第1184話 どエルフさんとキリングマシーン

【前回のあらすじ】


 列車強盗VS女エルフパーティー。

 さっそく煙幕魔法を展開し、列車強盗達の視界を封じた女エルフ。しかし、その程度のことで荒くれたちがひるむはずも無し。煙の中の微かな気配を感じ取って、彼らはELF娘を攻撃した。


 貧相――もといか弱いELF娘。

 いくら神の使徒で特別な力を付与された機体と言っても、囲まれてボコられたひとたまりもないか。強烈な悪意と暴力が彼女に降りかかる。


 しかし!!


「あ? お前、なんで左にいるんだ? さっきまで右にいたよな?」


「そういうお前こそ!! ていうか、なんだよその身体!! おまえいつのまにそんなにデブっちまったんだよ!! 増加装甲盛り過ぎだろ!!」


「うっせえ、お前に言われたくねえよ、デブ――って、あれ?」


「「それ、俺の身体――」」


 あっという間に死屍累々。襲いかかってきた列車強盗達を、たちどころに鉄塊に変えてしまったのだった。


 その妙技を放ったのは彼女の二本の腕ではない。

 それとは別ににょきりと生えた鉄の豪腕。


「どうです、これが機能美というものです。貴方のようなヤニで曇った目でも、分かりますよね――この禍々しさは」


 頭部から生やした銀色の腕を振りかぶって怪しく笑うELF娘。

 どうやらただの貧相ELF娘ではない。破壊神が特別に作っただけあって、このELFには特別な力があるようだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「よっこらしょっと!! はぁー、久しぶりに戦闘用のパーツを出すと疲れちゃいますねぇ。けどよかった、どうやら腕は鈍ってないみたいだ」


「……あんた、軽いノリでエグい戦い方するのね」


「なははー!! これは相手がELFだから出来る戦闘方法ですよ!! 流石に、マスターたちみたいな生身の人間相手には、もうちょっと手加減しますって!! 血がブシャーってスプラッターなのは、私も嫌ですからね!!」


「こんなんやった後で言われても説得力ないわよ」


 とりあえず危機は去ったと霧をはらう女エルフ。その中に立ち尽くすのは異形の姿を取ったELF娘。いや、もはやELFと言っていいのだろうかというほど、その身体の形は人間のシルエットからかけ離れていた。


 頭部から生える大きな機械の腕。それのバランスを取るためだろうか、臀部から伸びる鋼の尻尾。脚はいつの間にか肥大化&分裂して、よく見ると四足歩行になっている。放り出した手の先からは、何やらチューブがうねうねと伸びていた。


 見るからに人間ではない。

 いや、そんなのは分かりきっているのだが、ちょっとこれは形容に困る。

 絶句する女エルフの前で、なんでもない感じで身体を元に戻していくELF娘。これまたあっという間、気がついた時には、段ボールの中から飛び出す前と同じ、少しだけ体つきが物足りない少女がそこに立っていた。


「まぁ、これがELFの最上位種、ハイパーバイザー型の実力って奴ですよ」


「さっきの腕がアンタの主武装ってこと?」


「いいえ? 状況に応じて内部に格納している武器を使い分けてます。あれは近距離ハイパワー型の武装ですね。もうちょっと強敵だったら、バランス型ですし、逆に大味な攻撃を仕掛けてくる奴には、精密型の武器を出します。私、こう見えて、結構器用なんですよ?」


「頼もしいやら、怖いやらだわ……」


 胸の前に手を当てて「むふふふ」と自慢げなELF娘。

 褒めて良いのか注意するべきか。判断に迷った女エルフが頭を掻く。すると、彼女他達が立っている床が激しく揺れた。


 体勢を崩す女エルフ。対して、その振動も軽くいなしたELF娘。

 男騎士の代わりにしては頼もしすぎるフィジカルと運動神経。これはこのとぼけた性格と合わせてもお釣りがくるかもしれない――などと、女エルフは思わず考えた。


「マスター。もしかするとマズいかもしれません」


「どうしたのよ?」


「さっきの車体の揺れ。列車の操縦がうまくできていないのかもしれません。列車強盗達が機関車を襲って操縦士達が気絶しているのかも――」


「ちょっと待って。それじゃ、今、この乗り物って」


「誰も操縦していない。最悪、脱線――暴走して道から外れる可能性があります」


 崩した体勢を起こした女エルフ。

 彼女の視線に応えてELF娘が頷く。

 列車の制御を今すぐ取り戻さなくては。表層部に行く途中で立ち往生などシャレにならない。まだ、自分達を襲ってきた列車強盗も居るだろうが、そんなことを気にしている場合じゃない。


 女エルフが列車の入り口へと駆け出す。その後ろにELF娘も続いた。


 鉄の扉を横にひけばそこは外。暗いトンネルの中、太いジョイントとその上に乗った灰色をした足場が見える。トンカンとそれを踏み抜いて隣の車両に女エルフは乗り移る。


「まったくもう、厄介なことをしてくれるわねさっきの奴らも」


「ですね。けどまぁ、イーグル市の上層部にもそういう不穏分子がいるというのは、ある意味で良い情報かもしれません。うまく煽れば、漁夫の利で私たちの仕事が楽になるかもしれませんよ?」


「あんたってば、意外としたたかなのね。なんか最初のイメージから、ただのボケボケ女かと思ってたわ」


「あら、それはマスターだって同じでしょう。煙幕なんて張って、最初から私に戦わせる気満々だったじゃないですか」


「……バレたか」


 さきほどの戦闘で、女エルフはサポートに終始していた。今や、パーティー内では唯一と言っていいアタッカー。その自覚があるのなら、そこは有無も言わさず攻撃していただろう。そうしなかったのは、背中に続くELF娘の実力を測るため。


 女エルフもこれで結構熟練の冒険者。はじめて組む相手の力量の測り方は心得ている。あえて後ろに下がって、彼女がどういう戦い方をするか観察したのだ。


 とぼけているのはお互い様。


「どうです、これで私のことを従僕として認めてくださいました?」


「んー、まぁ、いいわよ。合格ってことにしておいてあげる」


「なんですかそれ!! 失礼ですね!! レディが身体の形を変えてまで戦ったっていうのに、そんな冷めた言い方しなくてもいいんじゃないです!?」


「はいはい。それより、前方の敵お願いできるかしら」


「……任せてくださいマスター!! ちょいちょいのちょいです!!」


 今度は手を筒型に変形させたELF娘。こちらに気づいて顔を上げた列車強盗、その眉間に向かって――エネルギー弾を打ち付ける。

 黄色い光が弾ければ、その場に白目を剥いて倒れるむくつけき労働型ELF。


 雷魔法で行動不能にしたのだ。

 しかも、魔法詠唱も無しに一撃で。


 ひんやりと女エルフの首筋を冷たいモノが走る。


「ほんと、とんでもない拾いものをしちゃったみたいね、私たち……」


 ELF娘の強さに戦慄するのは今は後。

 暴走列車を止めるために、女エルフとELF娘はその車内を疾走するのだった。


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