第1153話 どエルフさんとUWA娘

【前回のあらすじ】


 女神は怒っていた。

 センシティブな女エルフに怒っていた。


「ウワキツ力とセンシティブ力、その二つを兼ね備えた伝説のウワキツ戦士になり得る素質があるというのに、貴方はそれを充分に生かしきれていない!! なんて勿体ないことをしているんです!!」


「ちがった、またなんかへんなとっくんさせられるやつ」


 かつて女エルフを特訓し、立派な魔界天使白スク水へと鍛え上げた海母神マーチ。今回もやっぱり特訓イベント。女エルフの持っている無限のセンシティブパワーを嗅ぎつけて、それを高めようと彼女は考えていたのだ。


 おそるべしセンシティブの女神。


 かくしてまたしても唐突に始まる女神の試練。

 知らず知らずのうちにセンシティブ力を発揮したのは女エルフだが、巻き込まれるのは哀れかなヒロイン体質。なりたくもないしやりたくもないが、女神に言われたらしょうがない。イヤイヤながらもこれはもう引き受けるしかない流れ。


 はたして女エルフは無事にセンシティブの女神の試練に耐えきって「お局リーダーポジション」の女になることができるのか。


「なりたくないのら。モーラ、そんなのなりたくないのら」


 行き当たりばったりにしてもこんなことやってていいのかセンシティブ試練。

 先の見えないトンチキがまたしてもはじまるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「とはいえ、流石にストーリーの尺を考えると、そろそろこの章も終わりに向かって進み出さないといけません」


「唐突なメタネタ」


「ウワキツ試練もやる、ストーリーも進める。どっちもやるから、どエルフさんは大変だぜ。そういうことです、ブローノ・モララティ」


「パロ元が識別できないようなネタはやめた方がいいと思うの」


 まぁまぁ細かいことはいいからと強引に押し切る海母神。

 彼女はひょいと腰から小さなアイテムを取り出すと、それを女エルフへと差し出した。小さな小さな、それは黒くて四角い謎の石版。


 さきほど、メカクレの彼も持っていたアイテムだ。


「それはこちらの文明で言うところのスマホと呼ばれるアイテムです」


「スマホ? どういうアイテムなの?」


「そうですね、説明しようとすると複雑なのですが――それ一つで、遠距離通信や複雑な計算処理、現在自分たちがいる位置の把握や時刻の確認、景色を絵にして残したり人の言葉を録音したりすることができる、それはもう便利な道具」


「……なにそれ、怖い」


 異世界人としては高い知性を持つエルフでも、スマホはちょっと理解が及ばないようだ。気味が悪そうに手にしたスマホから身体を離す。

 人間、自分の理解の及ばぬモノは怖い物。なんでもできるということは、それだけ複雑というもの。恐れるのは仕方なかった。


 そんな女エルフを、心配しなくても大丈夫と女神がフォローする。


「貴方が使いやすいように機能は制限しておきました。とりあえず、画面をタップしてみてください」


「タップ? 触ればいいってこと?」


 裏表はなんとか分かるらしい。

 つるつるとした鏡面をいぶかしげに眺めると、女エルフがそっとその人差し指を画面に添える。ぽちりと突けば、まばゆい光を放って鏡面に明かりが灯った。


 わっと驚いて身を引いた女エルフ。

 その手の中で、スマホは軽快な音をたてはじめる。

 流れるのはファンファーレ、そして、女の子――というにはちょっとトウの立った女性達が、運動場を駆け回っている映像だった。


 これはいったい――。


『UWA娘センシティブダービー!!』


「また、ヤベーパロディが来た!!」


「そのスマホに入っているのUWA娘というゲームアプリです。試練に時間をかけられないのなら仕方ありません。そういう時は現代文明の利器、スマホを使って――隙間時間でレッツ試練ですよ!!」


 ついにファンタジー世界にも隙間時間という概念が。

 可処分時間の減少に伴い、がっつりとゲームをやる時間がとれなくなった現代人。そんな彼らにどうにかこうにか楽しんで貰おうと、隙間時間と金で解決できるよう作られたソシャゲ。それをトレーニングに応用しようとは。


 異世界ソシャゲ。

 確かに利にはかなっているが、ちょっとどうかという試練である。

 ただでさえ意味の分からないスマホに加えて、この無理のある展開に完全に女エルフは困惑顔。どうすりゃいいのよと白目を剥く。


 そんな彼女に、隙を与えぬとばかりに女神がまくし立てる。


「モーラさんにはこのUWA娘でSランククリアを目指していただきます。基本的には最初に育成方針を決定すれば後はオートで動作するので、冒険しながらプレイすることが可能です。さらに、GPS機能と連動しており、歩行数によってガチャや育成で使うことができるジュエルがたまるようになって……」


「ちょっちょっちょっ、いきなりそんなこと言われても分からないって!! つまり何をすればいいの!?」


「UWA娘を育成して、シナリオを消化すればいいんです。各UWA娘ごとに設定されたレースを突破して、最終的にUOAファイナルで優勝すればいいんです」


「レースって何、UWA娘って? UOAファイナルって、なんなのよ!!」


「UWAKITSUIONNNA OMIAI ASSOCIATIONファイナルの略ですよ!!」


「バカにされてるのだけは分かったけれど、何もわかんねー!!」


 いったいどういうゲームなのか。

 そして娘要素はいったいどこに消えたのか。

 GPS機能で歩数を計測って、そもそもそういうゲームじゃないだろパロ元。

 いろんなソシャゲが混ざった状態にただでさえなじみのない女エルフが混乱する。


 しかし、訳が分かんないながらも、楽しめちゃうのがソシャゲの憎いところ。

 まぁまぁ、まずはちょっと触ってみてくださいよと、女神がそっと女エルフの手を握りしめる。しぶしぶながらも女エルフはもう一度スマホの画面をタップする。


 UWA娘の画面が更新され、さっそくオープニングが流れはじめた。


『UWA娘。それはウワキツ過ぎて婚期を逃した女達。これは彼女達による、彼氏あるいは旦那様、人生の伴侶を求めて鎬を削るお見合いレースの物語である』


「最初からでかいヘイトを貯めてくるなぁ」


『婚活アドバイザーさん!! まずは名前を入れてくださいね!!』


「……モーラっと」


『モーラさんですね!! よろしくお願いします!! これから、私たちと一緒に出口の見えない婚活戦争を駆け抜け、共に女の幸せを勝ち取りましょう!! 抜け駆けは揺るさんぜよ!! 地獄の果てまでアンタについてくけんねぇ!!』


「慕ってるのか嫌われてるのかどっちなのよこれ」


 不安しかない冒頭に頭を抱える女エルフ。

 けれどもちょっぴり、キャラクターの気持ちが分かってしまうのは彼女もそういう経験があるから。悲しいかな、内容は彼女にとってぴったりのアプリだった。


 そして嫌よ嫌よと言いつつ、ぽちぽちとスマホの画面をタップする指先は軽快に踊る。あぁ、ソシャゲおそるべし。この手のゲームに一番ハマるのは、こういう普段あんまりゲームをしない層なのだった。


「うーん、まぁ、ちょっとくらいは頑張ってもいいかなぁ」


「その意気ですよモーラさん!!」


 冥府魔道に知らずと脚を突っ込む女エルフ。

 その行く先は地獄ぞと注意する者は――残念ながら誰も居ないのだった。

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