第1120話 どエルフさんと今一番人気のアイドルグループ

【前回のあらすじ】


 ドクターオクトパスくんはぐう聖だった。

 自分のクローンを倒し、そして食べた女エルフ達を、寛大な心でゆるすドクターオクトパスくん。彼は女エルフ達のダイナモ市脱出に協力することを申し出た。


 この章の最初に、まるで悪の領袖のように紹介されたのはなんだったのか。

 困っている人のために真摯になって対応できる。まさしく経営者としても成功者としても見習うべき立派な男だった。


「ほんとすまんかった……」


 さて。


 彼の協力を得て、いよいよダイナモ市脱出の算段を立てる女エルフ達。

 今の秘密戦隊服ではどうにも目立ってしまう。脱出するのならばもう少し人の目に留まらない格好の方がいいとオクトパスくんからアドバイスを受けて、女エルフ達は変装することにした。


 着替えるのはイカスミ怪人工場のレクリエーション用に調達された衣装。


「だお。ダイナモ市で今一番人気のあるアイドルグループの衣装だお。君たちみたいな女の子には、きっと似合うんだお」


 一人、女の子というには無理がある年齢の三百歳が混ざっているが、そこはそれ。

 細かいことは言いっこなし。


「なんでや。ええやろ、三百歳でも女の子で悪いんか」


 女エルフ達はその衣装に着替えるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「だぞーっ!! このサメのパーカーかわいいんだぞ!! あったかいし着心地もいいんだぞ!! シャーだぞ!! 食べちゃうぞだぞーっ!!」


「ダメですよケティさん、借り物のお洋服なんですからそんなに暴れちゃ。しかし、これは何がイメージなんですかね。タコにしてはなんというかこう、冒涜的な感じがひときわ強いような。もっと暗黒な神の息吹を感じてしまいます」


 青色が基調となったサメのパーカーを着るワンコ教授。

 そして、水着のように露出が多いぴっちりしたワンピース(胸は特殊加工済み)をまとった女修道士シスターが着替えを終えて出てくる。


 二人とも秘密戦隊コスチュームの時よりもチャーミング。まるでアイドルグループのかわいい系担当のような仕上がりになっていた。

 ワンコ教授はそもそも、エルフパーティー内でもそういうポジションだが、女修道士シスターがそのポジションに収まるのは珍しい。少女のような可憐な服装、そして、いつもは修道衣の中に隠している髪をたらんと外に出しているのもあるのだろう、ちょっと新鮮な感じがした。


「おぉ、コーネリアどのよく似合っているんだお。僕のお嫁さんにしたいくらいなんだお。タココス着てくれてありがとうなんだお」


「あらやだ、私としたことがオクトパスくんさんを興奮させてしまいましたね。いけませんね、ネチョられてしまう」


「だぞ。本当なんだぞ、コーネリア、似合ってるんだぞ」


「……しかし、これ、どういうアイドルグループの服装なんですか? 前の秘密戦隊の服装もですが、とんとこんなのは見た覚えがないんですが?」


 今一番人気のあるアイドルグループですよ。

 インターネッツの海の中でね。


 ここ最近ホロ○イブネタを擦ることが多い本作品。

 二人が着ているのは海外でも一・二を争う人気アイドルVの衣装――っぽい何かであった。いやまぁ、サメのパーカーなんてそうそうないんだけれども。


 同じ海繋がりだからだろうか、ドクターオクトパスくんもいい趣味をしておる。

 となると残りの二人がどういう格好をするのか――。


「お待たせしました。ちょっと衣装がゴテゴテしていて、着替えるのに手間取ってしまいました」


 更衣室から姿を現したのは、巫女姿あらためて――ドレス姿に着替えた新女王。

 思ったよりも露出が控えめ。まるで悪墜ちした女ヒロインのような衣装。どこかおどろおどろしい雰囲気のある服だった。


 海繋がりかと思いきや同期繋がり。

 新女王の服装は女死神のモノだ。


 高貴な出身の新女王。よくみるとかわいい顔の元ネタのVと同じく、ちょっとカッコいいその服装は案外似合っていた。


「だぞー、エリィも似合ってるんだぞ。かわいいんだぞ」


「そ、そうですかね? 私、こういう衣装はあまり着ないので。なんだか、ちょっと強い冒険者になった気分です」


「馬子にも衣装とは言ったものですね。素敵ですよエリィさん」


 そんな褒めないでくださいよと照れる新女王。

 ここ最近、ちょっといいところがなくって落ち込んでいた彼女だが、衣装を褒められて少しだけ機嫌が直ったようだ。えへへとはにかむ彼女の表情には、ひさしぶりに年相応の無邪気さが溢れていた。


 さて。


 そうなると残るは女エルフである。


「だぞ。モーラさん、早く出てくるんだぞ」


「そうですよモーラさん。まぁ、出落ち衣装なのはもう皆分かっているんですから。そんなに気負わないでさっさっと姿を現しましょう」


「お義姉ねえさま大丈夫です! どんなにキツい格好をしていても、エリィはお義姉さまのことを笑ったりしませんから!」


 ひどい言われようだ。


 しかし、出落ち担当とは言い得て妙である。


 前回の衣装直しでも一人だけ変身美少女の衣装があてがわれるという憂き目に遭った女エルフ。そんな彼女が、今回もまた無事な訳がない。

 絶対に、何かまた酷い格好をさせられるに決まっている――。


 女エルフのパーティは確信していた。

 これまでの流れから学習していた。

 というか、学習して備えなければ腹筋が持たなかったか。

 これは女エルフのどエルフ行動に耐えるため、後天的に彼女達が獲得したスキルの一つであった。


 女エルフのやらかしを察知して構える。


 はたしてそんな彼女達の本能が告げた危機は――。


「勝った!! どうだ見ろ!! この正統派ドレスを!! お姫様みたいじゃろがい!! これで出落ちとはいわせんからな!!」


「……え?」


「……嘘でしょ? なんでお義姉さまがまともな格好を?」


「……だぞ。お姫さまみたいなんだぞ」


 なんと珍しく裏切られた。


 EN合わせ。サメ、タコ、死神ときて、トリか探偵かと思いきや、まったく予想外のプリンセスドレス。ふりふりのピンク色の衣装に三人は驚いた。

 どうしてなのか。これまでの繋がりはいったいなんだったのか。


 そして、女エルフが普通の服を着ても、オチとしては弱いんじゃないのか。


 笑うどころか心を失ってその場に立ち尽くす女エルフパーティ。

 そんな彼女達のがっかりした視線を集めて女エルフ、おーっほっほっほとなんだか高飛車なお嬢様みたいな高笑いを上げるのだった。


「見たかこれが私の実力なのらよ!! モーラさんは、本当はやればできるヒロインなのら!!」


「「「……なのら?」」」

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