第25話 潜入

救出作戦当日



深夜0時を回った頃



闇夜に紛れるエレナ達



丘にある森林公園のフェンス越しから大通りを挟んだ地下駐車場入口を見下ろしていた。



入口付近には数体のゾンビ等の姿が見られる



あぐらをかいて座り込む感染者が何か飲んでいるつもりなのか…?



顔面は腐り、崩壊しつつある感染者が何も持って無い手で何やら飲む仕草を永遠と繰り返していた。



またその前方を横切るさまよいし女性感染者、また首が食いちぎられ完全に頭が前方にぶら下がる老人のゾンビなどなど、少数だが定間隔に奴等が位置していた。



正攻法で突っ込めば確実に見つかるだろう



ハサウェイが奴等の動きを監視しながらトランシーバーを手にした。



ハサウェイ「配置につきました」



おおます「ガガッ 分かったしばしそこに待機してろ これから大型のダンプカーがそっちにやってくる 周辺のゾンビ共を根刮ぎ引きつけるから、剥がれたらその隙に中へ行け! ガッ」



ハサウェイ「了解!」



葛藤はタバコをふかしながらフェンス越しから視線を送っている。



純や「奴等の引きつけは常套手段だけど上手くいくかね?」



江藤「大丈夫だよ あいつらやたらと音に敏感だしすぐに群がる筈」



エレナが純や、江藤、葛藤等のすぐ後ろに座る女子高生由美の隣りにそっと近寄り話しかけた。



エレナ「初めまして 危険なのに…とっても勇気あるね」



由美が振り向くとエレナの笑顔が見てとれた。



由美「…」 



エレナ「由美ちゃん…だったよね?よろしくね私エレナ」



エレナがそっと手を差し出すのだが… 由美はそれを拒否



そして立ち上がり何も言わぬ仏頂面でエレナから離れて行った。



エレナはキョトンとした表情で取り残され由美の後ろ姿を見詰めていると、それを見かねたニューハーフのスタイルがエレナへ近づき話し掛けてきた。



スタイル「ごめんなさいね~ あの子無愛想で…誤解しないで ホントはあんな子じゃないの」



エレナ「あ いえ…」



スタイル「両親が目の前であいつらに殺されてしまったの…それからというもののすっかり人に心を閉ざしてしまったのよ… あるのは奴等に対する憎悪だけ…だから許してあげてね」



エレナは無言で由美の後ろ姿を見詰めた。



よしたかはハサウェイの隣りに座り込み、共に観察している。



よしたか「ねぇ ハサウェイさん 上の生存者達を助けられる自信はある?」



ハサウェイ「ある…とは言えないけどやるしかないよ 助けだそうよ」



よしたか「そうだね どうなる事やら」



不安げなよしたかの横顔に目を向けた。



その時だ! 



遠くからクラクションの長押し音が響き渡ってきた。



純や「来た」



道路を闊歩するゾンビ達が一斉にその音に反応を示し始める。



エレナとスタイルもフェンスに手を付きながら道路へ視線を送った。



クラクションが次第に近づくとゾンビ達は音の方向に向かって走り出していく



クラクション=車=人が乗っている=食料



そんな思考があるのか?



ただ音に反応してるだけなのか?



そのあたり定かではないがゾンビ達は血を嗅ぎ狂った鮫の様に周りに目もくれず猛突進でダンプカーへ向かって行った。



スタイル「凄いわね 一気に群がってる」



エレナ「うん 引きつけは成功だね」



おおます「ガァ~ 上手くダンプカーに張り付きはじめたようだ このまま徐行しながら奴等を引きつけてる間に中に潜入しろ ガガ」



ハサウェイ「了解 みんな準備を」



おおます「ガガッ 目的のポイントに到着したら連絡をくれ 武運を祈るぞ ザッ」



どこからともなく湧いては次々とボディーにしがみつき目の前を通り過ぎて行くダンプカーとゾンビ達



ハサウェイ、エレナ、純や、江藤、葛藤、よしたか、由美、スタイルは入り口周辺のゾンビ達がいなくなるのを身を潜めて待った。



うめき声、意味不明な言葉の発声がどんどん遠のき



そして周囲のゾンビ等がキレイにいなくなった。



江藤「はけた いなくなったよ」



ハサウェイ「よし 今だ 行こう」



ハサウェイの掛け声と共にフェンスをよじ登りはじめた一行



ハサウェイ、純やを先頭に次々フェンスを越え、浅い勾配となる坂を下り、道路を足早に横切って行った。



そして地下駐車場へと侵入して行った。



エレナは道路中央で一瞬足を止め視線を向けると遥か遠くになるダンプカーと群がる大量のゾンビ達を見た。



スタイルは声を殺しながら「エレナちゃん 早く」呼びかけ手招きする。



エレナ「うん」



呼び声に応じスタイルと共に地下駐の坂を下って行った。



中へ入るや坂の途中で曲がり切れなかったのだろう壁に衝突、大破した車両の運転席にはゾンビ化したおばさんが乗っていた。



ペシャンコに潰れた車体に胸辺りから完全に潰され挟まれた状態で、割れた窓から右手と顔のみを出し、襲いかかろうとしている。



一行はそれを横目でスルーしながら奥へと歩を進めた。



数カ所の非常電灯のみが灯る薄暗い地下駐車場に続く螺旋状の坂道、いつ何時感染者が飛び出してくるとも限らない緊張感と恐怖心が一同を包んでいた。



ハサウェイは先頭に立ち弓矢をセット、いつでも放てる態勢で歩を進めた。

 


最後方にいたエレナが拳銃を両手で握り締め、小走りでハサウェイの隣りへと位置づけた。



静まり返える不気味な空間に8人の足音のみが響く



緩くカーブした坂道を抜けると広々とした地下駐車場にたどり着いた。



100台以上収納出来るスペースを有しており、どこにでもあるごく一般的な作りの駐車場だ



駐車スペースにはちらほら無傷で駐車された乗用車から大破した乗用車、フロントガラスが割られ運転席のドアが開かれっぱなしの車、そのドアには大量の血痕が付着しており



それと似た状態の車が複数連なって置かれていた。



何かしらここで惨劇が起こった事はこれを見れば一目瞭然、容易にそれを想像する事が出来た。



ゾンビに襲われただろう惨状の物的証拠が放置されていた。



それらを目の当たりにしながら駐車場の奥へと進み、中盤辺りに差し掛かった時だ



一同が周囲を見渡すと100メートル程先にエレベーター入口の表示看板が見えた。


 

江藤が小さな声で「あった あれだね」



8人は入口に向かって進み始めた。



2、3歩前進するやハサウェイが急に停止、右手を挙げ皆を停止させた。



ハサウェイ「ちょっとストップ」



何だ…? 今の…



葛藤「どうした?」



ハサウェイ「静かに みんな聞こえなかった今の」

 


ハサウェイに何が聞こえたのか…?



ハサウェイは何かに聞き耳を立てている…



エレナがハサウェイの横顔を目にし、周囲に視線を送った。



エレナ「何です?どうかしましたか?何も聞こえなかったですし… 気配も感じませんが…」



ハサウェイが後ろを振り返ると、ハサウェイの耳に微かな音が聞こえてきた。



やはり… 気のせいなんかじゃない…



エレナもハサウェイに連られて振り返り、聞き耳をたてた。



皆も2人を見て恐る恐る順々に振り返った。



シーンと静まりかえる空間に



特に何も聞こえないと思った矢先に



カツン カツン カツンカツン カツンカツンカツン



微かに、そして次第に幾つかの足音が各々の鼓膜を刺激した。



この場にいる8人しっかりとその足音が聞こえ、認識されたのだ



江藤「ホントだ 足音…」

 


純や「まじかぁ…?」



純やがそう言葉を吐いた瞬間



カツンカツン カンカンドタドタ



その足音が駆け足へと変わった…



そして…



「うぅうううぅぅうぅぅ」



「うわぁぁぁぁぉぉああ」



「ブンバボ~ン 元気に行こぉ~ ん~ ハァ チョロミ~~」



うめき声、発狂声が数多と響き渡ってきた。



ハサウェイ「奴等だ こっち来るぞ みんな早くエレベーターへ 走れぇ」



ハサウェイがエレベーターを指差し、一斉に皆駆け出した。



ハサウェイとエレナが一瞬その場で立ち止まり、声する先を凝視していると複数の感染者達が短距離ランナーのように全速力で続々と坂を下り、入り込んで来たのを目にした。



エレナ「あやややや」



ハサウェイが慌ててエレナへ「行こう」



エレナは再度振り返りながら走り出した。



その頃葛藤が開閉ボタンを16連打



だが一向にEVが動かない…



反応しないのだ



葛藤「おい どうなってんだこれ?」



よしたかが横に貼られた注意書きの用紙を読みあげた。



よしたか「只今故障中の為、S1のエレベーターを御利用くださいだぁ~ ざけんなぁ」



スタイルは完全にパニックに陥っていた。



江藤「確かおおますさんがもう1台エレベーターがあるって言ってたよね それの事だ」



純や「S1? 何処にあんだよそれ?」



江藤が案内図がないかを見渡すがこの場には無かった。



ハサウェイ「どうした?」



純や「ベータが故障して使えません」



葛籐「S1のエレベーターを探すぞ」



ハサウェイ「なら時間を稼ぐから早くそっちに移動を エレナさん 一緒に頼む」



エレナは凜とした表情、落ちついた口調で口にし



エレナ「はい」



ハサウェイの隣に着いた。



そしてハサウェイとエレナが突進してくるゾンビ達に向け臨戦態勢に入る。



ハサウェイは向かって来るゾンビの数を数えながら瞬時に弓を構え、エレナは薬室に弾丸が装填されてるかを再チェックしたのち構えを取った。



ハサウェイ「エレナさん 地下鉄と警察署の時を思い出して 数はザッと20体から40体くらいかな 落ち着いてやれば大丈夫 俺等で全部撃ち落とすよ」



エレナ「はい これぐらいの少数なら楽勝かと」



ハサウェイはエレナの発言に少し驚きを見せた



この短期間で随分と肝が座った…



強くなった…



そんなキーワードがハサウェイの頭をよぎりエレナに向け含み笑みを浮かべた。



そして弦が引かれ、先頭を走る感染者に矢が放たれた。



また同時に照準を合わせたエレナもトリガーを弾いた。



シュ  パアン



純や等6人はもう一つのEVを探すのだが何処にも見当たらない…



スタイル「ねえ あの2人置いてきちゃってホントに平気なの?」



純や「問題ない それよりどう見てもそんなの無いよな」



江藤が立ち止まり天井にぶら下がるあるプレートを見上げた時だ



江藤「ねぇ ちょっと待って 荷落し所BF2って書いてあるよ 確か業者用のエレベーターって言ってたからこれの事じゃない って事はここじゃない 地下2階だよ もう一個下だ」



よしたか「どおりで無い訳だ」



葛藤「行くぞ」



6人は迅速に移動し、更に地下へと続く坂道を下って行った。



Uの字の傾斜を駆け下り、地下2階へと到着した途端



6人の目に思わぬ光景が飛び込んできた。



それは人肉を貪り食す3体のゾンビの姿だ



人体の大半を食べ尽くして骨が辺りに散乱していた。



あまりにショッキングな光景に由美は目を背け、スタイルは嘔吐寸前まで吐き気を催し、口を押さえた。



スタイル「うぐっ」



6人の足音に気付いた3体のゾンビがこちらへ振り向くやユラリユラリ身体を揺らしながら近づいてきた。



葛籐「撲殺してやる」



葛藤が鉄パイプを握り締め3体へ向かって歩き始めた。



純や「3体だけかな… 他にはいなそうだな」

 


純やも金属バットを握り締め前に出た。



江藤「ノロゾンビごとき 俺が殺るよ」



江藤が両手に刃物を握り走り出す



そして2人の間を追い抜くやゾンビ達に飛びかかった。



1体のゾンビの額から鼻筋中心へかち割る勢いで叩き込まれた包丁



顔面に包丁が刺し込まれ力付くでそのまま地面に押し倒すと同時に左手に握る研磨された切れ味抜群なサバイバルナイフを右手へと持ち変え、今度はもう1体のゾンビの顎にアッパーカットで突き上げた。



刃の先端が脳まで達しグリップ半ばまで食い込んだナイフを素早抜くと2体のゾンビが崩れ落ちた。



それから江藤は間髪いれずに最後の1体を料理



胸部を力強く張り手で押し倒した。



ゾンビはバランスを崩し地面に倒れると



江藤がすかさず馬乗り、眉間にサバイバルナイフを突き刺した。



10秒かかったか…?



一瞬にして3体が片づけられた。



純や「おい 横取りすんなよな」



江藤「…」



ナイフを引き抜き、無言で付着した血痕をゾンビの衣服で拭き落とす江藤



よしたか「エレベーターあったよ こっちはちゃんと動いてるようだ」



階数を表す表示ランプが下ってくる



純や「じゃあ俺 上の2人を呼んでくるから待機してて」



純やが2人の元に走った。



ドサッ



仰向けに倒れた感染者が葬られた。



そしてハサウェイがそいつの額に突き刺さった矢を引き抜き



またエレナがレンコン(リボルバーの弾倉)に弾丸を詰め込んでいるとそこに純やがやって来た。



純や「2人とも うわぁ 凄い! 相変わらずやりますね…」



返り討ちで迎撃したゾンビ等の遺体が散らばり、重なっていた。



ハサウェイ「ジャストタイミングだ 今片付いた」



純や「見つけましたよ 下の階です 行きましょう」



そして40体前後の骸をあとに



ハサウェイ「あぁ!」



3人が下のEVに向かおうとした時だ



カツン   カツン



新たな足音が聞こえて来た。



ハサウェイ「待て」



ハサウェイがその音へ振り返り



3人が眼を向けた先に、1人の男が姿を現した。



カツン  カツン



「人は害…人は害… 人は害 人は害 害 人は…害 害 害」



そいつはブツブツとそうつぶやきながら近づいて来る。



口の周りを血で染め、眼球も不自然な動きをしている。



明らかに人で無い容姿…



感染者だ…



だがそいつはいつものタイプと異なっていた。



走って来る様子も無く、ゾンビの様にぎこちないノロノロな足取りでも無い



なんだこいつ…



ハサウェイは異様を感じる感染者に向けすぐさま洋弓を構えた。



そして矢を放射した。



一筋の矢が感染者頭部へ飛翔



到達寸前にそれは起きた。



突き刺さる寸前にそれを掌でガードしたのだ。



ハサウェイ「ガード…?」



エレナと純やもそれをハッキリと眼にした。



ハサウェイはもう一度矢を放った。



シュ



瞬速の矢が解き放たれ再び飛んで行くのだがそいつは今度…



体を斜めへシフトさせ矢を避けた。



エレナ「嘘?」



ありえない…



確実に頭部を狙って放った矢が2度も外されたのだ



純や「なんだ?こいつ?今避けましたよな… まさか防御も偶然じゃないとか」



「人は害… 害人 人と害… 外人? 害国 く… 紅のブヒ~ 人はががががが ガガ レディー害?…」



ハサウェイは焦りを見せた。



動揺した様子で再々度弓矢をセットしまた狙いを定めた



今度こそはと完璧に外さぬ狙いで矢を放った。



シュ



だが…



感染者はまたもその矢を掌で受け止めたのだ



偶然なんかじゃない…



感染者は2本の矢が突き刺ささる手のひらを下ろし3人に近づいて来た。



純や「こいつ… 普通の感染者じゃないぞ… なんだこいつは…」



そしてハサウェイが4度目の矢を引こうと身構えた時だ



横からエレナが制止させ拳銃を感染者へと向けた。



エレナ「私が撃ちます」



エレナは感染者の頭部に狙いを定め



パァーン



発砲した。



感染者は再度手のひらでガードする動作をおこなったが弾丸は手のひらを容易に貫通させ頭部へ直撃



感染者は仰け反りながら地面に倒れ込んだ。



そしてつぶやきが止み、沈黙された。



純や「やった でも…なんだったんだこいつ?」



突然現れた今まで見た事のないタイプの感染者に純やは茫然とした様子だ



エレナ「ガード 避け… ディフェンスをしたって事ですよね…」



すると



くたばる感染者を目にしながらハサウェイが口にした。



ハサウェイ「実は以前にもこれと似た事があったんだ…」



純や「え? 防御された事があるんですか?」



ハサウェイ「…あぁ 前に一度だけ避けられた事がある… その時は、単なる偶然だと… 気のせいなのかと思ってたんだがな… 偶然じゃない 回避したんだ」



エレナ「それってつまり学習した? もしくは進化した? って事ですか?」



ハサウェイ「分からない… こんな奴等に束になって襲われたらヤバいね 一巻の終わりだよ」



純や「ヤバ過ぎですよ… とりあえずみんな待ってます 急いで合流しましょう」



3人はその場から後退り皆の元へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る