第1122話 女エルフとダック先輩

【前回のあらすじ】


「モーラさんあかたんになったったのらー」


 うわぁ、きっつ……。


「おいこらぁ!! ヒロインになんてこと言うのらよ!!」


 脱出イカスミ怪人工場。その道中の安全確保のため、変装することになった女エルフ達。無邪気サメ、邪神タコ、女死神と、今最も熱いネットアイドルの衣装に扮する中――女エルフが選んだのはピンクのドレス。


 その特徴的なドレスを選んでしまったのがおしまいよ。

 彼女の語尾は「なのら」になってしまった。


 いったいどういうことかと調べてみれば、衣服に呪いがかかっている。その名も【まことののろい】。どうやらその語尾は、ピンクの姫様衣装を着ているネットアイドルではなく、かりあげのお子ちゃまの方に関連した語尾らしかった。


 ぐわし!!


「ぐわしじゃないわよ!! どうすんのよこれ!!」


 意味の分からない呪いを喰らって大慌て。はたしてこんなことでイカスミ怪人工場から脱出することができるのか。一難去ってまた一難のどエルフさん。


 はたして彼女達の運命やいかに。

 今週もぶっちぎりトンチキでどエルフさんはじまります。


 しかし姫、プログラミング経験あるのか。限界プログラマーでドロップアウトした僕がお守りせねば。あと、年末の即興ドラマのママ役が可愛すぎて。ツボすぎて。騎士になると同時に赤ちゃんになって一生やさしくあやされたい。(ぐるぐるおめめ)


「ダメだこいつ、すっかり沼にはまっていやがる……」


◇ ◇ ◇ ◇


「とにかく、この語尾じゃ外に出られないのらぁ!! なんとかするのらぁ!!」


「そうは言われても、解呪の方法は刈り上げしか」


「ぼっちゃんカットのヒロインなんて嫌なのらぁ!! ダサすぎるのらよぉ!!」


 試しに服を脱いでみてはどうかと提案された女エルフ。

 ギャンギャン喚いていたのを止めて、彼女はしぶしぶと服を脱ぎはじめた。しかし上着の裾に手をかけた所で動きが止まる。そして――。


【デロデロデロデロデンデデン ソウビハノロワレテイル】


 久しぶりにシステム妖精が囁いた。女エルフが身につけたドレスは呪われており、着ることはできても脱ぐことができない。スタンダードな呪いの装備だった。


 がっくりとその場に膝を折る女エルフ。せっかく可愛い服を着られたのに、こんなのってないのらよと悲しい叫びを彼女は床にぶちまけた。


 やはり女エルフ。

 どんなに頑張っても彼女はどエルフの運命から逃れることができないのか。


 打ちひしがれる女エルフに誰も声をかけることができない。そんな中、ぽんとドクターオクトパスくんが手を叩いた。

 女エルフパーティとちょっと距離を置いた彼には、女エルフが打ちひしがれているのもそれほど気にはならなかったようだ。


「だお。確か前にその服を着た人は、そんな語尾にはならなかったんだお」


「……じゃぁ、どうして私はこうなっちゃったのら」


「その時と何か状況が違っているはずなんだお。そうだお。前にその服を着た人は、関連アイテムを持っていたんだお」


 ちょっと待つんだおとざぶりと水の中に潜るドクターオクトパスくん。

 不安な顔で女エルフ達が待つと、すぐに彼はざぶりと排水溝の中から顔を出した。手にしているのは、二つの袋――。


 放物線を描いて女エルフに投げられたそれ。おそるおそる女エルフがそれに目を向けると、なんていうことはないアイテムだった。


「白衣と人形?」


「だお。【センセイの白衣】と【ダック先輩人形】なんだぞ」


 関連グッズという割にはどうにも姫様の衣装と不釣り合いなその二つ。

 どういうチョイスと女エルフ達が首をかしげる。いいから使ってみるんだぞと強引に勧められて、しぶしぶという感じに女エルフは袋の封を切った。


 白衣の方はそのまんまな感じ。ワンコ教授がいつも身につけているものとそう変わらない。着心地はいいし、なんだったらずっと着ていたいくらいのものだ。裏地が赤色になっているのに、透けて見えないのがちょっと不思議だ。


 人形の方はどうかと言えばこちらもそれほど違和感はない。普通の人形。アヒルを擬人化したような二足歩行のそれは、持つのにはちょっと苦労しそうだが、違和感のあるものではなかった。


 ただ、やはりこのドレス姿との組み合わせがわからない。


「いったいこれはどういう組み合わせなのよ?」


「だおだお。仲の良いユニットなんだお。やっぱりコスプレに必要なのは統一感なんだお」


「よく分かんないわね……」


 そこまで言って、女エルフがハッとした顔をする。

 その語尾から特徴的な言葉が消えて居る。あれだけ彼女を悩ました語尾が綺麗さっぱりととれていた。これににっこりとドクターオクトパスくんが微笑む。


「ほら、やっぱり治っているんだお。そのアイテムが一緒だと、キャラを作らなくても自然に喋れるんだお」


「キャラを作るって。それはまたなんとも失礼な」


「本当に仲のいい人と一緒だと、素が出てしまうものなんだお。それが逆にてぇてぇだったりするんだお」


 設定を忘れるほどの仲。

 なるほどそれなら確かに素が出てしまうのもしかたないかと女エルフは納得した。いやけどやっぱりおかしくないかと、ちょっと引っかかってはいたが。


 なんにしてもこれで女エルフの語尾問題については解決した――。


『おいおいおい、なんなんだグワ!! 袋の中から取り出されたと思ったら、おっぺえの小せえ女エルフに装備させられるとか!! 聞いてないグワなぁ!!』

 

「……はい?」


 どこからともなく聞こえた謎の声。

 きょとんした顔をする女エルフ一行。


 一方、一人だけ顔色が変わらないのはドクターオクトパスくん。だおだおと、彼はその触手の先を女エルフに向ける。


「喋ったのはその人形だお」


「人形? このあひるの?」


「ダック先輩人形は、トラップを察知して警告を発してくれる魔法道具なんだお。ただし、喋り方がちょっと独特で耳障りなのが玉に疵なんだお」


 ひょいと女エルフが手からダック先輩人形を持ち上げる。

 鳥を模した人形。白鳥を無理矢理二足歩行にしてみましたという不気味な怪人は、女エルフの顔の前に出るとますますその口調を激しくする。


『おっ、やるかぁ!! いいぞ、ぼこぼこにしてやるダックなぁ!!』


「本当だ、すごく耳障りな感じの喋り方』


『ダック先輩が人形だからって舐めてるダックな!! 見た目は確かにダックだけれど心は立派な戦士!! 見た目で侮ったのかお前の敗因ダック!!』


「わぁ、ほんと生意気。けど、人形だから怖くない」


『わぁっ、やめろ!! おいやめろ!! 冗談ダックなぁ!! こらーっ!!』


 突っかかってきたダック先輩を指先で突っつく女エルフ。

 なんだか生意気なことを言ってきた割には、たいしたことないダック先輩は、情けない悲鳴を上げて助けを請うのだった。

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