第33話 ―最良の救出!?―

 6階の大広間のミノタウルスの大軍を倒したあと、とうとう公爵の居る7階へと足を踏み入れた。そこは、今までと全く違っていた。


「たっ、高いでござる!」


 槍使いが天井を見上げた。天井がひたすら高かった!背丈の3倍はあった。高い高い天井の通路は、幅も広かった。


 巨大通路だった。


 まるで、自分たちが小人にでもなったかのように錯覚した。


「この先に公爵様がいます!」


 魔法使いが水晶球をのぞく。巨大通路の先を曲がった所に、公爵がいるのが分かった!


――ガタガタガタ!


 その時!僧侶のメイスが、激しく震えた。


「みんなぁ、気をつけてぇ!!またぁ、凄いのがいるわよぉ~!!」


 ゆっくりと巨大通路を歩いていった。通路の先には、さらに驚くべき広さの、巨大なホールが広がっていた。


 ドーム型になったホール。その天井は、石を投げても届かないきっと簡単には届かないだろう。


「居たな!」


 店主がずっと先をにらむ。


 そして巨大ホールのずっと奥に、大きな三つ頭を持つ、巨大犬ケルベロスがいた。


「行くぞ!!」


 ケルベロスとの戦いが始まった。ケルベロスはこちらを見つけるやいなや、走り出した! 距離があるうちに、弓使いと魔法使いが先手を取った!!


 弓使いの前に魔法矢の盾が現れた!すると弓使いは、3本も矢を取り、3本まとめて射ったのだ!


―――シュウウウウウン!!!


 その矢は、曲線を何度も描き、避けようとするケルベロスの3つの頭、それぞれに命中した!


『本当に当たったのじゃ!!』


 絶対必中の矢を、お嬢様は目の当たりにした。魔法の矢は当たると消え失せ、その傷口からは、おびただしい量の血が流れ出した。

 

 魔法の詠唱が終わった!魔法使いは杖を向けた!!


――ドオオォォォォン!!!


 と、いう凄まじい音と共に、巨大な閃光が三本、それぞれの頭に放電された。見ていた全員の網膜には、その強い光の跡が残った。


 ケルベロスの足が止まった!


―――シュウウウウウン!!!


――ドオオォォォォン!!!


―――シュウウウウウン!!!


――ドオオォォォォン!!!


 と、弓使いと魔法使いは、それを何度も繰り返しながら、徐々にケルベロスとの距離を詰めていった。その後ろでは僧侶が弓使いにひたすら、魔力治癒の祈祷を捧げていた。


 店主、女戦士、槍使い、老執事らも散開しながら、また魔法攻撃に気をつけながら、巨大なケルベロスに近づいていく。お嬢様は、弓使いと魔法使いの後ろに隠れていた。


 そして、弓使いと魔法使いが、十分に弱らせたところで、店主、女戦士、老執事の三人が跳びかかった!


――ズバン! ダンッ


―ズバン! ダンッ 


――ズバン! ダンッ


 店主、女戦士、老執事のそれぞれが、一つずつ頭を切り落とした。


 が、ケルベロスの断末魔の攻撃!!


 首を落とされたケルベロスの体が、前足の爪を振り回し、お嬢様の方へ跳びかかる!!


「おりゃぁぁぁぁ!!!」


 その時、槍使いがケルベロスに突進した!すんでの所で、ケルベロスの爪が止まった。槍が巨大な体を支えていた。槍使いが槍を横に倒した。


――ズサーンッ!!


 音を立てて、巨体が床に転がった。


 巨大ホールに静けさが戻った。


「さあ、ケルベロスを倒したぞ!!」


 店主の声に、公爵の探索が始まった。


 ケルベロスの居座っていた所。そこに、手紙にあったドアがあった。老執事がドアの向こうに声をかけた。


――ドンドン


「助けに参りました!!」


―ドンドン


「助けに参りました!!」


 繰り返していると、ドアがゆっくりと開き、中から護衛が出てきた!


「公爵様はご無事か?」


 老執事が聞くと、護衛は老執事の顔を見、涙ながらに言った。







「ごっ、ご無事でございます!!」


 安堵の涙だった。


◇◇◇


 それからひとまずは、公爵を連れて地上まで戻った。従者たちサポート隊が公爵を連れて行く。店主たちの部隊は、怪物からの追撃に備えて、一番後ろの殿(しんがり)を務めた。


「公爵様―!!」


 地上では、待っていた従者たちが歓声を上げていた。そして、店主たちが出てくると……


「「「ありがとうございます!!」」」


 手を握られたり、肩を叩かれたり、抱きつかれたりされ、従者たちからの心からのお礼と、労(ねぎら)いの言葉が飛び交ったのだった。


 その日は、初めに作った外の、第1ベースキャンプで、公爵は休む事になった。まずは体力の回復を待ってから、馬車で帰る手はずとなったからだ。


 なので、その日の夜は簡単な宴(うたげ)となった。一番大きなテントにて皆が集まった。


「改めて、礼を言わせて頂こう。大儀であった。」


 奥に座っている、アインアルバート公爵が言った。そのすぐ横には、お嬢様がいた。お嬢様は本当に安心した表情をしていた。


「それで、最後は大きな犬と戦ったのじゃ」


「そうであったか!よくぞ、あの巨大犬を倒したものだ!!」


 その夜は、塔の中での経緯が話されていて、談笑が続いたのだった。


◇◇◇


 次の日の朝。


「さて、これで終わりでござるか?」


 槍使いのその言葉に、朝早くテント前に集まって来た仲間みんなが、ジャックを見ていた。


 槍使い、魔法使い、僧侶、弓使い。


 みんなが、ジャックからの言葉を待っていたのだ。老執事、いや帝国からの依頼は終わった。あとは、店主たちの自由だった。


 すでに、7階までのルートが出来ていた。それも怪物が出ないルートがだ!魔法使いの水晶球では、あと少しで最上階という話だった。


 誰も今だ成し遂げていない、前人未踏のダンジョン天空の塔!その最上部への攻略!!だから久々に、冒険者の血が騒ぐのだ……




 今がチャンス!!だと。


「ふうー!」


 大きく息を吐く店主。だから、だから頭をかきながらジャックは言った。


「仕方ないなあ。よし!最上階まで攻略するぞ!!」

 

 よしゃあー!!と、みんな歓声を上げた。


 その時だった。


「まっ、待つのじゃ!」


 そこに……


「はあ、はあ、はあ……」


 息を切らし慌てて走ってきた、お嬢様がいた。


「わっ、わらはも行くのじゃ!」


 みんなが目を見合わせた。お嬢様に店主が言った。


「7階から先は、危険すぎる。もう帝国のサポートはないんだ!」


「でも、行きたいのじゃ!サポートなら、わらはがお父様に頼もうぞ!」


 それを聞いた店主は強く言った。


「わがままを言うな。本来、冒険というのは、自分の手で切り開ける者だけがする事が出来るんだ!」


 店主の目は真剣だった。今までが手厚すぎたのだった。


「だって、わらはは、わらはは…うぐっ…ずるい……みんなだけ……わらはだけ……のけ者じゃ……」


 しゃくりあげたお嬢様は、両腕をあげながら涙をぬぐっていた。


「うぐっ…ずるいよぉ……みんなだけぇ…」


「なら、行って来なさい」


「「「えっ!?」」」


 みんなが振り返ると、そこには、アインアルバート公爵が居た。


「行って来なさい。サポートも続けよう」


「でもロニー、いや、お嬢、いや姫君を守る事はお約束出来ません。執事さんの護衛が不可欠ですが、それですと、公爵様の護衛は誰が?」


 すると、老執事が現れ店主に言った。


「もちろん公爵様の護衛は、わたくしめがつきましょう。お嬢様なら、もう大丈夫。一人前ですよ。……ご武運を!」


 公爵は、お嬢様を見て改めて言った。


「その時はその時だ!お前が決めた事だ。思い切りやって来なさい!!」


「お父様!!」


 一人の男親の言葉があった。


「ジャック殿!なにがあっても責めはせぬ。娘をどうか、連れて行ってくれまいか?一人の親として頼む」


 頭を下げる公爵に、店主は断れなくなり、やれやれと頭をかいて言った。


「承(うけたまわ)りました!」


 こうして、お嬢様を連れ、天空の塔、最上階への攻略が始まったのだった。







 その様子に、女戦士はつぶやいた。


「私、独り帰ろうかしら」


 と。


【ステータス】


☆お嬢様

・黄色のヒモパン!


★女戦士

・黒のヒモパン!!


☆魔法使い

・パンツ履いてない!けど、勝負の生成りはポケットに!!


つづく

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