第1218話 どエルフさんとハクスラ

【前回のあらすじ】


 突如始まる場外乱闘(またの名をバトル展開でページ埋め)!!

 南の大陸を支配しようとしている七人のELFの一体――鳥マンの強襲を受けたササオカ。超能力おっさん対地球外円盤おっさん。

 はたしてどちらがこの戦いを制すのか。


 消える地球外円盤おっさん。

 それを、超能力による力業――地方都市電波塔ミサイルで撃ち落とそうとするササオカ。

 どっちも完全にぶっ壊れ系バトル漫画な絵面。

 こんなバトル展開がはたしていままであったか。


 ファンタジー小説なのに、なかったんだなぁ――。


「いや、あったでしょ、ぶっ壊れバトル!! 最近は他の原稿にリソース割かれてて、こっちに力が入っていなかっただけで!!」


 今日はいつになく作者に優しいのねどエルフさん。そう、これ書いているのも、絶賛商業原稿の最中。いや、実際には何も作業はしていないんだけれど――「いつ、出るんやろ。気が気でなくてなんも手につかんやで!!」状態。読者よりも、誰よりも、発売にやきもきしているのだった――。


 出るんですよねKADOKAWAさん!? 出ますよね!?(2022/3/21)


「これ半年前に書かれた小説なのか。なるほど、微妙に時事ネタがズレてる訳だわ」


 そして、そんな作者の嘆きとは関係ありませんが、ここで視点は女エルフ達に戻ります。


 作画リソースのかかるバトル展開なんて、こんな脳味噌で無理だわよ!!


「だったらやるなよ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 能力抑制室からぴょっこりと顔を出す女エルフとワンコ教授。

 続いて目指すは斜め向こうの部屋。ササオカから渡されたスクロールに、その部屋ならば人に見つかることはないとアドバイスが書かれていたからだ。


 超能力中年が最後に残してくれた気遣いに胸の中で女エルフが感謝する。

 それと同時に――。


「それならそれでさっさと三階まで超能力で飛ばしてくれればよかったのに」


「だぞ。それは多くを求めすぎなんだぞ」


 どうして協力が中途半端なのかという文句も浮かぶ。

 協力の内容が痒いところに手が届いていない。RPGではよくある「本当に困っているならもっと金を寄こせや展開」に、ファンタジー小説の登場人物らしくメタな文句を入れるのだった。


 まぁ、それはそれとして。


 流石にササオカの用意した情報は正確だった。女エルフ達が次々に駆け込んだ部屋にはELFの気配はなく、また、不審者を感知するような装置もなさそうだった。

 廊下を歩く者達に注意すれば問題はない。


 女エルフ達は順調に三階へと向かう階段の前まで歩みを進めることができた。


「ふぅ。ようやく三階まで来られたわね」


「だぞだぞ。さっさとエレベーターの位置を確認して、皆を三階に上げちゃうんだぞ。急ぐんだぞ」


「まぁまぁ、ケティ落ち着いて。ここはまず、状況確認よ」


 そう言って、女エルフが取り出したのはこの建物の間取りが描かれた紙だ。ここ、二階から三階から上がってすぐにある廊下は、建物の真ん中で丁度「T」の字になって別れている。そのTの字の交差部分に地下と三階を繋ぐエレベーターが設置されており、さらにそこから折れた突き当たりに高軌道エレベーターがあった。


 そして、突き当たりに向かうまでの直線通路には、六つの扉――。


「ここにどうやら結構な数のELFが詰めているらしいのよね。騒ぎになったら、まず間違いなく駆けつけてくるから、それをどうにかしないと」


「だぞ。石化魔法とかで扉を塞いじゃうんだぞ?」


「それが無難な所よね。といっても、石化した扉を破るようなパワーを持ったELFが中にいるとも限らないから、どこまでそれも有効かどうか」


 いざとなったら全面戦争。

 全身全霊殴りまくりバトルもやむなし。


 襲い来るELFたちを、仲間と合流するまで戦い続ける必要があるかもしれない。

 口にはしなかったが女エルフはそんな予感を抱いて静かにワンコ教授の前で息をのんだ。ワンコ教授も、あえて聞き返さない当たりそこは弁えていた。


 三階に昇ればそこからろくに装備を調えている時間は無い。

 ここで最後の装備調整。ちょっといいかしらと、女エルフがワンコ教授の肩に手をかけた。


「ケティに力働きを期待するのは難しいわよね。まだ、こんな子供だし」


「だぞ!! 何度も何度も言っているけれど、僕は子供じゃないんだぞ!! 身体が小さいってだけで、ちゃんとした成人獣人なんだぞ!!」 


「ごめんごめん。けど、実際、ちょっと戦うのは難しいわよね」


「……だぞ。ごめんなんだぞ。僕にも剣や弓を扱う腕があったらよかったんだぞ」


「……そうか、腕がなくても攻撃できればいいのか」


 ぽんと女エルフが手を叩く。

 どういうこととワンコ教授が聞き返すより早く、彼女は背嚢を漁り出す。そこから取り出したのは――多くのアイテム。


 魔法の杖、魔導書、鎧、謎の草に謎の野菜。

 これはいったいとワンコ教授が首をかしげる前で、彼女は満面の笑みを浮かべてまずは魔法の杖を持ち上げた。


「これはアイテム【ファイヤワンド】。持っていると一定間隔で炎を射出するわ」


「だぞ。一定間隔で炎を射出」


「レベル8まで上げてあるから相当に強力よ。ただ、魔法使いが使うには、ちょっと攻撃が大雑把すぎるから、使ってなかったのよね……」


「……なるほど!! 自動攻撃する武器を僕が持てば、戦力になれるんだぞ!!」


 そういうことと女エルフがウィンクする。


 ワンコ教授には戦闘技能がない。そして、あまり戦闘に向いている性格でもなければ体格でもない。そんな人間に戦いなんて出来るわけがない――そう思っていたが、何も彼女が直接戦う必要は無い。

 ファンタジー世界には持っているだけで自動で発動する、パッシブタイプの武器もある。それを彼女に持たせればいいだけの話。


 それに今更、女エルフは気がついたのだ。


「次はこれね――聖水。まき散らせば、一定時間そこに入り込んだ敵キャラクターにスリップダメージを与えるわ」


「だぞ、それは便利なんだぞ。使い勝手良さそうなんだぞ」


「次。聖なる書物。勝手に持ち主の周りを旋回して、近づいてくれる敵を蹴散らしてくれるわ。防御にヨシ、攻撃にヨシ、使い勝手のいいアイテムよ」


「だぞだぞ!! これなら僕にも使えそうなんだぞ!!」


 あれよあれよとビルドされていくワンコ教授の装備。

 世の中には便利なアイテムがあるものだ。まるで、わらわらと群がってくるヴァンパイアの眷属どもを、蹴散らすのにうってつけという感じ。


 弱いワンコ教授があっという間に強キャラに。

 はたして、彼女達は三十分生存することができるのか――。


「ついでに、この強化アイテムも着けちゃいましょう。すると、ファイアワンドが貫通性能を……」


「だぞー、すごいんだぞー、こんなアイテムの組み合わせだけで強くなれるだなんて

ワクワクが止まらないんだぞ。ハクハクのスラスラなんだぞ」


 ワンコ教授のビルド結果は、待て、明日!!


 

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