第11話 決意

目を覚ますと突然視界に朝日が飛び込んできた。



眩しさで眼を細めながらゆっくり起き上がり、すぐ隣りで寄り添い丸くなって眠るクリスの姿を目にする



いつの間にか寝ちゃってた…



クリスは気配と物音ですぐに目を覚ましエレナを見上げた。



大きなあくびをするクリスの頭を撫で、エレナはベッドから起き上がった。



一体どれ位の時間寝ていたのだろうか…??



エレナはベランダへ近寄りゆっくりカーテンを開け、窓を開けた。



いつもゾンビの襲撃に怯え毎夜気を張っていた為か熟睡はおろか満足に睡眠などとれていなかった。



窓を開くと冷たい風が部屋に流れ込みカーテンが揺らぐ



ぼんやりしながらベランダの手すりに手を掛け外を眺めるとそこから見渡す景色にエレナは愕然とした。



酷い光景…



壊滅した新宿の街並み…



数ヶ月前の大都会新宿なら街は既に人混みで溢れかえり、むせかえる程の活気で横溢していた筈なのに…



数ヶ月前なら車のクラクションやら救急車のサイレン、電車の走行音が入り混じり騒音してた筈なのに…



今ではカラスの鳴き声くらいしか聞こえてこない…



喧騒が恋しくなるぐらい街は沈黙し不気味なまでに静寂に包まれていた。



もう当たり前のように過ごした平凡で当たり前の日々は戻ってこないの…?



…もう永遠に人の笑顔は戻らないの…?



エレナはこの荒廃した街の景色を目にし、急に悲しみがこみ上げ、瞳から一筋の涙が流れてきた。



うなだれながらふと後ろを振り返るや部屋の中からお座り状態でエレナをジッと見詰めるクリスを目にした。



エレナはとっさに笑顔を取り繕いながら涙を拭きクリスに喋りかける



「なぁ~にぃ?あなた まさか私の心でも読めるの…? もう大丈夫よ… そんな心配そうな顔しないのぉ…ありがと」



近づいて来たクリスの喉元を揉みほぐしながら顔を近づけるとクリスはペロペロとエレナの頬を舐めはじめた。



駄目… 強くならなければ…



クリスを見ながらこの時エレナはそう強く誓った。



エレナがそっと立ち上がり部屋の中へ足を踏み入れた時



トントン 



ノック音が鳴った。



エレナ「はい」



恵美子「エレナさん 私 やっと起きたわね 入るわよ」



扉を開け恵美子が入ってきた。



恵美子「もう死んだように眠ってたからちょっと心配しちゃったわよ」



エレナ「ごめんなさい 私…どれくらい眠ってしまってたんですか?」



恵美子「丸一日よ 20時間くらいね」



エレナ「そんなに…」



恵美子「相当疲れてたのよ 気分はどう?」



エレナ「お陰様でもうバッチシです」



恵美子は笑顔を見せながら



恵美子「そう 良かった ご飯用意してあるから顔洗ったら食べにいらっしゃい」



エレナ「はい ありがとうございます」



恵美子が扉を閉める間際に「あ!そうそうハサウェイが起きたら905号室に来るよう伝えてくれって言ってたわよ ご飯食べたら寄って頂戴ね」



エレナ「はい 905ですね 分かりました」



食事を終え、それから3~40分後…



エレナが905をノック、扉を開いた。



部屋に入った途端、汗の臭いが充満してきた。



玄関にはハサウェイ等の靴が置かれ



またハサウェイのアーチェリー弓や純やの金属バット、江藤のアーミーナイフやらサバイバルナイフなどが一緒に置かれていた。



その奥からは床の軋み音と共に男達の息遣いが聞こえてきた。



中で何してるんだろう…??



エレナは恐る恐る奥へ行き、扉を開いた。



ハサウェイ、江藤、純やの姿を目にしたエレナ



12畳程の広々としたワンルームタイプの部屋



家具などは一切置かれておらず殺風景とも言えるその部屋の中央では江藤とハサウェイが上半身裸で組み手をしていた。



江藤「シュ」



江藤が左のローキックを繰り出す寸前 即座に軌道を変えハサウェイの顔目掛けハイキックを放つがハサウェイは瞬時に反応し、それを右手で防御



ハサウェイがすぐに攻撃へ転じ、左のミドルで江藤の脇腹を狙うが江藤も即座に反応し後方へ下がるとハサウェイの左回し蹴りは空を斬った。



純やはあぐらをかきながら二人の組み手を真剣に見ている…



2人は本気で当てるつもりのガチンコな組み手を行っていた。



2人の額や体から汗が噴き出し、床に大量の汗が滴り落ちている。



3人共エレナに気づかない程集中していた。



エレナ「あの~ 恵美子さんに言われてきました」



純やがびっくりした表情で後ろを振り返った。



またハサウェイと江藤もエレナに気づき組み手を中断させる



純や「おはよう エレナさん よく寝たねぇ」



ハサウェイ「お やっと来たね」



江藤は無言でタオルを手にし汗を拭う



エレナ「おはようございます。すいません 随分と寝てしまって…」



純やは立ち上がり笑顔で「いいんだよ いいんだよ」



ハサウェイもタオルで汗を拭き取りTシャツを着ながら



ハサウェイ「エレナさん いらっしゃい 待ってたよ」



エレナ「御2人さっきの凄かったです 格闘技の経験あるんですね?」



ハサウェイ「いや 俺は全くないよ、見様見真似だよ」



エレナ「そうなんですか… ちょっと拝見しただけですがなんか凄かったですけど」



ハサウェイ「ありがとう それよりエレナさんを呼んだのは他でもなくて…その単刀直入に言うと…これからエレナさんには俺等の戦力の一員として協力して貰いたいんだ…」



純や「そう これは3人同意見なんだ エレナさんの力を借りたい」



エレナは少し間を空けてから「勿論…3人のお役に立てるなら喜んでですが…私なんてお役にたてるかどうか…皆さんに助けてられた時も地下鉄であいつらに襲われた時も私は何も出来なかった…」



江藤「…」



エレナ「あいつらを前にただ怖くて… 戦う勇気も無くて…ただ今まで逃げる回る事しか出来なかったんです…そんな私が戦力になれるとは到底思えなくて… 逆にいるとかえって足手まといになってしまいます…そんな弱い人間なんです私… だからいきなり戦力って言われても…」



ハサウェイ「弱い…?そうかな… 俺等3人には強いとしか思えないよ」



エレナ「私が強い?」



ハサウェイ「あぁ エレナさんは3~4ヶ月もの間独りで生き残ってきたんだよね? まぁ愛犬とかぁ」



純や「きっと俺達には無理だね 俺達が今こうして生き残れてるのは仲間との協力があってからこそだよ」



エレナ「そんな… 私はただただ怖くて逃げ回ってただけです それはきっと運が良かっただけです」


ハサウェイ「運も実力の内って言うよ それが運にせよ3~4ヶ月ものスパンを生き延びれる生存能力、危険回避能力っての そこが半端じゃないよ」



エレナ「そんな… 買い被り過ぎです」



江藤「それは違うね 今この世界は生き残った人間が強者で弱者は奴等に食われるか仲間入りするかの至って単純明解な世界だよ 今、現にこうして生き延びてるエレナさんは十分強い人間だよ 俺等は生き残る為に奴等と戦ってるんだから」



ハサウェイ「まあそうゆう事だよ きっと俺等の目に狂いは無いね、あの時出会ったのもきっとなんかの運命でしょ」



ハサウェイは笑顔でエレナを諭した。



エレナ「皆がそう言ってくださるなら嬉しいです…でも私戦い方なんか知らない…」



ハサウェイ「今は決断してくれるだけでいいんだ」



純やがエレナの手を握りしめながら口にした。



純や「共に力合わせてこのイかれた世界を生き残ろうよエレナさん」



エレナ「え…はい よろしくお願いします 足手まといにならないように頑張ります」



江藤も笑みを浮かべる。



純や「大丈夫 なれるよ 早く強くなってね それまでは俺等が責任を持って全力で死守するからさ」



エレナがコクリと頷いた。



ハサウェイ「よし 決まりだ 新しい仲間決定 よろしく」



江藤「よろしく エレナさん」



エレナ「宜しくお願いします」



エレナが決意した。

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