第1273話 ど偽男騎士さんとマザーコンピューター

【前回のあらすじ】


 ○んこ!! ひっこまへんやんけ!!


 不完全な【性闘衣】には強烈な副作用があった。神の強大なエネルギーが与えられるその衣。そのエネルギーを適切に発させるために、女エルフの身体は基礎代謝の多い♂に変換されてしまった。


 そう、今流行りのTSである!!


「いや、流行っとるんかい?」


 流行ってますよ。僕の周りでは大流行りですよ。

 世はまさしく大TS時代。これから先、きっとラノベでも「男だと思っていた幼馴染がやっぱり男だったんだけれどTSした」みたいなのが出てきますよ。

 えぇ間違いありません。


 男×男こそ、究極の男の浪漫。それは戦国時代から代わらないんだよなぁ……。


「歴史小説読んでると小姓ネタはよく出てくるものね」


 まぁそんなことはともかく。ついにTSしちゃったよどエルフさん。今まで、男装したり、男に間違えられたりする展開はあったけれど、肉体まで変換がかかってしまったのはこれが初めて。

 しかも、服を脱いでも元に戻らないから、さぁ大変。


 はたしてどエルフさんは、元の姿に戻れるのか。○んこは引っ込んでくれるのか。


 という所で、視点変換です。


「うぉい!! 私の身体、これどうなっちゃうのよ!! それくらいはっきりさせてから次に進んでよお願いだから!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 場所は切り替わって、熱帯密林都市ア・マゾ・ン。

 男騎士の意識を植え付けられ、味方になった偽男騎士ELF。彼の先導により、割と順調に都市に戻って来た女修道士シスターたちは、その中枢でマザーコンピューターと対面していた。


 並ぶ女修道士たちの前で、ビコビコと発光するマザーコンピューター。

 塔のような外観のそれから感情を読み取るのは難しいが、心なしかその発光が寂しげに見えた。南の大陸を覆い尽くしていた異変の真実に、心を痛めているのかもしれなかった。


『……そうですか、そんなことが起こっていたんですね』


「だぞ。ドラドラセブンの横暴をこれ以上許しちゃいけないんだぞ」


「今こそ、破壊神陣営も知恵の神の陣営も力を合わせて、この危機に立ち向かう時です。けれどもその前に、このまま放っておけばこの大陸はウィルスで滅んでしまう」


「ネズミ型ELFを破壊する爆弾が必要なんです!! お願いしますおかーたんこんぴゅーたーさん!! エリィたちに爆弾を貸してください!!」


 この状況を打破するアイテム【ネズミ型ELF破壊爆弾】を求める女修道士たち。

 青白い光を一瞬放って沈黙したマザーコンピューター。やがてにわかにその身体の発光が慌ただしくなったかと思うと『いいでしょう』という承諾の声と共に、床に四角い穴を開けた。


 穴の中に見えるのは階段。どうやらどこかに続いているらしい。


『貴方たちを【ネズミ型ELF破壊爆弾】が格納されている武器庫へと案内します。どうぞそれを使ってこの南の大陸を救ってください』


「デラえもんさん」


「だぞ、ここから直接撃つことはできないんだぞ?」


『大量破壊のミサイルですから。私のようなマザーコンピューターには発射の権限が与えられていないんです。もし私がそれを自由に操れたら、たちまちこの南の大陸は焦土と化すでしょう。そういう制限が我々にはあるんですよ』


 なるほど。持っているのに使わないのはそういうことかと一同は納得する。

 マザーコンピューターが武力を直接的に行使する事ができたら、それこそドラドラセブンの暗躍などとは比べものにならない大惨事になる。そうならなかったのには、ちゃんと理由があったのだ――。


 それではと女修道士シスター、新女王、そして偽男騎士が穴へと入る。

 ただ、一人だけワンコ教授が、後ろ髪を引かれるように穴に入る前に足を止めた。

 彼女はそびえ立つマザーコンピューターを見上げると、なんだか不思議そうに眉間に皺を寄せた。


「だぞ、マザーコンピューターには直接的な攻撃を行う権限がないんだぞ?」


『はいそうですね。それは、破壊神の陣営についても同じはずです。都市間戦争になったら、この大陸は一瞬にして死の大地に変わってしまいますから』


「だから僕たちのような使者をたてて、他の都市に対してスパイ活動や破壊工作活動をさせているんだぞ?」


『……そうですね、そういうことになりますね』


 ワンコ教授の中で何かが組み上がっていく。

 ここまでの冒険の謎。どうして自分たちはこんな冒険を繰り広げたのか。


 行く先々で襲われる謎の懲罰部隊。それが終ったと思えば、ドラドラセブンの強襲。そして、破壊神側の真意。長年にわたって南の大陸を覆ってい青白い雲。

 それぞれがそれぞれに独立した目的があるのだと思っていた。


 けれどもそうではないとしたら。

 これらの一連の行いに、何か意味があるのだとしたら。

 そして、もし意味があるとするならばそれは、この南の大陸の存在に深く関わってくることではないのか――。


「だぞ、もう一度、確認したいんだぞ。今、この世界に満ちている人間の祖先を作ったのは知恵の神なんだぞ?」


『はい。知恵の神アリスト・F・テレスさまが、貴方たち人間と獣人を作りあげました。そして、この南の大陸から中央大陸へと逃したのです』


「……そもそも、どうして知恵の神は人間を中央大陸に逃したんだぞ?」


『それはその方が人類がよりよい進化を果たすと考えたからです。神々の庇護の元を離れ、多くの困難に立ち向かうことで、人類はより神へと近づく。困難こそが人類を成長させるのに最も大切なエッセンス』


「……だぞ。つまり、デラックスデーモン。お前と知恵の神の行動目的は、よりこの世界を混沌へと近づけること。人間たちに次々と困難を与え、試し、時に犠牲を強いることで強制的に進化を促そうとしている」


『……そういうことも言えますね』


「じゃあ、この状況も『』ということなんだぞ?」


 先に階段へと入っていた女修道士シスターが振り返る。

 突然、何を不穏なことを言い出すのだという焦りは、いつになく鋭いワンコ教授の表情によって一瞬に覚めた。彼女がここまで言うことは少ない。そして、こういう時のワンコ教授の勘はよく当たるのだ。


 だって彼女は、この女エルフパーティの知性代表なのだから。


『やれやれ、困りましたね』


「【ネズミ型ELF破壊爆弾】を用意しているのも、ティトをニセモノとすり替えたのも、懲罰部隊を裏で手引きしていたのも、そもそもドラドラセブンが破壊神側の陣営でしか活動していないことも……全部デラえもん、お前が裏で糸を引いているなら説明がつくんだぞ!!」


『証拠もないのにそんなことを言われても困りますよ』


「証拠ならここにあるんだぞ!!」


 そう言ったワンコ教授の胸ポケットからひょこっと顔を出したのは、ドラドラセブンに所属する一体。ネズミ型ELFのネズ太郎だった。


 彼はそのつぶらな瞳でぎろりとマザーコンピューターを睨んで言い放った。


「ようやく見つけたぜ!! ドラドラセブンを裏で操っている謎のメンバー!! 俺たちに情報を寄こしながら、姿を一度も見せなかったのはそういうことか!!」


『なっ、お前はネズミ型ELF『○ンプイ』の一匹!!』


「デラえもん!! いや、オバケの○太郎!! お前が全ての黒幕だったのか!!」 

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