感染症
みのるた
第1話 遭遇
ある日…ある病院のある霊安室…
ベッドに寝かされ、顔に白い布を掛けられた死体が突然ムクっと起き上がった。
その日を境に死者が動き始める…
日本はおろか全世界で突如死者が蘇り人を襲い始める事件が多発した…
爆発的に増加する死者に人類は対応策などなかった…
慌てた政府は自衛隊や警察で鎮圧に当たるも時既に遅し…
圧倒的な猛威を前に全てが呑み込まれ、治安維持組織はことごとく壊滅
政府の機能は完全に停止された…
そして…街から人の姿がなくなり…
そして、ほんのわずかな人のみが残された…
感染発生から3ヶ月後…
ある晴れた朝
運良く生き残ったエレナは、助手席に愛犬を乗せ靖国通りを走らせていた。
博多からただ闇雲に
止まる事を拒み、絶望を募らせながら…
そして、気が付けばこの大都市新宿へとやって来た。
エレナが燃料メーターに目を向けるとゲージは既に振り切れている。
このままではいつ止まってもおかしくない状況
よりによってこんな大都市のド真ん中で立ち往生なんかしたら…
何とかこの大都市だけは通過しないと…
何とか持ちこたえて…
汗ばむ手でハンドルを強く握り締め、願うが…
願い虚しくとうとうガス欠を起こした。
プスプスプス
エンジンストップだ
車は惰性で走行
数メートル先で完全に停止してしまった。
焦るエレナはすぐに車から降り、辺りを見渡した。
街は静寂に包まれ人影は見当たらない…
一瞬でも奴等に出くわさなかった事にエレナは胸を撫で下ろした。
エレナが恐れているのはゾンビだけじゃない
奴…
感染者の存在だ
奴等はゾンビと違い走る
奴等は人間と変わらぬ通常の身体能力を持つ
いや むしろ脳の抑制が効かない分超人レベルか…
筋肉が悲鳴を上げようが、破壊されようが執拗に追いかけて来る者達だ
疲れを知らない、途中で諦めたりもしない、命乞いも通用しない、一度見つかれば視界から消えるまでひたすら血肉を求め襲いかかって来る者達
エレナは道中、眼を覆いたくなる様な光景を何度も見てきた
その為奴等の脅威を誰よりも肌で感じていた。
愛犬の頭を撫でホッとした瞬間
静寂を切り裂き…
突如、遠方からあるうめき声が聞こえてきた。
エレナに電撃的な緊張が走る…
声のする方向へ眼を向けると300メートル程先から2体が姿を現し猛ダッシュでこちらに向かって来た。
無論、一目で分かるあの存在…
感染者だ!
エレナはすぐに愛犬を連れその場から逃走する。
感染者は完全に瞳孔を開き、意味不明な言葉をわめきながらスピードを上げてきた。
エレナとの距離が詰まって来た。
一体は若い青年風で生前陸上の経験者だったのだろうか…
奇麗なストライド走法でスピードを伸ばしエレナに迫る。
エレナが一瞬後ろを振り向くやその距離はわずか50メートルまで縮められていた。
やばい!このままだと追いつかれる…
エレナは必死に走った。
死が頭をよぎる…
こんな所で… あんな化け物に生きたまま食べられるなんて嫌…
涙を浮かべ
更に逃走スピードを上げた途端
このパニック状態の中だ
筋力が追いつかず、脚がもつれ
エレナは転倒してしまった。
手足数ヶ所に擦り傷を負うが、それを気にしてる場合じゃない、すぐに起き上がり後ろを振り返るや感染者はわずか12メートルまで接近していた。
感染者は視点の合わない狂気の瞳にエレナを映し、ヨダレを撒き散らしながら意味不明な発言をわめき散らし、近づいて来た。
感染者の首や腕の傷口には数匹のウジ虫が徘徊しているのが見える…
エレナはその場で立ち尽くし、固まってしまった。
身体が動かない…
逃げないといけないのに足が動かない…
もう駄目だ…
そしてエレナに死がよぎり、覚悟した。
目の前まで急接近する感染者、大きく口を開き飛びかかる感染者に眼を瞑る事無く凝視した。 その時
一本の矢が感染者の耳に突き刺さった。
感染者は、突き刺さる矢の衝撃によりバランスを崩しながらエレナを通過
エレナの髪が微かになびいた。
通過する感染者は、前方のひっくり返って大破した車へ激突、体は宙を舞い、そのまますっ飛んで車の陰へと姿を消した。
エレナは、死を覚悟した最中、目前で感染者が視界から消えたのだ!
エレナは、何が起きたのか状況が呑み込めていない…ただ分かるのは…今もまだ生きている
エレナがふと視線を向けた先に、燃え尽き大破した車の屋根に立つ男の姿を捉えた。
「納期には間に合わせますんで納期には間に合わせますんで…」
大声で叫ぶ感染者の声にエレナは前方へ顔を向けると遅れてやってくる2体目の感染者を目にした。
メガネをかけたボロボロなスーツ姿の感染者がエレナを狙い突進してくる。
恐怖で凍りついた身体をやはり動かす事が出来ないエレナは、ただその場に立ち尽くしていた。
左右の眼球を不規則に動かし、キチガイな面した感染者が15メートル手前まで近づく
エレナが目を閉じた その瞬時
今度は、エレナの背後から不意に金属バットを手にした男が現れ、感染者の前に立ち塞がった。
そして、男はバットを構えながら瞬時にしゃがみ込み、同時にフルスイングで感染者のスネ部分へバットを振り抜いた。
両足の骨が砕ける音がした。
感染者は、勢い良くヘッドスライディングで地面に叩きつけられる。
目の前で繰り広げられる場面に
エレナは、まだ状況を把握しきれていない…茫然とした表情を浮かべていると、地に伏せた感染者が腕力で起き上がろうとした。
だが!両足の骨を砕かれた感染者に立ち上がる事など出来ず、歩伏前進でエレナに迫る。
「納期までには間に合わせますんで…」
延々とそのフレーズを口にしながら、両足を引きずりゆっくりと近づく感染者
すると!今度は、アーミーナイフと何処にでもある家庭用の包丁を握り締めた男が突然現れ、ゆっくり感染者へ近づいた。
ナイフの男は、足で感染者を転がし仰向けにすると顔面を踏みつけ、すかさず感染者のこめかみへ2つの刃を突き刺した。
瞬く間に感染者の動きが停止、口が閉ざされた。
バットの男「今日のポア数これで何体目?」
ナイフの男「15体目かな…」
ナイフの男がスーツへ手を入れ何やら物色している。
内ポケから財布を抜き取り中を見ると名刺を目にした
この感染者は、どうやら生前大人のオモチャを製造する会社の営業マンだったようだ!
財布を捨て他に何かないか探すとふとある物に目が止まる。
ナイフの男「ねえ!純や君!こいつOMEGAのコンステレーションなんかつけてるよ 貰うね」
純や「あぁ」
ナイフの男は感染者から腕時計を外し自ら身につけた。その時
エレナの背後から物音と共に唸る様なうめき声が聞こえてきた。
一瞬にして2人の男の眼光が鋭くなり2人は物音へ振り返った。
エレナも恐る恐る後ろへ振り返る…と
背後に耳には矢が刺さり、鼻が陥没し、右腕はL字にへし折れた異形の感染者が立っていた。
エレナがハッ!っとした表情を浮かべた瞬間
感染者の右目に矢が突き刺さった。
感染者は、よろけるもまだ致命は負っていない…
シュ!
間髪入れずに矢が放たれ、今度は眉間に矢が突き刺さった。
感染者は、仰け反りそのまま後ろへ倒れると永久に動きを止めた。
三本の矢が突き刺さる感染者の死体を見下ろすエレナは、突然現れた三人の男達に命を救われたが…まだ頭が混乱していて何が起きたのか整理出来ていない…
身体の力が抜け地面へしゃがみ込むエレナに愛犬が近づき、エレナは愛犬を強く抱きしめた。
震える体を精一杯抑えようと試みる
弓の男「大丈夫?怪我はない?」
エレナに向け口を開いたと同時に
「ジィージジィ!電波が乱れザァーザーかったやっと繋がった!ザァ!」
三人の男達が耳に取り付けてる無線機に無線が入ってきた。
「ガガっ!今どの辺りにいる?ガァ!」
弓の男が無線のトランシーバーを手にすると「靖国通り沿いです。防衛庁を少し過ぎた辺りにいます」
「ザァー!すぐにその場を離れろ!ザァ!」
弓の男「何か起きたんですか?」
「ガガッ!10分前にガァー!らくが入って初台で大量のノロ系と四ザァー!先でも大量のランナー(感染者)がザァーザァーる、その場で挟み撃ちガガガ!」
感染者に突き刺さる矢を引き抜きながら純や「そいつらの数は?」
「ジジジジィ!数えきれん程だ…おまえらの手に負えんザザ!直にそこいら溢れかえるぞ!ザァ!早くその場を離れろガガッ」
弓の男「了解」
弓の男が車の屋根から飛び降りると2人の男へ「地上で帰るのは無理そうだな、ルートを変えよう」
そして、エレナに近づき手を差し伸べた。
弓の男「立てるかい?名前は?」
エレナは頷きながら「エレナと言います…あの…何て言ったらよいのか…あの助けていただ…」
弓の男はエレナの話しを中断させ「エレナさん!もうじきここに大量のゾンビがやってくる…死にたくなければ俺らに着いて来て!どう?一緒に来るかい?」
エレナは、頷くと差し伸べられた弓の男の手を掴み立ち上がった。
弓の男「すぐに移動しよう」
エレナ「あの…」
弓の男がエレナに振り向く
エレナ「お名前教えて頂けますか?」
「ハサウェイ!俺の事はそう呼んでよ」
続く
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