宮島もみじまんじゅう作り体験記
田島絵里子
宮島もみじまんじゅう作り体験記
あなたにもできる! 宮島もみじまんじゅう作り
春も間近な二〇一六年三月某日。
薄曇りの空の下、広がる遠浅の砂浜の向こうは、とろりと横たわる灰色の海。海上には、宮島周辺を慈しむかのように建つ鳥居が見えます。
商店街を漂う牡蛎の焼ける磯のにおいと、チーズとベーコンの握り天の油のにおい。ちょっぴりおなかが減ってきたわたしは、誘われるようにもみじまんじゅう店の前に立っていました。
まんじゅう店の看板を見ながら、期待で鼓動がだんだん高まってきます。
もみじまんじゅうの中身はこし餡が有名ですが、ほかにチョコレート、抹茶、クリーム、つぶ餡、チーズがあります。
明治時代に伊藤博文が、お茶屋の女の子の給仕の手を取って、「もみじのようだ」と言ったのがはじまりだと言われています。
お笑い芸人が一世を
「もみじまんじゅう!」
知らない?
昭和ネタで悪かったわね!
そう。今からわたしは、むかしの菓子職人が作っていた、ノスタルジックな方法を学びに行く訳なのです。
この体験が出来るのは、商店街の入口近くにある有名もみじまんじゅう店です。
店構えは、近代的なお店です。見たところ、普通の和菓子店と変わりません。
レジで講習代金(七百六十円程度)を払ってから二階にのぼります。
二階では、五人ぐらいの人たちが作っています。
金型も、五つぐらいあったでしょうか。
中央に、まんじゅうを食べられるスペースと、手洗いスペースがありました。
さっそく、割烹着とゴム手袋をつけるように指示されました。
さて、いよいよ実習です。
あらかじめ暖めてあるもみじの金型を約三十秒、コンロで暖めます。
金型は、効率よくまんじゅうが作れるように、長方形の型の中に二つかたどられています。
コンロでガスが、ボウボウ燃えています(明治時代には、薪だったそうです)。
その金型に、ホットケーキみたいな薄い生地を入れます。
ボウルに入っているとろりとした薄茶色の生地を、オタマで入れるのです。
ゴム手袋をしているので、ちょっと難しい。
コンロの隣に、目覚まし時計が置かれていて、これで、焼き時間をはかるのです。
「この秒針が、三十秒経ったら、生地を入れて下さい」
たった三十秒でひと段落出来ちゃうらしい。
オタマを握りしめるわたし。心臓は早鐘のように胸を打ちます。
なにしろ恐怖料理を作ったことがあるわたしなので、料理にはあまり自信がないのです。
負けるなわたし。
たとえ不細工なお菓子を作っても、食べるのはわたしだ! 悪いか!
生地を少し、少なめに入れます。
そのまま、餡を入れて、覆うように生地を流し込みます。
生地が金型の中で、餡を包み込みます。
グラタンのホワイトソースみたい。ポタポタしています。
生地を入れたら、ひっくり返して、約二十秒、また焼きます。
ではさらにトリビアをひとつ。
もみじまんじゅうは、洋風の餡(チーズやクリームなど)を入れるときに、だいぶ反対があったそうです。
和菓子に合うわけがない、売れるわけがない。
それでも、創業者は、挑戦をあきらめませんでした。
反対を押し切る勇気が、お菓子作りの歴史を変えていったのです。
機械化するにあたっても、だいぶ反対があったんですよ。
菓子は、手作りが一番だと反対する菓子職人を説得して、できあがりが均一で、品質管理が楽に出来る機械式の方法を模索していったのです。
機械化で、廃れていくかも知れない手作りの伝統を学ぶために、いま、こうしてわたしは講習を受けています。
うまくいくかな。うまくいくかな。
金型を数回ひっくり返し、完全に火が通ったらできあがり。
火が通ったかどうかは、講師がチェックします。
「火が通りましたよ」
うまくいった! できた! やった!
できあがったまんじゅうを、昭和四十年代の機械でラッピング。
まんじゅうを機械に挿入して、がっちゃん! とビニール包装するんですが、あっというまです。
「こっちがチョコレート。こっちが餡子です」
まんじゅうのビニールラップに、チョコ、と書いてくれる講師のひと。
ほっくりあったかいまんじゅうのちっちゃな感触が、とてもうれしいのです。
全工程約三十分。まんじゅう作りの免許皆伝証ももらえますし、お土産として,作りたてのまんじゅうも、もらえます。
できあがったまんじゅうを、その場で食べることも出来ます。
不出来なもみじの形をした、きつね色の可愛いおまんじゅう。
ひとくち、ほおばってみました。
こし餡の上品な甘さと、しっとりしたくちあたり。
まんじゅう全体のふかふかした食感とも相まって、口いっぱいになめらかさが広がります。
焼きたての皮のかおりに、しばし陶然としていました。
今度はチョコレート。
甘ったるいのかと思ったら、かすかに大人の苦みが感じられます。
とろりとしたチョコと焼けた皮の乾いたかおりのハーモニー。口いっぱいにほおばって、もう、夢中になって平らげました。
チョコの入った和菓子なんて初めてでしたが、体験してほんとうによかったです!
和洋折衷、いかにも日本らしい繊細な味でした。
あなたにもできます!
宮島でしか出来ないもみじまんじゅう作り、体験してみませんか。
わたしは作りませんでしたが、店頭で売っている作りたてのチーズもみじもおすすめですよ。
宮島もみじまんじゅう作り体験記 田島絵里子 @hatoule
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