第1217話 ササヤマさんと鳥マン
【前回のあらすじ】
ドラドラセブンネタって、白百合城王国再訪編くらいでやらなかったっけ?
あれ、どうだったっけ。
もうかなり長いことやってるから覚えてないな……。
「お前、ほんと。こんな長編小説書いてるんだから、もっとそういうネタの管理をこまめにやりなさいよ。同じネタを何度もやるって――おじいちゃんか!!」
いや、300万字も書いてりゃ流石にネタ被りくらい起こしますわな。
ハッ!! このやりとりもなんかでやった気がする!!
200万字の時か!? いや、まさか300万字ぴったりの時か!?
なんてことだ――ギャグを被らせてしまうだなんて。小説書きとして一生の不覚。こんなことでは、次の作品の依頼が来なくなる……。
「それで今度は、『いや、こんな奴、一冊出して終わりですよ……』って終らせるんでしょ。もうちょっと自覚と自信を持ちなさいよ。賞を獲ったのは事実なんだし、本を出したのは本当なんだから、胸を張って小説書いてればいいのよ」
なんですかね。
実はこれを書いている頃、結構修羅場というか大事な時期で、気を揉んでいるんですよね。その気を揉んだ甲斐のある結果に結びついていてくれればいいんですが。
僕のはじめて出す小説、売れてくれるといいなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇
「さて、教えるべき情報は教えた。後は彼らが無事に【MM砲】までたどり着いてくれるといいのだが――」
イーグル市上空。
軌道エレベーターのある区画から少し離れた場所。
市内を一望するタワーの展望台――のさらに上。頂上付近、メンテナンス用に設置された足場に立って男は青空を眺めていた。
くたびれたスーツ姿に無精髭。フレームレスのメガネを外すと、彼は手の甲でぐしぐしと顔を洗う。それからため息を風に流した。
男の名はササヤマ。
先ほどまで女エルフに南の大陸の事情をレクチャーしていた男。
足場の手すりを握りしめて前のめり気味にもたれかかった彼は、どこかやりきったような顔をしていた。
何をとは言うまでもない。
「これでこの大陸が再び眠りについてくれれば御の字なんだけれども」
「ほう、何を企んでいるのか知らんが、我らの邪魔をしてくれるなよ」
風に乗って届いた言葉は男のもの。すかさずササヤマが手すりから飛び降りれば、彼が乗っていたそこに青白い雷鳴が降り注いだ。
空からではない。何もない空間から突如としてそれは発生した。
雷魔法――でもない。
「ほう、なんだ逃げ回るのか。お前がそういう生き汚いことをするのは初めて見る気がするな」
「すまんねえ。俺にもちょっとばかし、生き汚くならなくちゃいけない事情ができちまったもんでね」
それは機械が生み出した光。青空の中に突如歪みができたと思えば、そこから灰色の機体が姿を現わす。丸い釜のような飛行物体に乗ったその男。
ヘルメットにより顔の上部は隠れている。
先ほどササヤマが女エルフに教えた男に間違いない。
南の大陸に『霧の魔物』を散布して、都市に悪夢を見せ続ける元凶。
怪人――『鳥マン』。
むき出しになった鼻から下でにんまりと嫌らしい笑顔を造ると、彼はササオカに「久しぶりだな」と声をかけた。
超能力だろうか空中に浮遊したままのササオカ。
イーグル市の宙を舞ったまま彼は空飛ぶ円盤と相対する。
その眉がひくりと動く。先ほどの軽口とは裏腹に表情は強ばっている。歯を食いしばり、彼は男を睨みつけた。
「何百年ぶりの因縁だ。随分と待ったぜこの時をな」
「それはこっちも同じよ。好き勝手やってくれたよな。ライダーン様の膝元を滅茶苦茶にしてくれて。どうしてくれるんだよ――この街は、本当だったらもうとっくの昔に滅んでいるはずだったのに」
「どうせ滅ぶならその目的を果たしてから滅ぶべきだろう。骨の抜かれた神の言いなりになって滅びの宿命を受け入れるよりも、その本来生まれた意味を全うしてから朽ちた方が――命の使い方としては有意義だろう?」
「屁理屈だな」
「事実だよ」
再び灰色の円盤の姿が消える。虚空の中に稲光が光れば、空を青白い光の渦が乱れ舞う。弾ける雷光。空気が破れるような音が飛ぶ。
そんな中で、ササオカは涼しい顔をして右手を上げると――透明の膜を辺りに展開した。雷撃を受け止めて、透明の膜が虹色に輝く。
「バリア? お前、こんな能力を持っていたのか?」
「……さてね」
「……チッ!! 超能力者が!! 正規の破壊神の使徒でもないくせに、相性だけで幅を利かせて忌々しい!! お前達も、他の多くの使徒達と同じように、我らが見せる夢の中で朽ちていけばよかったものを!!」
「俺だってね、こんな厄介ごとなんか引き受けたくなかったし、余所の作品で強キャラムーブなんてしたくなかったさ。けれどもまぁ、仕方ないでしょ。俺しかこういう役目を引き受けることができる奴がいないんだからさ」
破断音。金属がねじりきれる音がしたかと思えば、引きずるような音が空に響く。
姿を現わした灰色の円盤。それに乗る鳥マンがなんの音かと首を振れば、その顔を覆う大きな影が――。
見上げればそこには傾いたタワーの姿。
根元からねじ切られた巨大な塔が『鳥マン』の頭蓋めがけて倒れ落ちて来た。
その首元に冷や汗が滲む。
「くそっ!! なんということを、これがお前の超能力!!」
「知っているぜ? お前、それは姿を消しているだけで、別に速く飛べるというようなもんじゃないんだろう? 迂闊に俺に近づいたのが運の尽きよ?」
「……しかし、姿が見えなければ当てられは!!」
「当てるさ!!」
その宣言通りタワーの胴体が灰色の円盤を叩く。
間延びした金属音と共に、『鳥マン』が乗る未確認飛行物体が空に向かって打ち上げられた。
弧を描いて飛ぶ円盤を先端に捉えてタワーがきりもみ回転をはじめる。
埃をまき散らして回る白色のタワー。
打ち出す角度を計算するように上下に揺れた先端がピタリと止まった次の瞬間。
「発射ァッ!!」
ササヤマが吼える。
一度深く地面に沈み込んだかと思えば、激しく地表をかき乱してタワーが飛ぶ。
鋭く速く一直線に飛んだ特大の矢は――空気を引き裂き光をまき散らし、摩擦で赤く焦げ上がりながら、先を飛ぶ灰色の円盤を刺し貫いた。
「護国のイージスを舐めてもらっちゃ困るよ。どんなものでもぶち当ててみせるさ。物体を回転させて打ち出す。僕が得意とする超能力は極めてシンプルなんだ。その分、技術でカバーしなくちゃね」
邪悪に笑う中年男。しかし、くたびれたサラリーマンというには、その瞳の奥には使命に燃える魂があった――。
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