第31話 刹那

感染者の撃ち尽くした銃弾3発が窓に当たり下ろされていたブラインドが外れて壊れた。



ブラインドはガシャガシャと音をたて床に落ちる…



パッ パ 



瞬く間に雷光が部屋中に差し込み…感染者を照らし出し…



龍谷の目に異体な感染者の顔が映った。



32階 某貿易会社オフィス内 2時57分



特異感染者vs渋谷組



パァン パン



キラーの放った弾丸が感染者の胸部へ当たり壁に叩きつけられた。



だが特異感染者はすぐに体勢を立て直すと拳銃のトリガーを引き始めた。



ガチガチ ガチ



弾切れか?



拳銃からガチガチと音が鳴る



すると



龍谷が「撃つな!」キラーにそう言い放ち動いた。



再び視界ゼロな闇の中ガチガチ鳴る音目掛け龍谷は間合いを詰めると、右の拳に力を込めた。



上腕の筋肉が隆起したその拳を振りかぶる



カイザーナックルにアイスピックをくっつけた特殊改造の武器を拳に纏い、強烈な右フックを感染者にかました。



風圧を感じる拳が感染者の頬を捕らえ、刃物の先が感染者の頬を串刺しにした。



そして感染者の身体が数ミリ程浮き上がるや龍谷はそのまま感染者地面へ叩きつけた。



健太は無惨なまでに再起不能にされた左手をぶら下げながら電気のスイッチへと近寄り手を掛けた。



一瞬にして明かりが灯り部屋を照らす



視界が戻ると健太、デス、キラーの瞳に感染者へと馬乗りになる龍谷の姿が映った。



龍谷が串刺した拳を引き抜き、再び力を込めて拳を振り下ろす直前



感染者が龍谷の首へと手を回し、引き寄せると同時に歯を剥き…噛みつこうとした。



龍谷は、とっさに両手で感染者の額と顎を押さえ噛みつきを防いだ



龍谷「うぐぐぅうう」



なんだこのパワーは…



感染者の桁外れなパワーに何とか持ちこたえる龍谷、腕や首を小刻みに震わす…



大口を開け、いまにも食らおうとする感染者の力を前に龍谷の顔は徐々に口へと引き寄せられて行った。



少しでも力を抜けば、顔面を丸ごとかじり取られてしまうだろう…



顔の血管が浮き出て必死な形相の龍谷



次第に顔面は赤色へと変化し、うっすら額からは汗の粒が浮き出ている。



龍谷の抵抗する腕の力が徐々に弱まり、一気にもっていかれそうな寸前



バチバチバチ 



スパーク音が奏でられ、突発的に感染者の身体が仰け反った。



感染者の身体を通電し、首に触れる指から龍谷にも伝わってくる電流



龍谷が振り向く先には感染者の足首にスタンガンを押し付けるデスがいた。



防犯グッズから購入後、独自に電圧を強化、カスタマイズされ致死に値する程の凶器にかえられたデスのスタンガン



直に受ければ人間なら気絶かショック死してしまう程のレベルだろう



そんな全身を駆け巡る殺人級の電気ショックに感染者は硬直し、龍谷の首から腕が離れた。



その離れた瞬間!



龍谷は再び右の拳を振りかぶった。



引き出せる全ての力を、全身全霊を込め、大きく振りかぶるや感染者の額目掛け打ち抜いた。



感染者の額にアイスピックが突き刺さると共に拳が頭蓋骨を砕き、刃はめり込み、額は陥没、感染者の右の目玉が外へと飛び出す。



そして感染者の腕が垂れ、沈黙された。



立ち上がる龍谷が軽く肩で息を吐き、死骸と化す感染者を見下ろした



デスがその隣に立ち、共に見下ろしながら口にした。



デス「なぁ 妙じゃねぇ?いつもの奴と違うぞ…なんなんだこいつは…?」



龍谷「…」



キラー「おい 奴等がいないぞ!逃げやがった」



龍谷とデスが辺りを見渡すや、ハサウェイ、エレナ、純や達が忽然と姿を消している事に気がついた。



ハサウェイ等のトランシーバー、刀の鞘、数本の弓矢が床に落ちているのを発見した健太



龍谷は無線機を手に取ると「おい 聞こえるか?獲物が逃げやがった 各階隈無く探せ」



芹沢「ガァ 逃げた?了解 分かった ガガ」




50階 アパレル系ブランド本社 オフィス



チーン 到着音が鳴るとEVの扉が開き



江藤、葛藤、よしたか、スタイル、由美、純やが姿を現した。



フロアーに足を踏み入れた途端



廊下の先から2体の感染者がこちらに向かって走ってきた。



よしたか「由美ちゃん スタイルさん下がって ここは俺等が…」



江藤「俺も」



よしたかが日本刀を構え、江藤も両手にナイフを握り構えた。



純やも前へ出てハサウェイの洋弓を構え矢を射るが外した。



素人の為見当違いな方向に飛んで行った矢は壁に突き刺さる。



純や「外した ムズいなこれ」



江藤が飛び出しながら口にした。



江藤「純や君もさがって」



それから江藤とよしたかが前に出た。



江藤「よしたか君は右の奴を」



よしたか「Ok」



江藤は眼が血走りわめき声をあげる感染者に向かって突っ込んでいく



感染者も大きく口を開け江藤に襲いかかってきた。



そして江藤の首筋に噛みつく瞬間



江藤は左手に持つ中華包丁を咄嗟に噛ませ



ガチガチ



感染者の口が封じられるや同時に感染者の背後へと周り込み、アーミーナイフで脊髄をひと突きした。



また よしたかもあんぐり口を大っぴらきに開き、ヨダレを垂らす感染者に突っ込み大口目掛け日本刀をひと突きした。



カウンターの原理で感染者自らダッシュで近づき己から串刺しにあう。



後頭部から刃先が飛び出し、貫通



長刀の根元まで深々と串刺された感染者は壊れた人形の様に動きを止めた。



膝を付き壊れた生肉の顔面に足を付け日本刀を引き抜くよしたか



江藤「きったねぇ血 よしたかくんもすぐに拭いた方がいいよ」



江藤はナイフにこびり付く血痕を感染者の衣服で拭き払った。



よしたか「うん」



よしたかに足蹴にされた感染者が無抵抗なまま地面へ倒れた時



いくつもあるオフィスの奥から無数の声があがり、感染者等が続々と姿を現した。



よしたか「マジ? 2体だけじゃないの」



スタイル「来る来る来るよ ぎゃー」



一同、愕然と共に背筋に悪寒が走る…



葛藤「やべぇ 数が多すぎる 駄目だ 逃げるぞ」



よしたか「っても何処へ?」



葛籐「知らねぇ とりあえずここは駄目だ 違う階に移るぞ」



純や「行こう」



純やが非常階段の扉を開き上下を確認した



今の所感染者の姿は無い…



純や「よし これを使おう 早く入って」



スタイル、由美が扉の中へと駆け込み、葛藤と純やが扉を押さえる間を…



葛藤「おまえらも早く来い 早く入れ」



スタイル「早く早く」



純や「早く 早く 早く 早く!」



江藤とよしたかも抜けて行き素早く扉が閉められた。



その5~6秒後



ドンドン バンバンバンバン



無数の感染者による扉の殴打、群れがドンドン扉を叩く音、うめき声、理解不能な一人言が扉の向こうから聞こえてきた。



葛藤「ふぅ~ 危ねぇ~ やっぱクソ野郎共の数が多いな…」



スタイル「冗談じゃないわよ…」



純や「まぁ 多いのは想定内だから…」



葛藤「さて っでどうするよ? これじゃあどのフロアーも似たり寄ったりだろ はぐれたあの2人も探さないとだしな」



純や「うん すぐに探さないと まずはどっから探すかだよ まだそう遠くへは行ってないだろうし近場から順々にに探すしかないかな… 安全な場所も確保したいし」



葛藤「さっきの見たろぉ… ねぇーだろ安全な場所なんて」



純や「なら奴等を1体残らずやっけながら探すかい?」



江藤「それは難しいと思う… やっぱり近接戦には限度があるし… 絶対的に個体数の少ないフロアーを選ばないと 今みたいな繰り返しだよ 流石にあんなに沢山は相手しきれないよ」



純や「ならさぁ ならさぁ どうしよっと? ハサウェイさんとエレナさんと合流しないと どのみち中に入って探さないと始まらんぜよ」



江藤「…ちょっと…真面目にやってよ」



葛藤「はぁー トランシーバーがあればな…」



純や「マジどうするよ? 考えろみんな」



よしたか「確かに中はヤバい… にっくき野郎共もいるし… 変な感染者だっているし… どうしようもないじゃん」



純や「…」



江藤「はぐれるのは計算外だったね…」



葛藤「こりゃあ探すのはちっと無理かぁ…」



由美「あの~」



出会ってからまだ一言も発していなかった由美が突然口を開いた。



純や達は驚きの表情含め由美を見る。



由美「あの~ 私思ったんですけど 見た所まずこの非常階段が一番安全な場所だと思うんです。それと…目的って一つだと思うんです はぐれてしまった人もきっと目指す場所は一緒だと思うんです」



純や「目指す場所?」



由美「はい」



由美が人差し指を上に示した。



葛藤「屋上か」



由美「そうです」



江藤「なるほど確かに 無闇に探しまわらなくとも、ハサウェイさん達も上を目指すか」



純や「さすれば合流 ならこのままこの階段を上がれって事ね」



スタイル「待って ここ何階?」



由美「50階」



スタイル「30階もあがるの?」



純や「それしか方法無いよ」



スタイル「ひぇぇ」



葛藤「じゃあ決まりだな なぁ とりあえずここは安全なんだし 登る前にちっとだけ休もうぜ」



よしたか「賛成」



純や「うん そうだね ちょっと休んでから行こう」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



38階 外資系証券会社 給湯室 3時30分



予想以上の感染者に襲われたが、エレナの射撃により何とか逃げのびた2人はリフレッシュルームにある給湯室に身を潜めていた。



ハサウェイが腰を下ろししゃがみ込むとエレナの後ろ姿に目をやった。



エレナは流しのシンクに薬莢を取り出し、弾倉の清掃を行っている。



ハサウェイ「何してるの?」



エレナ「手入れしないと詰まりとか起こしちゃうから 出来る時に掃除とかしとかないと」



ハサウェイ「そっか」



エレナ「終わった」



ハサウェイと対面で座り込むと弾丸を詰め込んでいく



エレナ「みんな無事かな?」



ハサウェイ「あぁ 大丈夫だ 絶対あいつらなら無事逃げ出したよ」



エレナ「だといいんだけど… でも心配…」



ハサウェイ「純やには返して貰わないといけないし」



エレナは弾を詰め終わり拳銃を流し台に置きながら



エレナ「あ アーチェリーの弓ね 随分使い込んでる風だったね あれ」



ハサウェイ「そうだよ 中高とずっと使用してて年季が入ってる」



エレナは笑顔を見せた…



エレナ「大事な物だよね」



そしてエレナは小さなアクビをした。



ハサウェイ「エレナさん 少し眠った方がいい」



エレナ「うん でも眠れるかどうか…」



するとハサウェイはエレナの手を取り、自分へと引き寄せた。



エレナはハサウェイの胸の中後ろから包まれる様に身を寄せ、もたれた。



ハサウェイ「今は眠る事に集中して」



エレナ「うん… ねぇ…眠るまで何かお話しして」



ハサウェイ「話し?何が聞きたいの?」



エレナ「う~ん 何でもいい あなたの話し」



ハサウェイ「俺の?そうだな… う~ん まぁ話すと1日じゃ終わらないから今度ゆっくりね」



エレナは起き上がり振り返るとハサウェイを目にしながら



エレナ「あ! 逃げた えぇ~ 今聞かせて」



ハサウェイ「今度時間がある時にゆっくりね さぁ 今日はもう寝よう」



エレナはまた胸にもたれながら口を尖らせた。



エレナ「ぶぅ~~」



ハサウェイはエレナの手を握り「じゃあ グッスリ寝れるとっておきのまじないを吹き込もう」



エレナ「ん!?何それ?そんなの…」



すると ハサウェイはエレナの顔を覗き込みエレナの唇へ唇を合わせた。



突然のキスにエレナは驚きの表情を見せたが嫌がる理由は一欠片も無かった。



むしろ刹那でもこの一瞬が幸せだと思えた。



こんな状況下、不謹慎かも知れないけど…



ほんのちょこっとぐらい…



いいでしょ…



エレナも目を静かに閉ざした。

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