第63話

<ルナ視点>


湖には大きく見たこともない魔物がいる。


真さんがドラゴンと言っている大きい翼と鋭い牙と爪、そして真紅の身体に鋭い目。


怖い。



足が震えてしまう。


とても赤いドラゴンがこちらを向き、口から炎の弾を飛ばしてきた。




「あっ」



こんな遠くから攻撃がくるなんて思っていなかったのもあるし、足が震えていたのもあるかもしれない。

炎が向かってきているのに身体が動かない。



「やばい!みんな避けろ」



そうみんなに声を掛け、私の手を取り回避してくれる。

いざという時とても頼りになる人。

とても優しい人。



元いた場所を見ると1面焼け野原になっているのを見て私はゾッとする。



ユウヤくんは軽々と回避したみたい。

真さんみたいにこの世界に来た男の子。勇者という職業なのか、もうこの近辺の冒険者の人よりも強い。



あとミラさんは...。

焼け野原の中、氷の壁ができている。

すごい。あの炎の中でも溶けない強度の氷を即座に作るなんて。

ミラさんはよくわからない。デタラメに強いのに何事もやる気がないし、好き放題している。

真さんとは、なにかお互い通じるものがあって少し羨ましい。

羨ましいっていっても真さんの事が好きなわけじゃないよ。好きは好きだけどそれは尊敬というかなんというか.....なに言ってるんだ私。



「ルナさんは後方にて支援お願いします。ユウヤは俺と一緒に行くぞ。頼りにしてる」



真さんはミラさんを縛りあげて連れていってしまった。ミラさんの扱いが相変わらずすごいなぁ。



私は周囲を確認し、怪我人を少しでも治癒していく。

手の施しようがない方も何人かいて心が痛くて苦しいけれど悲しむ時間は後!今この時に手遅れにならないようにしなければ。


そう言い聞かせて治癒を次々にしていく。



遠目にドラゴンが地に落ちる。



真さんだろうか、ユウヤくんだろうか、ミラさん...はないかな?



重症者を治癒し終えた所で、ドラゴンのいた方向から冒険者の方が数人逃げるようにこちらにくる。


状況を教えてもらうとすごく苦戦しているみたい。暴れ回るドラゴンに近寄ることもできず黒髪の二人が善戦してくれているというものだった。



ただこのままだと時間の問題だそう。




(あれを使うしかないよね)



私が唯一使える攻撃魔法。集中と詠唱が必要で威力と引き換えに意識がしばらく絶たれる。その期間も明確ではなく数日の時もあれば一年ということもあった。


(でも真さんたちに何かあってから後悔はしたくない!)




私は覚悟を決め前線へと走る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る