第1149話 どエルフさんとセンシティブの塊

【前回のあらすじ】


 女エルフ達が立ち寄った街――『コロニー0083』は、破壊神の都市の実験都市だった。それ故に、三都市と違って機能停止することなく、例の黒幕と思われる稲光のたちこめる暗雲の影響を受けずに済んだ。


 滅び行く都市と運命を共にするハズだった女社長。

 しかし、その滅びの運命を大きく狂わせたのは、機能停止した三都市の再起動。

 街に残ったことで、都市に入る刺客を失った彼女は、日に日に動かなくなり朽ちていく街の中で、かつての故郷の惨状を憂いていた。


 女エルフから、三都市の近況を聞かされた女社長。

 その惨状に涙を流しながらもそこで立ち止まるような女ではない。せめて、故郷に入ることができないのならばと、この大陸にはびこる悪意に立ち向かう女エルフ達への協力を彼女は申し出たのだった。


 はたして――シーマ村という不穏な名前はなんだったのか。

 全然、希代の悪女っぽいムーブをしないが、それでいいのか女社長。


 最初に見せたシーマ村スマイルはどこへいったというのか。


「いや、だから、無理にパロらなくてもいいじゃないのよ」


 こんな消化不良でいいのかどエルフさん――。


 ということでね。


 タイトルで察していただければと思います。


◇ ◇ ◇ ◇


「とりあえず、アンタらをイーグル市まで運ぶ準備にちと時間がいる。今日はここで泊まっていってくれ」


「いいの? そう言ってくれると助かるわ。こっちもちょっと色々あって迂闊に動けなくて困っていたのよね」


「そっちのお嬢さんだろ。幼児退行か……まぁ、なっちまったもんはしょうがないわね。一晩ゆっくり寝て、元に戻ってくれたらそれに越したことはないが」


 一晩も何も、さっきからずっと深い眠りの中にある新女王。

 ワンコ教授をソファーの脇においつめてぐにぐにと脚で押している。どうしていいか分からないという顔で縮こまるワンコ教授がなんとも不憫だ。


 彼女のこともそうだし、女エルフのバッドステータスもある。

 かけられた「まことの呪い」は充分に中和できておらず、いつまたあの特徴的な口調に戻ってしまうとも分からない。


 そうだと女エルフがとあることを思いつく。


「ねぇ、ここって服屋よね? もしかして、服にかけられた呪いの扱いとかも、心得があったりするの?」


「うん? まぁ、あるにはあるし、なんだったら解除もできるぞ。奥にあるクリーニング施設で、汚れも呪いも一発よ。人間にかかったのもどうにかできる」


「……いよっし!! ラッキー!!」


 解呪方法が分からず困っていた「まことの呪い」に思わぬ形で光明が差した。

 もしやと思って聞いてみるものだと彼女は手を叩く。

 餅は餅屋。呪いは呪い屋だが、その呪いがかかっているのは服でもある。服屋に聞くというのは、女エルフにしては珍しく的を射た発想だった。


 服の呪いと言えばとシーマ村の社長が意味ありげな顔をする。


「破壊神さまが作られた『ダブルオーの衣』っていう装備がある。身につけることで身体能力を極限まで高めると言われているが、同時に精神に深く干渉して変調を来すアイテムだ。旅の途中で見かけても、くれぐれも触れないようにな」


「へぇ、そんなアイテムが」


「パワーアップできるなら是非とも着たい所ですが」


「やめとけやめとけ。無駄にシリアスな性格になって、バトルしないと話が進まないようなノリになるそうだ。前衛のアタッカーならまだしも、アンタ達みたいな後衛職が身につけるもんじゃない」


「ふぅん。けど、そうは言われてもどういうものか分からないんじゃねえ」


「具体的にどういう衣装なのかはご存じないんですか?」


 分からんと申し訳なさそうに頭を下げる女社長。


 本当に分かっていないのだろう。

 分かっているなら、今の新女王の衣服で察することができるというもの。

 着るなと言われた装備が、今まさに女エルフパーティの手に渡った所なのだが、誰もそれに気づくものはいないのだった。


「ただまぁ、赤い衣装とだけは聞いているな。道ばたで拾っても、うっかり装備しないように気をつけろよ」


「流石に道に落ちてる衣装を装備なんてしないわよ。バカ言わないで」


 けらけらと女エルフは笑う。

 知らぬが仏だった。


 とりあえず女エルフの呪いを解くかと女社長が立ち上がる。ついておいでと目で誘われて女エルフが立ち上がる。他のメンバーは、旅の疲れもあるのかこのまま部屋に残るらしい。仲間達を残して彼女は女社長の背中に続く。


 事務所から伸びる廊下を歩いて少し進めば、立派なクリーニング施設がお出迎え。大きな洗濯機に乾燥機、そしてアイロンと機材は一式揃っている。

 ただまぁ、近代文明の知識がない女エルフには、それを見てもいまいちピンと来なかったが。


「とりあえず、その呪われた衣服を渡してくれ。今、身体にかかっている呪いは、そこにある浴槽でシャワーを浴びればとれるはずだから」


「オッケー分かったわ」


 言うが早いかすぐに衣服を脱ぐ女エルフ。

 たちまちすっぽんぽんになると、彼女は呪われた服を社長へと渡して、浴槽――の横にある洗濯機の前に立った。


 そう。

 先ほども言った通り、女エルフは近代文明の知識がない。

 そして、この世界では湯浴みの習慣こそあるが、個人風呂という概念がほとんどない。そんな彼女が、浴槽と言われてピンとくるはずがないのだ。


「ここに入ればいいのね……よいしょっと」


 そう言って、彼女が入ったのは洗濯機の中。そして、シャワーっていうのは何かしらと、迂闊に触ったのは洗濯機のスタートボタン。

 ごうんごうんと唸ったかと思えば、あとはご想像の通り。


「ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ!! なにこれなにこれなにこれ!!」


「……うわぁっ、なにやってんだいお前さん!!」


「なにって、浴槽に入ってシャワーを浴びようとしたんだけれど!?」


「洗濯機だが!?」


 ザ・異文化ディスコミュニケーション。


 絶妙な文化の違いに間抜けに翻弄された女エルフ。

 一度動き出した洗濯機は、そう簡単には停められない。

 激しく左右に揺らされて目を回す。いつしか悲鳴も混ざり込み、声にならない声をあげると、彼女はぐってりと頭を垂れた。


 慌てて駆けつける社長、しかし時既に遅し――。


「おっ、おろろろろろろお……」


「ぎゃぁーっ!! なにやってんだい!! そんな格好で吐くんじゃないよ!!」


 洗濯機に思いがけないダメージを与えられた女エルフは、盛大にその場に胃の中身をリバースしてしまうのだった。


 うぅん、センシティブエルフ。

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