナをそっと起きあがらせ、よしたかに無言で手を差し出した。



よしたかはそれに応え握手をすると純やもエレナを抱え込みハサウェイの後に続いた。



次いで江藤もスタイルも由美もよしたかと眼を合わせた後、うつむきながらこの場を後にした。



そして葛籐とよしたか2人のみがこの場に残される



葛籐「気分はどうだ?」



よしたか「最悪っすね!噛まれた傷が痛いっす」



葛籐がよしたかの前に座るや拳銃を床へ置き煙草に火を点けた。



葛藤「ふぅー そうかぁ…おまえとは、ゾンビが世に現れてから知り合ったから… かれこれ3~4ヶ月くらいの付き合いになるか?」



よしたか「そうっすね 常に行動を共にしてたからもう数年は一緒にいる感じでしたけどね」



葛籐「確かに… なぁ おまえあん時の事覚えてるか?マルイのデパートに仲間大勢とブッコミかけた時の事?」



よしたか「勿論っす あんなの忘れられないっす 覚えてますよ あん時は完璧囲まれて超ピンチだったっすね」



葛籐「あぁ ゾンビを舐めすぎてた あれはおまえの機転がなきゃ全滅してたよ」



よしたか「はは そうっすね あれはヤバかった 大人になってから初めてしょんべん漏らしましたよ」



葛籐「チームワークってのがいかに大事か…思い知らされたよな あんだけいっぱいいた仲間が次々殺られてよ… おまえまで居なくなったら…俺はもう1人になっちまうな…あのコミュの奴とはあんまし気があわねぇし…」



葛籐の眼から一筋の涙が流れていた



よしたか「何言ってんですか… 気の合う新たな仲間が出来たでしょうに」



葛籐は腕で涙を拭うと



葛籐「あいつらか? あぁ 確かに西新の奴よりは馬が合いそうだ」



よしたか「葛籐さん どうしても1つだけ心残りがあって…」



葛籐「ん? なんだよ 言ってみろ」



よしたか「その……… おやっさんの仇取って下さい… あの渋谷のクソ野郎共だけは許せない」



葛籐「あぁ 当たり前だろ それはおまえに言われなくてもやってやるから心配すんな」



よしたか「はい そうっすね なら安心しました」



葛籐「他に…なんかあるか?」



よしたか「えぇあります」 



葛籐「なんだよ?」



よしたか「そんな人を殺す前に泣いてて大丈夫っすか? そんなんで引き金なんてひけるんすか?」



赤らめた葛籐の目から既に止めどない涙が流れていた。



葛籐「馬鹿やろう この俺が泣くかよ」



よしたか「はは 明らかに泣いてんじゃないすか 眼にゴミが入ったとかチャチイ言い訳は止めて下さいよ」



葛籐「うるせえよ 死に損ないが さっさとおまえなんか死ねよ」



よしたか「えぇ じゃあ一思いにやっちゃって下さい」



葛籐は再度涙を拭うと、まだ火の点いたままの煙草を投げ捨て、よしたかへ手を差し出した。



よしたかは両手で葛籐の手をガッシリ握ると



よしたかの目にも涙が溢れていた。



葛籐「おまえ男のクセして泣いてんなよ」



よしたか「そっちだって どの口が言ってんすか」



葛籐「まぁ なんだ… あれだな なんつ~かエキサイティングな日々で楽しかったぜ おまえと居てある意味充実してたかもな」



よしたかの目は涙で赤く腫れ、嗚咽を堪えながら口にした。



よしたか「モチ俺もっす 短い間でしたが世話になりました」



握手の握力を双方強め、ガッシリ握られると



葛籐は立ち上がり拳銃をよしたかの額へと当てた。



よしたかはゆっくりと目を瞑り…



葛籐「3、2、1で行くぞ!いいな?」



よしたか「えぇ お願いします」



葛籐「3」



葛籐は流れる涙を拭う事を止めよしたかを見つめた。



葛籐「2」



よしたかも眼を瞑り葛籐へ敬礼のポーズを行った。



葛籐「1」



パァ~ン



そして引き金が弾かれ、乾いた銃音が鳴り響いた。

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