第1話 ―それからの日常!?―☆

「えっと、冒険は初めてか!じゃあ、どんな剣がいいのか調べてみるか」


 そう店主は言って、若い男の客を促した。


 弟王の救出については帝国から箝口令(かんこうれい)が敷かれていたが、どこからか噂が流れるもので、町外れにあるというのに店主の武器防具屋の店は、それなりににぎわっていた。


「リリー!じゃあ、この人を裏庭に連れて行って調べてくれ!」


 女戦士は弟王の救出のその後、店主の店で住み込みの手伝いをしていた。


「ではこっちに」


 女戦士は、若い男に淡々と言った。長く艶(つや)やかな黒髪。透き通るような白い肌。そして人間とは思えぬ綺麗な顔立ち。薄茶の綿ズボンに、同じく綿で白の大き目のカッターシャッツという、ただの動きやすい服装も、とてもお洒落に見えた。


「はっ、はい!」


 若い男は返事をしつつも、それはそれは綺麗な女戦士に目を奪われていた。


「よお!店主、俺の剣は出来たか!!」


「ああ、出来てるぜ!」


「あんたが合わせてくれた剣は使い易いからな!つい予備に買っちまったよ!!」


 特に、この店独自の剣のフィッテングは評判を呼んでいた。自分の力を最高に引き出す剣。剣に命をかけるからこそ、絶大な信頼に繋がっていて、リピーターがあとを断たなかった。


「なあ、槍の事なんだが」


「弓がもっと上手くなりたいんだが」


「魔法の事も分かると聞いて来たが」


 それだけではない、槍に弓、そして魔法に至っても、屋敷住み込みの師範となった仲間が近くに住んでいるので、アドバイスも直ぐに出来たのも大きかった。


「そういや店主!この間来た時にいた、小さいお嬢ちゃんはどうした?」


 予備の剣を買った客が言った。


「ああ、今日は来てないな」


 店主は適当にごまかした。


「ワンピースに、曲がった剣を持っていたが、ありや、お遊戯会か劇が何かで、剣を買いに来てたのか?てか、そういう剣も売ってるのか?」


 前回来た時に見た印象が、随分と残っていたようだった。客は冗談を言った。


「いや、まあ」


 また店主は適当にごまかす。


『まあ、お付の者もいて目立つからなあ』


 刀の調整に来ていたのだが、『小さいお嬢ちゃん』に、余り興味を持たれても困るので、店には来るなと言っていた。


 その時だった!


「お遊戯ではないのじゃ!」


「えっ!!」


 客は、その声にビックリして振り返った。


 白いワンピース姿、そして金髪ツインテールの『小さいお嬢ちゃん』がいた!


「その者、立ち会え!!!」


 すると、店にあった剣を手に取って抜刀の構えをした。


「おい!店の中でやめろ!!」


 店主が叫ぶが、そのお嬢ちゃんの気迫は凄く、客も思わず自分の剣の柄を握ってしまった。


 その瞬間!


――ピタッ


 客の喉元に、お嬢ちゃんの剣先があった。客はまだ柄を握ったままだった。


「まっ、参った!」

 

 客の男はそう言うと、大慌てで品物を抱えて逃げ出した。


「まってくれ!」


 店主は大慌てで、逃げる客に声をかける。




――バンッ!!


―カラン!カラン!


 客は凄い勢いで店を出て行った。慌てて追いかけ店を出たが店主の声もむなしく、もう客の姿はどこにもなかった。


「あちゃー!」


 店主は頭をかかえて店に戻って来た。


「大変、申し訳ありません」


 お付の老執事が頭を下げた。店主は問題を起こした、『小さいお嬢ちゃん』に文句を言った。


「おい!お前なあ、客が来なくなったらどうすんだよ!」


「あの者がバカにするから、いけないのじゃ!」


「アレはただの、冗談好きな客なんだよ!!」


「バカにするのから、いけないのじゃ!!」


「てか、お前もう店に来るなよ!!」


 店主が腰に手を当てて怒る。『小さいお嬢ちゃん』は、両手持った剣を盾に、背を反らせながらも言い返した!


「だって、リリーだけずるいのじゃ!!わらはもここに住みたいのじゃ!!!」


 その言葉に店主はため息をついた。そして店主の胸ぐらいの高さで息巻いてる、『小さいお嬢ちゃん』の剣の刃をガシッとつかんだ。


「あっ、危ないのじゃ!!」


 刃は手が動かなければ切れる事はないので店主は落ち着いていた。とはいえ、握力が相当にあっての事だが。


「住むなんて出来る訳ねーだろ!それは分かるだろう?ロニー?」


「ぐっ」


 たじろぐ『小さいお嬢ちゃん』は、必死で剣を取り戻そうとするが、店主に握られた剣はびくともしなかった。すると店主は『小さいお嬢ちゃん』に言った。


「だってお前は……







 お嬢様なんだからな!!」


 そう言うと、お嬢様の剣を店主は強引に奪い取った。


「わっ!!」


 その弾みで、お嬢様は後ろに転んだ。すると、目の前にはM字で開かれた足!!




 白いパンツだった。


「見るでなーい!!」


 お嬢様は大慌てでスカートを押さえた。


「とにかく帰れ!身分をわきまえろ!!」


 店主は大声で言った。お嬢様は店主にそう言われると、見る見るうちに目に涙をためていった。


「だったら……ただ、わらはは……カタナを取りに来ただけなのじゃ」


 そして、ポロポロと涙をこぼしながら、それでも一所懸命に言い訳して言い返していた。


『どうしてダメなのじゃ?……わらはは、少しでも一緒にいたいだけなのじゃ……』


 そこに、女戦士と剣のフィッティングをしていた、若い男の客が裏口から戻って来た。


「……」


 客の目の前には年端もいかない少女が、スカートを押さえて泣いている!! しかも、店主の手には剣!!


 客は、ただならぬ様子を感じた。ヤバイだろ!この構図!?


「あっ!また来ます!!」


 と、若い男の客はそう言って、そそくさと店を出て行ってしまった。


「ちょっと待って!」




――バンッ!!


―カラン!カラン!


「……はあー!」


 店主は深いため息をついた。そして振り向くと、お嬢様に向かって店主は言った。


「お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ!」


「わらはは、悪くないのじゃーーー!!!」


「ああ!もう今日は閉店だ!閉店~!!」


 店主はそう叫ぶと、店のドアの外に掛けている札を『クローズ』にしたのだった。


◇◇◇


 てな訳で、久しぶりに裏庭で稽古が始まった。お嬢様はワンピースから動きやすい服装に着替えると、女戦士と打ち合っていた。


――シャン


 剣と刀がこすれ合った。


―シャシャー!


 互いの鎬(しのぎ)がこすれていく。


――シャー


―カチンッ!


 互いの鍔(つば)がぶつかり、競り合って向き合う二人。


「どうじゃ!」


 得意顔のお嬢様。


「上手くなってる」


 淡々と言う女戦士。お嬢様はいったん間合いを取りながら離れると、鞘を腰から前に抜き出し、刀を鞘に音も無く戻した。抜刀の構えに入った。


 その瞬間!


――ヒュン!!


 お嬢様の『鞘走り』が炸裂した。


―ピタッ


「あと、すこしじゃったか!!」


 お嬢様の剣先が女戦士の喉元をとらえていた。


「残念ね。でも惜しかった」


 が、お嬢様の喉元にも女戦士の剣先があった。お嬢様はとても残念そうな顔だった。まさに互いが先(せん)の相打ちだった。




――サクッ!


―サクッ!


 その様子を見ながら、店主は人型の的に向かってナイフを投げていた。店主の手には何本ものナイフがあった。


「ふうっ!悔しいのじゃ」


 お嬢様はタオルで汗を拭きながら、店主を見ていた。


――サクッ!


―サクッ!


「よく見れば、そのナイフは普通のナイフと違うのじゃ!」


「おお!よく気づいたな」


 店主は的に刺さったナイフを取りに行った。ナイフはどれも急所に刺さっていた。


 店主の持っているナイフは、普通の片刃のナイフと違い、両方に刃のついた両刃のナイフだった。


「ダガーナイフって言うんだ」


 すると店主は持っている一本のダガーナイフをクルンと回すと、お嬢様にナイフの柄を差し出した。


「何が違うのじゃ?」


 お嬢様はナイフを持ちながら質問した。


「片刃は峰(みね)があるだろ?その分、丈夫なんだ。それにそこに手をかけて力を加える事が出来る。だから、厚みのある片刃なら、剣だって受ける事が出来る」


「なるほど!両刃では片手でしか受けられんのじゃ。しかし、間違ったらえらい事じゃのう」


「まあな、でもだから両刃の場合は両手で持つのが多いんだ」


「そうしたら、バッテンで受けるのか!」


「そうだ!刃が欠けるがな。まあ基本、消耗品だしな」


 そう店主は言うと、集めたダガーナイフを腰に巻いたホルダーの背中側に刺しこむと、そこから素早く取り出し、また投げた。


「片刃のナイフでは、刃の向きを考えて投げないといけないのだが、両刃だと気にせず投げられる!それも利点の一つだ」


「なるほど!投げナイフ用なのか!!思えば、サーカスの投げナイフもそうじゃのう!!」


 お嬢様は思い出しながら、ダガーナイフの刃の腹をさわった。


「所で、どう投げるのじゃ?」


「ああ、回転式と無回転式がある。回転式は基本、刃を持つ。無回転式は柄を持ったままだ」


「ジャックはどっちなのじゃ?」


「俺は、腰からこうやって柄をつかんで投げるから無回転式だ。だが、ようは当たればいいから、練習するなら両方試すといいかもな!」


 お嬢様も早速、ナイフ投げを始めた。


「じゃあ、まずは刃を持ってみろ」


「こうか!」


「そしたら、的に向って投げろ!!」


――ヒュン


―コン!


 柄が当たって下に落ちた。


「刺さらないのじゃ!!」


 怒って文句を言う、お嬢様。


「一歩下がってみろ」


 と、店主が言うと、お嬢様は一歩下がった。そして、さっきのように投げた。


――ヒュン


―カツ!


「刺さったのじゃ!」


 斜めになってはいるが、ナイフが的に刺さった。


「回転を合わせる。もう一歩下がれ」


 店主に言われ、もう一歩下がった。そしてお嬢様は、またナイフを投げた!!


――ヒュン


―サクッ!


「当たったのじゃ!!」


 見事!的にナイフが刺さった。お嬢様は大喜びした。


「それが、お前のナイフ投げの間合いだ」


 そのあと、何回もやった。投げられたナイフは、的に深々と刺さっていた。そしてどんどんと急所に近づいていた。


『しかし、本当に習得率が高い!ロニーの凄い所は、動きの再現性が非常にいい所だな。同じ動きを再現できる!!』


 店主は改めて驚いていた。人間はどうしても無意識に調整をしてしまうのだ。そのままの動きで距離を調整と思っても、どこかに余計な力が入ってしまい、それを修正するために、習得はそれなりの時間がかかるものとなっているのだ。


『いったい、どこまで上達するんだ!?」


 店主はひたすらに驚くばかりだった。








「昼ご飯、出来た」


 その時、女戦士の声がしたのだった。


【ステータス】


☆お嬢様

・白のワンピース

・細くて赤いリボン

・動きやすい服装

・白のパンツ


★女戦士

・真っすぐな長い黒髪(つやつやだよ)

・動きやすい服装

・もちろん!黒の下着上下


※やっぱ!第二章になっても、パンツは大事だね!!


つづく


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