第1172話 ど女修道士さんと壊れたELF

【宣伝】

「幼馴染だった妻と高二の夏にタイムリープした。17歳の妻がやっぱりかわいい。」今週20日発売です! どうぞよろしくお願いいたします。m(__)m


【前回のあらすじ】


「労働者組合に私らの存在がバレちゃったわね」


「ちょっと刺客が送られてくるとなると面倒ですね」


「だぞ」


「……zzz」


 敵対組織に早速その存在を補足されてしまった女エルフ達。

 なんとか無事にイーグル市の表層に出たい彼女達。不要なもめ事を回避したい。どうにかならないかと頭を捻るも、女エルフはソシャゲにはまり、新女王は幼児化している。ワンコ教授は、こと遺跡や機械のこととなると強いが、こういう冒険の機微には疎い。


 せめてここに男騎士がいてくれたら――と嘆息する女修道士。

 いや、落ち込んでいる場合ではないと気合いを入れた彼女は、とりあえず寝床だけでも変えようと、娼館のスタッフに掛け合うのだった。


 すると。


「なんだい、そんなに組合の連中が来るのが心配だったら、うちらのセーフティーハウスで休むかい?」


「厄介な客が来たときのためにね、アタシら避難場所を共同で持っているんだよ」


「そこなら万に一つも組合の奴らには踏み込まれねえよ。心配だったらそこにお行きよ。明日以降の手はずも、そこからできるようにしといてやるからさ」


 思いもよらない解決策がポンと出てくる。

 一人でうんうんと悩むよりは相談とはよく言ったものだけれども、あっさりと女修道士シスターたちの悩みは解決してしまうのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 娼館から裏路地を通りさらに複数のエレベーターを経由して、女エルフ達は地下街の奥の奥にあるセーフティーハウスに到着した。

 と言っても、家というよりそこは部屋。白塗りの壁に天井、打ちっぱなしのコンクリートの床、ベッドが二つ置かれているだけの簡素な場所だった。


「ここがうちらのセーフティーハウス。なんかあったら、ここで事件が落ち着くまで過ごすの。人間と違ってアタシらはELFだからまぁ、スリープモードになって寝てればすぐってもんよ」


「……へぇ。大変なんですねELFも」


「まぁねぇ。人間の娼婦もそんなもんじゃないの?」


「人間は……まぁ、たしかにそんなものかもしれません」


 分かったような顔をするのは女修道士シスターに経験があるから。基本的に、女修道士が所属している教会は立場の弱い者の味方だ。故に、小さな街の教会であっても、年に数十人、月に数人、教会を頼って人が逃げこんでくるのだ。

 その中には、トラブルを起こした娼婦も多く居る。いや、多いくらいだ。あまりの多さに、娼婦専門のトラブル対処のマニュアルまで整備されているほど……。


 人は窮地に陥ると、まずは身を置く場所を考えるもの。


 あらためて思い直すとそう変な話でもないかもしれない。人と人が濃密なやり取りを行う場である娼館が、そのやりとりがほころんだ場合に逃げる場所を用意しているのは、当然のことのように思えた。


 ここまでの道案内をしてくれたELFたちに別れを告げると、女修道士たちがほっと息を吐く。あとは彼女達に任せておけば、表層行きの目処は立った。とりあえず明日の朝まで英気を養うのが彼女達の当面のやるべきことだ。


 さっさとベッドに上がって休んでしまったワンコ教授と新女王。

 仲良く肩を寄せ合って眠る姿は姉妹のようだ。もっとも、体格の小さい二人が揃って寝るとなるとちょっと具合が悪い。


 ちらりと、女修道士が女エルフの方を見る。

 二つしかないベッド。今日はこの組み合わせで眠るのか。貧相なりにも大人の女エルフと、豊満で1.5人分の肉付きがある女修道士。二人には少し一人用のベッドは狭いように感じられた――。


 ふと、そんな視線に女エルフが気づいて、ソシャゲ周回の手を止める。


「いいわよコーネリア。私、床で寝ても。というか、寝ずの番をしてるから」


「えぇっ!? ダメですよモーラさん、そんな。ちゃんと休んでください」


「大丈夫よ。いつもやってることじゃないの」


「それはまぁ、そうですが。せっかく寝床があるのに寝ないのは……」


 そう言いながらも、女修道士の視線が行ったのは女エルフの手元。

 ずっと握られっぱなしのスマートフォンだ。呉服屋シーマ村でそれを手に入れからと言うもの片時も離そうとしない女エルフ。休んで欲しいというのは女修道士の本当の気持ちだが、実際には――いい加減女エルフにそのゲームをやめて一休みしてほしいという意味合いが強かった。


 まぁ、片手間にやりつつ何か不都合が起こっている訳ではないが、それでも軽くこれで二徹目である。三日も寝ないとなると流石に冒険者でも身体に来る。


「モーラさん、いい加減にしてくださいよ。いつ敵に襲われるか分からない状況なんですから、もうちょっと危機感を持った対応を」


「大丈夫だって。ほら、さっきも私、これやりながら対処したじゃない」


「そうですけれども! 私は貴方の身体のことを心配して!」


「もー、五月蠅いわねコーネリアったら。そうだ、貴方も一度これやってみればいいのよ。きっと私がずっとやってる気持ちも分かるわよ」


「やりません!」


「まぁまぁ」


 布教オタクの血が騒いだか、おもむろに立ち上がった女エルフが、女修道士へと歩み寄る。その背後に回り込むと、さあさあどうぞと彼女はスマホを彼女の顔の前に差し出した。


 やりませんからと首と乳を振る女修道士。

 力が余ったか、その勢いで女エルフが体勢を崩す。弾かれた彼女がおっとっととよろけて壁にもたれかかった――その瞬間だった。


 モロ……ッ!


「え?」


「あれ?」


 女エルフが手をついた場所の壁が崩れ落ちる。白色をしたコンクリートの壁が、コミカルな音を立てて砂に変わると、その粉がうずたかく床に積もった。

 さっと女エルフ達の顔から血の気がひく。

 借りた部屋を自分達の粗相で壊してしまったのだ、それはそうなるだろう。


 しかし、それにしたってこんな漫画みたいなことがあるだろうか。

 ちょっと手を触れただけで壁が壊れるだなんて、そんなこと。


 黙って崩れた壁を見つめる女エルフと女修道士。崩れた壁から手を放した女エルフが、粉にまみれた手を後ろに回すと、急にヘタクソな口笛を吹いた。

 なにもくそも――誤魔化すつもりだ。


「脆すぎじゃないの、ちょっとこの部屋本当に大丈夫なの?」


「いやいや、何を責任転嫁してるんですか。壊したのはモーラさんじゃないですか」


「きっとこの部屋の経年劣化が来ているのよ。そういうことだわ。だから、私は悪くない。何も悪くない」


「そういうのちょっとどうかと思いますよ、都合の良いときだけ被害者面して……って、あれ?」


 女エルフの誤魔化しを糾弾していた女修道士シスター

 その言葉が急に止まる。


 いったいどうしたのかと女エルフも黙れば、女修道士がこわごわと手を挙げて、女エルフが壊した壁を指差した。なにかあるのだろうかと目を向ければそこには。


「……なにこれ」


「……どういうこと?」


 壁の中には――銀色の髪をしたELFが埋め込まれていた。しかもそのELFは、女エルフ達がシーマ村の社長から教えられた【ダブルオーの衣】を身に纏っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る