ひきだしの肥やしたち

オノマトペとぺ

第1話

このひきだしの中には

たくさんのたくさんの言葉たちがつまっている。


自分から溢れて、行くあてのない言葉たちを

仕方がないから、付箋に、ノートの切れ端に、破れてしまった折り紙に、

なんとなく書き留めた。


そうでもしないとこの言葉たちはどういうわけか

気化して、そこらじゅうを漂って、

また自分の中に吸い込まれてしまう気がした。


赤いペンで、青いペンで、はたまた先の鈍くなった鉛筆で、

大切とは言えないが、無下にもしたくないこの言葉たちは

さまざまな色、形で姿を保つ。


逃げないように、消えないように、書き留めてはみるけれど、

この机のひきだしに、放り込んではそのままだ。

本当に時々、腐ってしまってはいないかと、ふと心配になり

中を覗いてはそのままの言葉たちに安心し、そんな自分に呆れてしまう。


次から次に言葉が溢れることもあれば、

ついに枯れたかと驚くほど何も出てこないこともある。

しかし着実に数を増やすこの言葉たちは、

いつかこのひきだしから溢れて見えなくなってしまうのだろうか。


消えてもらっては寂しいと、私は最後の手段に出る。

このたくさんの、大切とはいえぬ、でも無下にもしたくない彼らを、

自分は聞く余裕のある誰かに託すことにしたわけだ。


誰かの心のひきだしの中に、肥やしとしてでも、

消えないでいてくれたら、嬉しいなと少しばかり思ったのだ。

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